第61話:蹂躙の回廊
ブラッドチェインの根城、その漆黒の回廊は不気味なほどに静まり返っていた。
だが、その静寂は、俺たちの前に立ち塞がった巨大な影によって一瞬で引き裂かれた。
「ここまでだ、ネズミども。ここから先はギルドマスターの聖域。一歩たりとも通さん!」
回廊の狭い通路を完全に塞ぐように現れたのは、身の丈を越える巨大なタワーシールドと、禍々しい棘の付いた大槌を構えた重装の幹部――『金剛のボロ』。その頭上に浮かぶレベルは、なんと37。
さらにその後方、天井の梁の上には、怪しく発光する魔導書を開いた女幹部――『幻影のサリア』レベル36が不敵な笑みを浮かべていた。
「正面の神聖騎士団に全力を割いているとはいえ、流石に幹部が2人も残っていたか……!」
ルシウスが長剣を構え、鋭い視線を走らせる。
「問題ない。この狭い一本道なら、むしろ俺たちの独壇場だ!」
俺は即座に『意念伝達』を起動し、4人とルシウスの脳内を直結した。
(――全員、まずは前衛のボロを完全固定する。メグ、奴の真後ろだ!)
「任せて!」
メグの『人形創造』が発動。ボロの巨大な巨体の真後ろの空間に、通路を完全に密閉する強固な岩石の壁がノータイムで出現した。
「な、にッ……退路を塞いだだと!?」
「逃がさないわよ!」
ボロが驚愕した瞬間、カレンの『飛翔斬撃』が炸裂。真空の暴風がボロの巨体を岩壁へと激しく押し付け、タワーシールドごと完全にその場に縫い付けた。
(闇風、サリアの詠唱を止めろ。ルシウス、ボロへ特攻!)
(了解です!)
ルシウスの長剣が神聖な魔力を帯て一閃。身動きの取れないボロの分厚い鎧を、光のエンチャントが容易く一刀両断にした。
『――幹部:ボロを討伐しました』
『経験値パケットの同期を実行……プレイヤーのレベルが上昇します』
『レベル25 ――> レベル31』
「ガ、ハッ……馬鹿な、1歩も動けず……ッ!」
ポリゴンピースとなって霧散していくボロの光を浴びながら、俺たちの身体に凄まじい全能感が駆け巡る。ステータスが一気に跳ね上がった。
「ボ、ボロが一瞬で!? 嘘でしょう、この侵入者ども、何なのよ!」
天井のサリアが顔を戦慄かせ、広範囲の混乱デバフ魔法を起動しようとする。だが、レベル31に上がったアサシンの『隠密』を、彼女の探知ログが捉えられるはずもなかった。
「……終わりだ」
サリアが魔法を放つより早く、影から出現した闇風の双剣が彼女の胸元を深く切り裂いた。
「いやぁぁぁぁッ!」
致命傷を負って天井から落下するサリアへ、俺は『意念伝達』で最後の座標を送る。
カレンの追撃の飛翔斬撃が彼女を容赦なくハメ殺し、2人目の幹部もまた、空中で無惨な光の粒子へと分解されていった。
『――幹部:サリアを討伐しました』
『経験値パケットの同期を実行……プレイヤーのレベルが上昇します』
『レベル31 ――> レベル35』
ピピピピピピ、と鼓膜を叩くシステム音が鳴り響き、俺たちの頭上のレベル表示が、ついにあのギルと同じ『35』へと書き換わった。1人目より必要経験値が跳ね上がっていたはずだが、幹部2人の莫大なパケットが俺たちを完全に引き上げたのだ。
筋肉の躍動、魔力の奔流、すべてが数分前とは次元の違う領域へと進化している。
「素晴らしい……。かつては1人倒すのすら組織の総力を挙げる必要があった幹部クラスを、まさか無傷、それも数秒の連携でキルしてしまうとは」
ルシウスが驚嘆の声を漏らし、同時にその顔をかつてないほど引き締めた。
回廊の突き当たり。そこには、禍々しい黒死蝶の紋章が刻まれた、巨大な玉座の間の扉が鎮座していた。その隙間からは、サーバーそのものを物理的に歪ませているかのような、圧倒的なバグコードのプレッシャーが漏れ出している。
「この扉の向こうに、すべての元凶……黒死蝶の第五師団長とサブマスターがいます」
俺はレベル35に到達した己の掌を一度強く握り締め、不敵に笑って扉を見据えた。
「待たせたな、ギルドマスター。あんたが収集した俺たちの『過去のデータ』が、どれだけ使い物にならないか……今すぐその身で教えてやるよ」
読んでいただきありがとうございました!もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援してもらえると励みになりま
す!




