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第52話:探知と罠

「ぐ、あああっ……! クソ、引くぞ、一旦引くぞ……!」

HPを3割以上削られ、コンボの通信パケットまでハッキングされた『剛剣のレオン』は、完全に戦意を喪失していた。大剣の硬直が解けた瞬間、彼は残った3人の精鋭に守られながら、路地の奥へと無様に逃げ散っていった。


「追わなくていいの、青真?」

カレンが黒鉄刀を収めながら、俺の顔を覗き込んできた。その呼吸は少しも乱れていない。

「ああ。レベル28の隊長をここで完全にキルしても、リスポーンされて警戒を強められるだけだ。それより、今はメグが掴んだログの解析が先決だ」


俺たちは再び時計塔のセーフエリアへと戻り、メグの開いたホログラムウィンドウを囲んだ。

画面には、ブラッドチェインの内部通信ログが流れるような速度でスクロールしている。

「これを見て」

メグが特定のコードを指さした。


「レオンたち隊長や下っ端の端末から、定期的に上層へ暗号化されたデータが送信されてる。送信先は……『幹部』たちの共通サーバーね」

「ギルドマスターが1人、サブマスターが1人、そして幹部が6人。五人隊長の上に、さらに8人のトップ層がいる組織だったな」


闇風が、事前に収集していたギルドの基本情報を口にする。

「ええ。でも変なのはここからよ。その6人の幹部たちの端末を経由して、さらにその奥――この隔離サーバー(リベラル・ワールド)のシステム根幹へ、不正な『割込コード』が常時流れ込んでるの。間違いなく『アイアングリッチ』の仕業よ」

メグの分析を聞きながら、俺は顎に手を当てた。


なるほど。ブラッドチェインという巨大PvPギルドは、ただ一般プレイヤーを狩って楽しんでいるだけの集団ではない。幹部レベルがアイアングリッチのバックドア(裏口)を管理し、システム上の不正な恩恵を受け取っている。だからこそ、下っ端ですらあのレベルのステータスや装備を維持できているわけだ。


「……じゃあ、その幹部6人の誰かの端末を直接ハックできれば、アイアングリッチの居場所に繋がるアクセスキーが手に入るってことね?」

カレンが冷徹に状況を整理する。

「その通りだ。だが、相手は隊長より遥かにレベルが高い上に、こちらの『仕様ハック』を警戒して、さらに強固な対人陣形を組んでくるだろう。正面から挑めば、レベル10の俺たちは一瞬で消し飛ばされる」


「どうするの? 相手の網にかかるのを待つ?」

メグが不安そうに画面を見上げる。

「いや、網にかかるのは向こうだ」

俺は不敵に微笑み、メグのノートPCに手を伸ばした。

「レオンが逃げたことで、俺たちの情報は今頃、幹部たちの耳に入っているはず。なら、それを利用する。メグ、さっきレオンからぶっこ抜いた通信パケットを使って、偽の『システムエラー(バグ報告)』を幹部サーバーに逆探知の網として投げろ」


「偽のエラー……? なんて送るの?」

「『座標[XX:YY]にて、レベル10のバグプレイヤーが、システム整合性を破壊する不正コードを使用中』――だ」

俺の意図を察した闇風が、ふっと影の中で息を漏らした。

「なるほど。僕たちが『チートツール』を使っていると錯覚させるわけですね。アイアングリッチの力を借りている幹部たちなら、その『チート』を回収、あるいは隠蔽するために、必ず直々に動き出す……」


「そうだ。向こうが必死になって俺たちを囲い込もうとする瞬間こそ、システムの同期が最も不安定になる。そこを狙って、次の『隊長』ごと、幹部のひとりを引きずり出す」

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