第67話:第三部隊隊長ガルム
「神権騎士団よ――百華繚乱を排除しろ」
アルゴの命令が下された瞬間、玉座の間を埋め尽くす騎士たちが一斉に前進した。白銀と黒鉄が入り混じる重厚な鎧。ブラッドチェインとは比較にならない統率力。足音だけで床が震える。第五師団長を倒した直後だというのに、休む暇すら与えてくれないらしい。
「来るぞ!」
俺は即座に『意念伝達』を展開した。
(メグ、右側通路を塞げ! カレンは前衛を崩す! 闇風は後衛! ルシウスは中央支援!)
(了解!)
脳内で返事が重なる。
次の瞬間、メグの『人形創造』によって巨大な岩壁が出現した。回廊への退路を封鎖し、敵軍を玉座の間へ閉じ込める。
「飛ばすわよ!」
カレンの『飛翔斬撃』が炸裂した。
暴風を纏った斬撃が前列の騎士たちをまとめて吹き飛ばす。さらにその隙を突き、闇風が影の中から現れた。
「――遅い」
双剣が閃く。
後衛の魔導士たちが悲鳴を上げる暇もなく光の粒子へと変わった。
俺も未来予知を発動しながら前線へ飛び込む。数秒先の未来を見ながら剣を振るう。敵の攻撃はすべて読める。第五師団長との死闘を乗り越えた今の俺たちは強い。
神権騎士団の団員たちは次々と倒れていった。
「押してる!」
メグが声を上げる。
実際、その通りだった。
だが俺は違和感を覚えていた。
勝っている。
それなのに妙な不安が消えない。
視線を上げる。
崩壊した玉座の上空。
アルゴは腕を組みながら静かに戦場を観察していた。
【解析進行率:42%】
赤いログが視界に浮かぶ。
「……っ」
上がっている。
俺たちが戦えば戦うほど。
アルゴの神の術式『解析と予測』が進行している。
「なるほど」
アルゴが呟く。
【解析進行率:43%】
「未来予知は思考補助ではなく未来観測型」
【解析進行率:44%】
「飛翔斬撃は吸引判定を利用した拘束技」
【解析進行率:45%】
数字が増えていく。
まるで俺たちの能力が解剖されていくようだった。
「青真!」
カレンの声が飛ぶ。
その瞬間。
ドゴォォォォォン!!
戦場の中央が爆発した。
騎士たちが吹き飛び、床が陥没する。
巨大な戦斧が地面へ叩き付けられていた。
「そこまでだ」
低い声が響く。
騎士たちが一斉に道を開く。
その中央から現れたのは、身の丈を超える大戦斧を担いだ巨漢だった。
全身を覆う黒銀の重装甲。
頭上にはレベル39の表示。
そして胸元には、他の騎士よりも大きな紋章が刻まれている。
「隊長殿!」
周囲の騎士たちが歓声を上げた。
男はゆっくりと戦斧を持ち上げる。
「神権騎士団第三部隊隊長――ガルム」
重圧が広がる。
今までの敵とは明らかに格が違う。
ルシウスの表情も険しくなった。
「この魔力……第五師団長には及ばないが、それに近い……!」
「嘘でしょ……」
メグが息を呑む。
ガルムは俺たちを見回し、不敵に笑った。
「なるほど。これが百華繚乱か」
その視線が俺で止まる。
「特に貴様だな。アルゴ様が興味を持っている軍師というのは」
アルゴ様。
その呼び方が少しだけ引っ掛かった。
だが考える余裕はない。
ガルムが戦斧を肩へ担ぎ直す。
「雑兵共では相手にならん。ならば俺が直々に潰してやる」
その瞬間。
未来予知が警鐘を鳴らした。
視界が赤く染まる。
見えた未来は単純だった。
巨大な戦斧。
圧倒的な破壊力。
そして正面から押し潰される俺たち。
「全員、来るぞ!」
俺が叫ぶ。
ガルムが嗤う。
「いい反応だ」
戦斧が振り上げられる。
玉座の間全体を揺るがすほどの殺気が放たれた。
上空ではアルゴが静かに眼鏡を押し上げる。
【解析進行率:48%】
その数字だけが、不気味なほど静かに上昇していた。
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