第58話:聖騎士と新たな力
「『聖域の加護』」
白銀の魔法剣士が叫ぶと同時に、彼の長剣から放たれた純白の光帯が、俺、カレン、メグ、そして闇風の身体へと滑り込むように吸い込まれていった。
視界の端で、レベル25へと跳ね上がったばかりの俺たちのステータスバーが、さらに凄まじい上昇補正のシステムログで埋め尽くされていく。
「チッ……レベル25の雑魚どもにバフを盛ったところで、何が変わるッ!」
消滅していたギルの気配が、雷光のエフェクトと共に俺の真横から突如として出現した。対策ログに基づいた、寸分の狂いもない神速の刺突。
だが、進化した俺の『未来予知』の視界には、もうデッドエンドの赤ログは映っていなかった。
(――視える。全員、俺の思考に合わせろ!)
俺は新しく獲得した固有スキル『意念伝達』を即座に起動した。口で指示を出す暇すらない超高速戦闘の中、俺の脳内に直接流れ込む「ギルの双剣の軌道」と「数秒先の未来の最適解」を、直接カレンたちの脳内へとノータイムで転送する。
「了解――!」
カレンの身体が、俺の『意念伝達』とルシウスのバフによって、これまでの限界を遥かに超える速度で跳ね上がった。
新スキル――『飛翔斬撃』。
激しい魔力を帯びて放たれたカレンの一閃は、真空の刃となってギルの必殺の刺突を正面から激しく弾き飛ばした。
「なっ……カレンの剣筋が、マスターのデータより速い……!?」
ギルが驚愕に目を見開く。だが、俺たちの猛攻はそれだけでは終わらない。
「遅いよ!」
メグが背後から新たな詠唱コードを展開した。
『人形創造』。
路地裏の錆びたコンクリートや瓦礫が、システムエラーのスパークを上げながら急速に凝縮され、巨大な岩石の兵士へと変貌する。ゴーレムはギルの唯一の退路を塞ぐように、その巨大な拳を叩きつけた。
「クソがッ!」
ギルはゴーレムの拳を紙一重で回避し、バックステップで距離を取ろうとする。だが、その移動先は、すでに俺の『未来予知』で確定していた。
(――闇風、そこだ)
『意念伝達』で座標を受け取った闇風の身体が、完全に世界から消滅した。新スキル『隠密』。
レベル25に達したアサシンの最高位スキルは、ギルの持つ「先読み対策」の探知網を完全に無力化し、その背後の影へと一瞬で潜り込んだ。
「しまっ――」
気づいた時には、闇風の漆黒の刃がギルの右肩を深く切り裂いていた。真紅のエフェクトが激しく飛び散る。
「くぉぉぉぉぉッ!!」
レベル35の幹部が、レベル25の俺たちの完璧な連携の前に、防戦一方で血を流している。そこへ、白銀の魔法剣士が容赦なく踏み込んだ。
「これで終わりです!」
魔法剣士の長剣が、眩い閃光を放ちながらギルの胸元へと一文字に奔る。
「ガハッ……! お前たち……このツケは必ず払わせるぞ……!」
胸元から凄まじい火花を散らしたギルは、もはや形勢逆転は不可能と悟ったのか、懐から強制転移のバグ煙幕を床に叩きつけた。激しい視界不良のノイズの中、彼のバイタルサインが急速に遠ざかっていく。レベル35の幹部を、正面から完全に退けたのだ。
周囲の静寂が戻る中、俺たちは激しい息を吐きながら、手に入れたばかりの自身のステータスを見つめた。レベルアップと、新スキル。もう、俺たちは一方的に追われるだけの弱者ではない。
「見事な連携でした。まさか、ブラッドチェインの幹部をここまで圧倒するとは」
魔法剣士が剣を鞘に収め、その端正な顔に爽やかな笑みを浮かべながらこちらを振り返った。
「ひとまずは安全な場所へ移動しましょう。私のギルドの本拠地であれば、彼らも手は出せません」
魔法剣士に導かれ、俺たちは時計塔の地下に隠された広大な隠れ家へと足を踏み入れた。そこは、徹底的にシステム防壁が敷かれた、この隔離サーバーの唯一の良心とも言える場所だった。
「改めて自己紹介を。私はこのサーバーの秩序を守るトップギルド、『神聖騎士団』で副団長を務めているルシウスと言います」
ルシウスは真っ直ぐに俺の目を見つめ、真摯な口調で言葉を続けた。
「青真殿。貴方たちがこれまでレオンやバレット、そしてラストといったブラッドチェインの要害を潰してきた実績は、我々もすべて把握しています。だからこそ、単刀直入に提案させてください」
白銀の副団長は、自らの胸に手を当て、凛とした声で言った。
「私たちが計画している大博打――PKギルド『ブラッドチェイン掃討作戦』に、どうかその力を貸してはいただけませんか?」
手の内を読まれた絶望を越え、俺たちは新しい力と、神聖騎士団という最大の共闘者を手に入れた。ブラッドチェインとの、サーバーの命運をかけた本当の戦争が、今ここに幕を開ける。
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