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第64話:仕様の果て、神へのチェックメイト

「――【創造】と【破壊】の前に、全てのロジックは無に帰す。消え失せろ、百華繚乱!」

第五師団長の咆哮と共に、玉座の間を埋め尽くした真紅のノイズが一斉に牙を剥いた。あらゆる装備、耐性、防壁オブジェクトをドロリと溶かす『破壊』の波動。まともに喰らえば、レベル35まで跳ね上がった俺たちのHPバーなど1秒も持たずに消滅する。


(……だが、どれだけ無敵のチートコードだろうと、このゲームのエンジン上で動いている以上、必ずシステム的な『処理の優先順位』が存在する!)


俺の脳細胞は、絶望のプレッシャーの中で逆に未知の領域へと加速していた。固有スキル『未来予知』と『意念伝達』を限界を超えてオーバードライブさせる。網膜に焼き付くのは、3秒後、5秒後、10秒後の死のビジョン――だが、その無数の赤ログの隙間に、一筋の『仕様の死角』が浮かび上がった。


(全員、俺の意識に同期しろ! これが最後のハめ技アルゴリズムだ。ルシウス、あんたの神聖魔法を導火線にする!)

(――了解です。我が命、この一撃に捧げましょう!)

脳内で直結したルシウスが、一切の躊躇なく白銀の長剣を天に掲げた。


「『神聖絶対領域ホーリー・サンクチュアリ』!!」

彼が放ったのは、神聖騎士団の秘奥義である超広範囲の無敵結界。だが、第五師団長の『破壊』の権能は無情にもその結界のコードを瞬時に侵食し、ガラスのように砕き割っていく。

(メグ、結界が割れる『1フレーム前』、ルシウスの背後にゴーレムを創造! 物理演算の衝突判定を発生させろ!)

(いっけぇぇぇぇ!!)


メグの『人形創造クリエイトゴーレム』が炸裂。結界が完全に崩壊する直前、ルシウスの背後に巨大な岩石の壁が出現した。


システム上の判定は【無敵結界の消滅】と【新規オブジェクトの出現】、そして【前方からの破壊波動の直撃】。

この3つの莫大なデータ処理が1フレームに凝縮された瞬間、サーバーの物理演算エンジンが「どちらの処理を優先すべきか」のラグを起こした。


「な、に……!? 破壊の波動が……相殺されただと!?」

第五師団長が驚愕の声を上げる。

相殺ではない。あまりの超高負荷データが一点に集中したことで、神の術式の『破壊判定』がコンマ数秒だけシステム的に遅延したのだ。


(カレン、今だ! 奴の右斜め前方、神威の長剣の物理演算が切れる瞬間の隙間に『飛翔斬撃』を叩き込め!)

「これで……終わりにするッ!!」

カレンの身体がルシウスのバフを受けて神速の領域へと跳ね上がる。放たれた真空の刃は、破壊の権能が一瞬だけフリーズした第五師団長の喉元へと正確に奔った。


ドガァァァン!!と激しいスパークが散り、強固なバキュームの檻がギルドマスターの巨体をその場に完全固定バインドする。


「おのれェェッ! 動きを、止められた……!? だが、私の『創造』の権能があれば、このような拘束バフなどノータイムで――」

(――させないよ!)

メグがノートPCのキーを猛烈な速度で叩く。彼女が実行したのは、先ほどルミナスを倒した際にぶっこ抜いた「四大精霊の残存パケット」の強制解放。


玉座の間の床から、炎、水、風、土の精霊の残響が一斉に顕現し、第五師団長の手元に『創造』されかけた新たなチート武器の座標データを、属性過負荷によって強引に上書き・バグ消去した。


「ば、馬鹿な……武器の生成コードが、拒絶された……!?」

「神の力だろうと、この世界のシステムを越えることはできない。――闇風、影を駆けて底を抜けろ!」

(――ハッ!)

完全な無防備。チートの二大権能をシステム仕様のハックによって完全に封じられた第五師団長の死角。


影の中から、漆黒の光を纏った闇風が音もなく躍り出た。新スキル『隠密』の極致。ギルドマスターの探知ログがアサシンのアバターを認識した時には、すでに闇風の双剣が奴の心臓部システムコアへと深く、深く突き刺さっていた。

ズシャァァァァッ!!!


「ガハッ……あ、あり得ん……私が、黒死蝶の第五師団長であるこの私が……レベル35の、ただのプレイヤーのロジックに、1歩も動けずハめ殺されるなどと……ッ!!」

絶叫と共に、第五師団長の頭上のHPバーが完全にゼロを割り込んだ。


奴の纏っていた漆黒のオーラが霧散し、その身体がバキバキとガラスが割れるような音を立てて激しくひび割れていく。

「仕様の死角を突かれたら、神様だってただのデータなんだよ。……チェックメイトだ、ギルドマスター」

青真が冷徹に言い放った瞬間、隔離サーバーの絶対的な支配者だった巨体は、眩いばかりのポリゴンピースへと分解され、世界の終わりを告げるかのように、玉座の間全体へと光の塵となって弾け飛んだ。


【――隔離サーバー、リベラル・ワールドのシステム中枢の解放を確認】

【ブラッドチェイン・ギルドマスターの討伐ログを記録しました】


視界を埋め尽くす勝利のシステムログ。

ルシウスが長剣を収め、カレンとメグ、そして闇風が俺の元へと駆け寄ってくる。

現実世界リアルからの因縁、そしてこのデスゲームの支配構造を、俺たちは持てる全てのスキルと魔法、そして『仕様ハック』の総力戦で、完全に打ち破ってみせたのだ。

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