第68話:能力なき戦い
「いい反応だ」
神権騎士団第三部隊隊長ガルムが戦斧を振り上げる。次の瞬間、未来予知で見えた死のビジョンそのままに、巨大な一撃が玉座の間を叩き割った。
ドゴォォォォォン!!!
床が吹き飛び、衝撃波が周囲へ広がる。
「くっ!」
俺たちは咄嗟に後方へ飛び退いた。
「なんて馬鹿火力よ!」
カレンが舌打ちする。
第五師団長ほど理不尽ではない。だが純粋な戦闘能力だけなら今まで戦った敵の中でも上位だ。レベル39。さらに神権騎士団第三部隊を率いる隊長格。その肩書きに偽りはないらしい。
「逃がさん!」
ガルムが突進する。
重装甲とは思えない速度。
戦斧が横薙ぎに振るわれた。
俺は未来予知で軌道を読み、寸前で回避する。
だがその直後だった。
【解析進行率:51%】
赤いログが視界に浮かぶ。
上がっている。
戦えば戦うほど。
未来予知を使えば使うほど。
アルゴの解析は進んでいく。
「なるほど」
上空からアルゴの声が聞こえた。
「未来予知発動時の視線移動パターンを確認」
【解析進行率:53%】
「飛翔斬撃の溜め動作も把握」
【解析進行率:54%】
「隠密発動前の重心移動も見えてきた」
【解析進行率:55%】
数字が止まらない。
まるで俺たち全員が解体されていくようだった。
「青真!」
ルシウスが叫ぶ。
「このままでは!」
「分かってる!」
俺も気付いていた。
ガルムは強い。
だが本当の敵はアルゴだ。
第三部隊は俺たちを倒すためにいるんじゃない。
俺たちの戦闘データを収集するための実験台だ。
未来予知を発動する。
数秒先。
そして見えた。
勝利の可能性。
「全員聞け!」
俺は意念伝達を最大出力で展開した。
(スキルを使うな)
一瞬、全員の思考が止まる。
(えっ!?)
(何だと?)
(正気ですか?)
当然の反応だった。
だが俺は続ける。
(アルゴの解析対象は能力だ。なら能力を見せなければいい)
沈黙。
そして最初に理解したのはカレンだった。
(……なるほど)
(やれるか?)
(誰に言ってるのよ)
不敵な笑みが脳内越しに伝わってくる。
メグも頷いた。
闇風は無言。
ルシウスも剣を握り直す。
作戦は決まった。
「何を相談している!」
ガルムが再び突撃する。
その瞬間。
カレンが飛び出した。
だが飛翔斬撃は使わない。
純粋な剣技だけで斬りかかる。
「なにっ!?」
ガルムが驚く。
続いて闇風。
隠密を使わず、壁や瓦礫を利用して死角へ回り込む。
メグもゴーレムを出さない。
落ちている残骸を利用して援護する。
そして俺も未来予知を最小限まで抑えた。
アルゴの解析速度が目に見えて落ちる。
【解析進行率:56%】
数字が止まった。
「面白い」
初めてアルゴの声に感情が混じった。
だがもう遅い。
俺たちは元々こうやって戦ってきた。
チート能力など持たなかった頃から。
プレイヤースキルだけで。
「舐めるなぁぁぁ!!」
ガルムが咆哮する。
戦斧が振り下ろされる。
だがその軌道は読めていた。
カレンが躱す。
ルシウスが受け流す。
闇風が背後へ回る。
そして俺が指示を飛ばす。
完璧な連携。
百華繚乱の原点。
「馬鹿な!」
ガルムが叫ぶ。
「能力を使わず、なぜここまで動ける!?」
俺は剣を構えた。
「お前らと違うんだよ」
ガルムの懐へ踏み込む。
「俺たちは能力が強いんじゃない」
カレンが左から斬り込む。
ルシウスが正面を押さえる。
闇風が背後へ回る。
「俺たち自身が強いんだ」
ガルムの動きが止まる。
その一瞬。
闇風の双剣が鎧の隙間へ突き刺さった。
ズシャァァァァッ!!
「ぐああああああっ!?」
続けてカレンの一撃。
ルシウスの神聖剣。
剣が交差する。
ガルムのHPバーが一気にゼロまで削り切られた。
「ば……かな……」
巨体が崩れる。
神権騎士団第三部隊隊長ガルム。
討伐完了。
騎士たちに動揺が走る。
第三部隊は完全に瓦解した。
だが。
「なるほど」
上空から静かな声が降る。
アルゴだった。
眼鏡の奥の瞳が細められる。
【解析進行率:61%】
「能力を封じて戦うとは予想外だ」
俺の背筋に冷たいものが走る。
「だが面白い」
アルゴは笑った。
「能力だけでなく、君たち自身の戦闘思考も解析対象だからね」
【解析進行率:62%】
数字が上がる。
ガルムは倒した。
だが。
本当に厄介なのは、まだ一度も本気で戦っていない男だった。
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