第66話:解析者アルゴ
ギルドマスターを倒したはずの玉座の間に、再び異質な起動音が響いていた。
【接続確認:外部権限リンク】
【識別コード:IA-04】
【ユーザー認証:完了】
【神の術式起動】
崩壊した玉座の上空に開いた亀裂。その向こうから、一人の男がゆっくりと姿を現す。黒いロングコート。銀縁の眼鏡。武器らしい武器は持っていない。第五師団長のような圧倒的な威圧感も感じない。だが、その男を見た瞬間、俺の背筋には別種の寒気が走った。まるで全身を隅々まで観察されているような、不快な視線。敵意よりも知的好奇心を向けられている感覚が、逆に不気味だった。
「素晴らしいよ、百華繚乱」
男は静かに拍手を続けながら微笑む。
「彼の『創造と破壊』を攻略するとは思わなかった。正直、予想以上だ。特に最後の処理順序を利用した仕様ハックは興味深かった」
「誰だ、お前」
俺が問いかけると、男は丁寧に一礼した。
「管理者『アルゴ』。アイアングリッチ所属だ」
その名前を聞いた瞬間、カレンの表情が険しくなる。
「アイアングリッチ……!」
ルシウスも驚きを隠せない様子だった。
「まさか、本当に存在していたのですか……」
アルゴは小さく笑った。
「彼が力を振るう戦士なら、私は研究者だ。神の術式をただ振り回すだけでは面白くないからね」
その瞬間、俺の視界に赤いログが表示された。
【解析対象認識】
【対象:プレイヤーネームWISTERIA(藤崎青真)】
【データ収集開始】
「……何をした?」
「何もしていない。見ているだけだよ」
アルゴは当然のように答える。すると俺のステータスウィンドウが勝手に展開された。未来予知。意念伝達。保有スキル一覧。レベル。通常なら本人以外が閲覧できない情報が次々と表示されていく。
「うそ……勝手にステータスを見られてる!?」
メグが青ざめる。
「これが私の神の術式――『解析と予測』だ」
アルゴは眼鏡を押し上げた。
「解析は対象の能力、戦闘傾向、思考パターンを読み取る権能。そして予測は、その解析結果から次の行動を導き出す権能だ」
俺は即座に理解した。
厄介だ。
第五師団長よりも厄介かもしれない。
「ちなみに君の未来予知は非常に興味深い。数秒先を観測し、その結果から最適解を組み立てる能力。そして意念伝達で仲間と共有する。だから百華繚乱の連携は成立している」
全員の表情が変わった。
「なぜそこまで分かる」
「解析したからさ」
アルゴは平然と答える。
【解析進行率:18%】
「解析は継続型だ。一度では断片的な情報しか取れない。だが認識を重ねるほど精度は上がる。そして一定値を超えると能力の本質に到達する」
「到達したらどうなる」
俺の問いに、アルゴは初めて笑みを深めた。
「封殺できる」
空気が凍った。
「未来予知なら予知の癖を理解する。飛翔斬撃なら発動軌道を理解する。人形創造なら生成座標の傾向を理解する。隠密なら潜伏ルートを理解する。つまり君たちは戦うほど私に対策される」
【解析進行率:27%】
「君たちは戦闘を重ねるほど弱くなるんだよ」
俺は試しに未来予知を発動した。
だが見えた未来は異様だった。
アルゴは動かない。
攻撃もしない。
それなのに俺たちは敗北していた。
戦闘過程が存在しない。
結果だけが敗北へ繋がっている。
「……っ!」
するとアルゴが微笑んだ。
「今、未来予知を使ったね」
全員の顔色が変わる。
「なぜ分かる」
「簡単だよ。もう君の思考パターンの一部を解析済みだから」
【解析進行率:35%】
数字が上昇する。
その表示を見た瞬間、俺は確信した。
こいつは第五師団長とは違う怪物だ。
力ではなく知性で相手を追い詰める存在。
そして最悪なことに、その戦い方は俺自身とよく似ていた。
「なるほど」
アルゴが静かに呟く。
「初期解析は十分だ」
その瞬間、未来予知が激しく警鐘を鳴らした。
視界が真っ赤な死のログで埋め尽くされる。
(――来る!?)
「青真!」
カレンの叫びが響く。
俺たちは反射的に武器を構えた。
だがアルゴは攻撃しなかった。
代わりに静かに指を鳴らす。
パチン――。
その瞬間、玉座の間全体を覆う巨大な魔法陣が床一面に展開された。白銀と漆黒が混ざり合う複雑な紋様。第五師団長のバグコードとも、ルミナスの精霊術とも違う、統率された軍勢のための召喚陣だった。
【神権騎士団転送プロトコル起動】
【転送座標固定】
【直属部隊接続開始】
「なっ……!?」
ルシウスが目を見開く。
次の瞬間、空間が裂けた。
そこから現れたのは、純白と漆黒の鎧を纏う騎士たちだった。
一人、二人ではない。
十人。
二十人。
五十人。
瞬く間に百人近い騎士たちが玉座の間を埋め尽くしていく。
その全員が高レベル帯。
しかも最前列には、明らかに格の違う重装騎士や魔導騎士たちが並んでいた。
「こいつら……!」
カレンが剣を構える。
「紹介しよう」
アルゴは穏やかに笑う。
「アイアングリッチ直属戦力――神権騎士団だ」
神権騎士団。
その名を聞いた瞬間、ルシウスの表情が険しくなった。
「まさか……伝説ではなく実在していたとは」
アルゴは楽しそうに続ける。
「私は研究者だからね。いきなり君たちを壊すつもりはない」
【解析進行率:41%】
赤いログが浮かび上がる。
「君たちは実に面白いサンプルだ。だからもう少し観察させてもらう」
神権騎士団の騎士たちが一斉に剣を抜いた。
金属音が玉座の間に響き渡る。
俺は未来予知を発動する。
見えた未来は――。
騎士団との激戦。
そして、その全てを後方から眺めながら解析率を上げ続けるアルゴの姿だった。
「全員、戦闘準備!」
俺は即座に意念伝達を発動した。
神権騎士団。
そして解析者アルゴ。
第五師団長との戦いが終わったと思った矢先、俺たちの前には新たな戦争の幕が上がろうとしていた。
読んでいただきありがとうございました!もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援してもらえると励みになりま
す!




