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第60話:戦火の咆哮

神聖騎士団の地下本拠地から地上へと続く巨大な昇降機が、重い駆動音を立てて上昇していく。

その上に並び立つのは、副団長ルシウスを筆頭とした、白銀の甲冑に身を包む数百人の精鋭プレイヤーたちだった。

地上へ出た瞬間、視界に飛び込んできたのは、隔離サーバーの暗雲立ち込める空と、整然と隊列を組む神聖騎士団の全軍の姿だった。数千人規模の白銀の軍勢が、静まり返った廃墟の街並みを埋め尽くしている。これだけのプレイヤーが一堂に会する光景は圧巻の一言だった。


「これだけの規模の戦争になるなんてね……」

メグがゴクリと息を呑み、カレンが腰の剣の柄を強く握りしめる。俺たちのすぐ隣では、アサシンの闇風がすでに気配を薄め、鋭い視線で前方を見据えていた。

「青真殿、行きましょう。我々の、そしてこのサーバーの未来を取り戻す戦いです」


ルシウスが長剣を抜き放ち、眩い光のバフを軍勢全体へと行き渡らせた。

「ああ、いこう。ブラッドチェインの好き勝手も、今日で終わりだ」

俺の言葉と同時に、神聖騎士団の総進軍が開始された。

地響きのような行軍の足音が、隔離サーバーの静寂を物理的に踏み潰していく。目指すは、エリアの最深部にそびえ立つブラッドチェインの根城――要塞化されたシステム中枢エリアだ。

俺たちが城門へと迫ると、要塞の黒い城壁の上が真紅のノイズで埋め尽くされた。


「ネズミどもが、総力戦のつもりか! 一人残らずハメ殺せッ!」

城壁の上から、ブラッドチェインの群勢がバグ武装アイアングリッチを一斉に起動する。突如として降り注ぐ真紅の爆炎と歪んだ雷光。神聖騎士団の最前線が盾を掲げて魔力のスパークを弾き返し、戦場は一瞬にして混沌たる大戦火に包まれた。

「ルシウス! 予定通り、俺たちは正面の混戦を抜けて最短で――」


青真が叫びかけた、その瞬間だった。

バリバリバリィッ!!!と、鼓膜を引き裂くような禍々しい赤雷が、俺たちの目の前の地面を爆破した。

立ち込める煙の向こうから現れたのは、右肩を深く負傷し、執念の形相で双剣を握りしめる男だった。

「……見つけたぞ、百華繚乱。ギルマスのデータを超えるイレギュラーどもが……ここで確実に間引いてやるッ!」

ブラッドチェイン幹部、『迅雷のギル』。


奴は手負いでありながらも、ギルドマスターからさらなるバグコードの出力を与えられているのか、その身に纏う雷光の密度は以前の比ではなかった。

「またあんたか……! でも、今の俺たちは前とは違う!」

青真は即座に固有スキル『意念伝達』を起動。カレン、メグ、闇風、そしてルシウスの脳内を、1ミリの遅延もない精神リンクで力強く繋ぎ止めた。


(――全員、俺の視界ログに合わせろ! 奴の超加速の合間、コンマ数秒のシステム硬直を突く!)

「ハァァァァッ!」

ギルが全出力を解放し、視界から完全に消滅するほどの超神速で肉薄してくる。だが、青真の『意念伝達』を介した脳内には、奴が突っ込んでくる正確な未来の座標が共有されていた。

(メグ、今だ!)


「いけぇッ!!」

メグがノータイムで新スキル『人形創造クリエイトゴーレム』を発動。ギルがトップスピードで駆け抜けるはずの直線の座標に、巨大な岩石の壁が文字通り「生えて」出現した。

「なっ……ガハッ!?」

超加速中、物理的に絶対にかわせないタイミングで出現した岩壁に、ギルは正面から激突。その凄まじい衝撃で、奴の身体に致命的なモーション硬直が発生する。


(カレン、上から叩き込め!)

「これで、終わりよッ!」

硬直したギルの頭上へ、カレンが跳躍。新スキル『飛翔斬撃』を全力で振り下ろした。

爆風を伴った真空の刃がギルをその場に叩きつけ、凄まじい風圧の檻となって奴の身動きを完全に封じ込める(バキューム)。


「バ、カな……! 1ミリのズレもなく、こちらの硬直を完璧にハめデータ化してくると……!?」

絶望に目を見開くギル。その完全な死角――影の中から、一筋の冷たい刃が伸びた。

(闇風、仕留めろ)

闇風の新スキル『隠密』。ギルの探知網を完全に欺き、背後に潜り込んでいたアサシンの双剣が、ギルの首元を正確に貫いた。

「ガ、ハッ……ギルドマスター……」

レベル35の幹部ギルは、完全に何もできないまま、完璧な『4人ハメ』の前にポリゴンピースへと分解され、夜空へと霧散していった。

ドッガァァァァァンッ!!!


その瞬間、幹部撃破の凄まじい魔力エフェクトの余波と、数千人のプレイヤーが激突する戦場の超高負荷ラグが限界を迎えた。


空間がバキバキと音を立てて軋み――あろうことか、目の前にある堅牢な城の防壁コードが、過負荷によって一瞬だけドロリと溶け、巨大な『座標の穴(破れ目)』を形成した。

「青真殿、防壁がバグで崩壊しました! 今です!」

ルシウスが叫ぶ。


「全員、俺に続けッ! 突入するぞ!」

青真の号令の元、カレン、メグ、闇風、そしてルシウスの5人は、激しい爆音と戦火を背に、防壁にできたバグの穴へと一閃、敵の根城の内部へと滑り込んだ。

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