第6話:学園まるごとダンジョン化計画
「……はあ? 第七師団が、今からここに来るって?」
屋上でピアスの解析結果を見ていた俺の顔から、一気に血の気が引いた。
メグのスマホには、バハムート経由で傍受したチャットログが表示されている。
『第八の失態は、第七が塗り替える。ターゲットは一条カレン、及び例の「影の暗殺者」。放課後、学園を黒く染めろ』
終わった。
完全に終わった。
第八師団だけでも十分面倒だったのに、今度は第七師団。
しかも黒死蝶の中でも武闘派集団だ。
「WISTERIAさん」
闇風が静かに言った。
「第七師団の戦力は第八師団の二倍以上。正面戦闘は非推奨です」
「逃げる?」
メグがジュースを飲みながら首を傾げる。
「でも藤崎君の住所、もう割れてるわよ?」
「ぐっ……」
逃げても追ってくる。
なら答えは一つしかない。
俺は大きく息を吐いた。
そして脳内で学園の見取り図を展開する。
校門。
昇降口。
階段。
教室。
体育館。
渡り廊下。
全てが見慣れた校舎ではなく、一つの巨大レイドマップへと変わっていく。
その瞬間だった。
恐怖が消えた。
代わりに現れたのは、数々のMMOを攻略してきたギルドマスターWISTERIAの思考。
「……そうか」
「なら逆だ、学園をダンジョンにしてやる」
闇風が頷く。
メグがニヤリと笑った。
二人とも俺の考えを理解したらしい。
「メグ」
「素材を全部出せ」
「闇風はトラップ設置」
「俺はレイド編成を組む」
「了解です」
「任せなさい」
数分後。
俺達は放送室へ突入していた。
放送部員達は驚いていたが説明している時間はない。
闇風が事情を説明し、俺はその隙にマイクを握った。
深呼吸。
(《偽音声》発動!校長の声を模倣する!)
咳払いをし全校放送を開始する。
『全校生徒に告ぐ』
校内が静まり返る。
『現在、本校へ大規模不良組織「黒死蝶」第七師団が接近中』
悲鳴が聞こえた。
ざわめきが広がる。
だが俺は止まらない。
『皆さん、落ち着いて聞いてください』
『これは避難訓練ではありません』
『学園防衛戦です』
校内が一気に騒がしくなる。
当然だ。
普通ならパニックになる。
だが俺には経験があった。
数百人規模のレイドを指揮した経験が。
重要なのは混乱させないこと。
役割を与えることだ。
『ラグビー部は昇降口へ集合』
『第一防衛線を担当』
『敵を止めてください』
放送を聞いていたラグビー部員達が顔を見合わせる。
『剣道部は第二防衛線』
『ラグビー部が足止めした敵を迎撃』
『柔道部、空手部は各階の防衛支援』
『放送委員会は情報伝達』
『保健委員会は保健室を拠点に負傷者対応』
『生徒会は全体統括補助』
次々と指示を飛ばしていく。
まるでMMOそのものだ。
タンク。
アタッカー。
ヒーラー。
サポーター。
役割さえ決まれば集団は強くなる。
『一般生徒は教室へ避難』
『机と椅子でバリケードを構築』
『廊下には絶対に出ないでください』
ざわめきが少しずつ収まっていく。
人はやるべきことが分かると落ち着く。
そして最後に。
『一条副会長及び生徒会役員は屋上へ』
『そこを最終防衛ラインとします』
『以上です』
放送を切る。
静寂。
数秒後。
校内全体が動き出した。
窓から見える校庭。
ラグビー部が昇降口へ向かって走っている。
剣道部も竹刀を持って移動していた。
保健委員は保健室へ。
生徒会も連絡役として動き始める。
「すごい……」
メグが呟いた。
「本当に動き出した」
「人間は役割を与えれば勝手に動く」
俺はモニターを見ながら言った。
「レイドと同じだ」
その頃。
闇風は既に学園各所へトラップを仕掛けていた。
北階段には特殊オイル。
長い廊下には粘着剤。
防火扉には煙幕。
どれも単体では大したことはない。
だが組み合わせれば凶悪になる。
「A-3配置完了」
「C-7配置完了」
「D-5配置完了」
報告が飛んでくる。
俺は満足そうに頷いた。
「よし」
「これでダンジョンは完成だ」
そして数十分後。
校門の前に黒い集団が現れた。
黒死蝶第七師団。
その数は数十人。
先頭の男が校舎を見上げて笑う。
「ガキ共の城ごっこもここまでだ」
その瞬間。
昇降口の前で待機していたラグビー部主将が前へ出て挑発する。
「来いよ」
第七師団員が突撃する。
次の瞬間。
ドゴォッ!!
強烈なタックルが炸裂した。
「なっ!?」
吹き飛ばされる不良。
続けて後続も突っ込む。
待っていたのはラグビー部員達の壁だった。
完全な足止め。
そして。
「剣道部!」
生徒会の号令が響く。
「応ッ!!」
竹刀を持った剣道部員達が一斉に飛び出した。
面。
胴。
小手。
次々と不良達を無力化していく。
校舎全体が戦場になっていた。
俺はモニターを見つめる。
震える足を必死に押さえながら。
「……よし」
「ハマった」
「完全にハマったぞ」
モニターの向こうで第七師団は混乱していた。
階段で滑る。
煙幕で視界を失う。
ラグビー部に足を止められる。
剣道部に叩かれる。
そして保健委員が負傷者を回収する。
完璧な役割分担。
「流石ですWISTERIAさん」
闇風が静かに言った。
「学園全体が一つのレイドパーティとして機能しています」
「だろ?」
俺は乾いた笑いを浮かべた。
「ゲーマーを舐めるなよ」
だが。
その時だった。
モニターの一つが大きく揺れる。
複数のラグビー部員が吹き飛ばされていた。
画面の中央。
そこには一人の巨漢が立っている。
黒死蝶第七師団長。
「……来たか」
俺は息を呑んだ。
レイドボスの登場だった。
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