第63話:神威の解放
玉座の間を揺るがす漆黒のオーラの中、俺は不敵な笑みを崩さなかった。
「アルゴリズムのコピーだと? ――ハッ、やれるもんならやってみろよ。お前が読んでいるデータが、すでに『古い』ってことを教えてやる」
俺は即座に『意念伝達』の出力を最大まで引き上げ、4人の脳内へ同時にログを叩き込んだ。
(――全員、ギルマスがこちらの動きを『先読み』してくる前提で動け。思考の裏をかくぞ。メグ、まずは定石通りに右だ!)
「いっけぇぇぇ! 突撃、ゴーレム!」
メグの叫びと共に『人形創造』が発動。ギルマスの右側に巨大な岩石の巨人が出現する。ギルマスは冷酷に笑い、学習したデータ通りに左へと完璧なステップを踏んだ。
だが、それこそが俺の描いた『偽装ログ』の罠だ。こちらの思考を読み取っているからこそ、その裏の裏を突く。
(カレン、左の着地予測座標へ最大出力! 闇風、その影に潜め!)
「そこよ! これで……終わりよぉッ!!」
ギルマスが着地した瞬間、カレンの『飛翔斬撃』が完全にその座標を捉えた。猛烈な真空のバキュームが発生し、ギルマスの巨体を玉座の前へと引き戻し、完全にモーション硬直の檻に閉じ込める。
「なっ……先読みの、さらに先を読んだというのか……!?」
驚愕に目を見開くギルマス。その完全な死角、無防備となった背後の影から、闇風の双剣が閃光となって伸びる。
「――仕留める」
ドスゥッ!!!と、鈍い音が響き、闇風の刃がギルマスの背中を深く貫いた。さらに正面からは、ルシウスが神聖な魔力を限界まで込めた長剣を、その胸元へと容赦なく叩き込む。光の粒子が爆発し、ギルマスの巨体が大きくのけぞった。
「ガハッ……ッ! この、虫ケラどもが……!」
レベル表示すらノイズで歪むボス相手に、1ミリの遅延もない『4人ハメ』のコンボが完全にクリーンヒットする。ギルマスの莫大なHPバーが、一気にレッドゾーンへと削り込まれていく。
完全に俺たちの勝ちパターンだ。数々の無理ゲーを仕様ハックで覆してきた俺たち5人は、確実に奴を極限まで追い詰めていた。
だが――。
「……待て。この無駄のないハメ殺しのアルゴリズム。コンマ数秒のシステム硬直を突く容赦のない戦術、そして、この完璧なまでの精神リンク……」
血を吐きながら、ギルマスの歪んだ視線が、真っ直ぐに俺――青真へと向けられた。
その瞳の奥に、過去の屈辱と猛烈な憎悪の炎が燃え上がる。
「……思い出したぞ。忘れるはずもない。《現実世界》で、我が『黒死蝶』の計画を、悉くバグハックで叩き潰した……あの時のガキどもかッ!!!」
玉座の間が、ビキビキとガラスが割れるような音を立てて軋み始めた。
「偶然のエンカウントかと思えば、まさか自ら私の領域へ飛び込んでくるとはな……! 面白い。データ(過去)の因縁、今ここで完全に消去してやる!」
ギルマスが両腕を掲げた瞬間、サーバーの中枢システムが悲鳴を上げた。
赤いエラーログが視界を埋め尽くし、天井でのたうつバグコードが、一斉に奴の身体へと収束していく。空間そのものが歪み、システムが書き換わっていく。
『警告:システム領域への不正アクセスを検知』
『固有権能――【神の術式】が解放されます』
「受け取るがいい、アイアングリッチより賜った、世界を統べる神の権能を! ――【創造】と破壊】ッ!!」
ギルマスの手元に、まばゆいノイズと共に、見たこともない禍々しい神威の長剣が『創造』される。いつでも、どんな強力な武具でもノーコストで生み出すチート。さらに、奴の全身から放たれる漆黒のオーラは、あらゆる装備、耐性、オブジェクトを無に帰す『破壊』の概念を帯びて膨れ上がっていった。
「くっ……! 全員、下がれ! 奴の纏っているバグコードは次元が違う! メグの壁もルシウスの盾も機能しないぞ!」
俺の叫びも虚しく、玉座の間全体が、ドロリとした真紅のノイズの海へと書き換えられていく。
どんな戦術も、あらゆる耐性も、すべてを上から殴り倒すチートの暴力。かつて現実を絶望に染めた第五師団長の、真の切り札が牙を剥く。
あまりのプレッシャーに床が消滅し、俺たちは底知れぬバグの深淵へと足を踏み入れる。
「さあ、第二ラウンドだ、ガキども、お前たちの小賢しい仕様ハックごと、塵に還れ」
絶望的な神の力を前に、俺たちは武器を構え直すしかなかった。だが、俺の軍師としての脳は、まだ諦めてはいなかった。
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