第57話:白銀の閃光
「楽しみに、待ってる、ぜ……クソガ、キ……!」
空中に不自然な形で固定されていたブラッドチェインの幹部・ラストの巨体が、最期の呪詛と共に無数のポリゴンピースへと分解され、夜の闇へと霧散していった。
直後、俺たちの身体を、これまでとは比較にならないほど巨大な黄金の輝きが包み込んだ。ピピピピピ、と鼓膜を叩くシステム音が路地裏に鳴り響く。
【――ボス討伐経験値パケットの同期完了】
【プレイヤー:青真、カレン、メグ、闇風のレベルアップ処理を実行します】
『レベル12 ――> レベル25』
レベル差倍以上の格上をハめ殺したことで、莫大な経験値が俺たち四人に逆流し、ステータスが音を立てて跳ね上がっていく。全身に満ち溢れる圧倒的な全能感。俺の隣で短剣を構える闇風も、その身に纏う気配の鋭さを一気に増大させていた。
同時に、俺の脳内にこれまでとは全く異なる質の『未来ログ』が流れ込んできた。固有スキル『未来予知』の強制アップデート。視える未来の秒数が、一気に倍近くにまで拡張されていく。
しかし、その進化の余韻に浸る暇すら、このデスゲームは与えてくれなかった。
「――そこまでだ、百華繚乱のネズミども」
冷徹な地響きのような声が響いた瞬間、俺の視界が強制的に反転した。――アップデートされた『未来予知』の自動発動。
(……来るッ!?)
予知の視界の中で、俺たちのすぐ目の前の空間が、激しい電子ノイズと共に真紅の魔法によって爆破され、時計塔のセーフエリアへの道が完全に遮断される最悪の未来が見えた。
「全員、下がれッ!!」
俺は叫ぶと同時にメグと闇風の腕を掴んで後ろへと引き剥がす。直後、予知通りに眼前の空間が爆散した。
「なっ……セーフエリアのアクセス制限コード!? うそ、時計塔への道が遮断されたわ!」
メグの悲鳴が上がる。
見上げれば、路地を囲む雑居ビルの屋上に、いつの間にか新たな影が立っていた。
ブラッドチェイン幹部、『迅雷のギル』。
その頭上に浮かぶレベル表示は、レベル35。その手には、不気味に発光するバグ武装の双剣が握られていた。
「同じハメ技は二度と通じない。お前たちの『癖』、カレンの剣筋、闇風の隠密ルートも、すべて対策済だ」
ギルが屋上から飛び降り、着地と同時に彼の身体が雷光のようなエフェクトに包まれ、視界から完全に消滅する。
すかさず俺はもう一度『未来予知』の意識を極限まで研ぎ澄ました。拡張された予知の視界の中で、ギルがどの座標から双剣を突き出してくるかはハッキリと視えている。だが――。
(……クソ、俺やカレンの回避ルートだけじゃねえ。闇風の奇襲ルートまで、全部先回りされて殺される未来しか見えねえ……!)
レベルが上がった闇風の神速をもってしても、ギルは最初から闇風の移動座標を予測して双剣を補正していた。思考の癖が完全に読まれているからこそ、予知の視界の全ルートが、俺たちが同時に貫かれる『デッドエンド』の赤いログで埋め尽くされている。レベルが上がっても、完全に詰んでいる。
ギルの双剣が、予知通りに現実の俺の喉元へと肉薄した、その瞬間だった。
「『神聖閃光撃』!」
唐突に、凛とした声が戦場に響き渡った。
直後、上空から降り注いだのは、夜の闇を物理的に塗り潰すほどの白銀の魔力。それは物理的な衝撃波ではなく、高密度の光属性魔法を刃に宿した極大の一撃だった。
「ぬぉっ……!? なんだ、この魔法の質量は……!」
レベル35の幹部であるギルが、防戦一方で激しい魔力の火花を散らしながら、強引に数メートル先まで弾き飛ばされた。
周囲に立ち込めるバグノイズが光の粒子によって浄化されていく。その中心に、白銀の甲冑を纏った一人の人物がゆっくりと降り立った。その瞳には、澄み切った正義の光が宿っている。
「……そこまでのようです。不意打ちなど、騎士の風上にも置けない行為ですよ」
その人物は、眩いばかりの爽やかな笑顔をギルに向けながら静かに諭した。手にした長剣には、今放った魔法の余波であるエンチャントが美しく波打っている。
「……誰だ、テメェ。ブラッドチェインの邪魔をするってことは、命がねえって分かってんだろうな」
ギルが殺気を剥き出しにして睨みつける。だが、白銀の魔法剣士は清々しい風のようにその殺気を受け流し、さらに笑顔を深めた。
「私の命なら、心配には及びません。それよりも、貴方のその歪んだ剣技……これ以上、その力を罪のない人に向けるというのなら、私が相手になりましょう。正々堂々と、ね」
完璧な詰みを迎えかけていた俺たちの前に現れた、圧倒的な陽のオーラを纏った聖騎士。そして、絶望の淵で手に入れた、敵の想定を過去にする新たな力。
この隔離サーバーの支配構造を根底から揺るがす、本当の血戦がここから始まる。
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