第44話:大樹の番人
重々しい音を立てて開いた大扉の先は、天井がすり鉢状に吹き抜けた広大な円形の広場だった。
中央には、ダンジョンの主である『グランド・ルート・ガーディアン』が、その巨体を誇示するように鎮座している。
これまでの移動植物とは比較にならないほど巨大な、歩く大樹。その幹には赤く不気味に発光する巨大な魔力の結晶が埋め込まれており、そこから無数の太い根が、まるで触手のように周囲の地面をのたうっていた。
ズゥゥゥン……!
ボスがこちらの侵入を感知し、地響きを立てて咆哮する。それと同時に、俺たちの視界の下部に、真っ赤な長いゲージ――ボスのHPバーがポップアップした。
「大きい……! ですが、引くわけにはいきません!」
カレンがレイピアを正眼に構え、鋭い視線を大樹の結晶へと向ける。
「ちょっと青真、いきなりあんな大物相手に、私たちのレベル1の初期スキルだけで足りるの!? 攻撃予測ラインの主張が激しすぎて、床が真っ赤で見えやしないわよ!」
メグの言う通り、俺の視界には、ボスが振り下ろそうとしている巨大な根の「3秒後の攻撃範囲」が、扇状の赤いマーカーとして床一面に敷き詰められていた。情報量が多すぎて、普通ならパニックになるところだ。
「問題ない。範囲が広いだけで、予備動作は雑魚モンスターより大振りだ。――スキル発動、【予測演算】!」
俺がレベル2に上がった思考スキルを起動すると、脳内の演算速度が一段階跳ね上がり、乱雑だった赤いマーカーが「収束する一本の明確なライン」へと整理されていく。
「全員、その場から斜め右へ三歩散れ! 最初の叩きつけが来るぞ!」
「はいっ!」
「了解!」
「下がります!」
俺の指示とほぼ同時に、大樹の太い根が空気を切り裂いて、さっきまで俺たちがいた地面へと猛然と振り下ろされた。ドガァァン! と凄まじい衝撃音が響き、土煙が舞い上がる。だが、誰もかすり傷一つ負っていない。
「闇風、そのままボスの左側面に回り込んで足を削れ。ヒット・アンド・アウェイだ。カレンは正面の叩きつけの直後、大振りの隙を狙って結晶に『一刹』を叩き込め。メグは俺の合図があるまでフラムポーションを温存だ!」
「わかりました、WISTERIAさん!」
闇風が低く地を這うようなステップで、ボスの死角へと滑り込む。システムが弾き出す「Nice Play」のエフェクトを置き去りにしながら、彼の短剣が大樹の根の関節部分を正確に、そして高速で切り裂いていく。ボスのヘイトを示す赤い光が、闇風へと向かう。
「今だ、カレン!」
「――【一刹】!」
闇風がヘイトを取った一瞬の隙を見逃さず、カレンの身体が弾丸のように制動した。
大樹の正面へと肉薄し、むき出しになった赤い結晶に向けて、目にも留まらぬ超高速の突きを三連打で叩き込む。
ピキィィン! とガラスが割れるようなクリティカル音が響き、ボスの巨体がガクガクと大きく揺らいだ。大樹のHPバーが一気に3割ほど削れ、空間に『DOWN!!』という黄色い文字が点滅する。
「よし、ボスが体勢を崩した(スタン)! メグ、全力でいけ!」
「待ってました! 特等席で喰らいなさい!」
メグがフラスコを激しく振り、中の液体を限界まで活性化させて投げつける。
「『フラムポーション』――ッ!」
放たれたフラスコは、ダウンして頭を下げた大樹の魔力結晶へと、吸い込まれるように直撃した。
直後、爆音と共に視界を埋め尽くすほどの紅蓮の爆炎が巻き起こる。錬金術師の初期スキルとは思えないほどの熱量がボスの巨体を包み込み、大樹のHPバーは面白いように溶けていった。
ボスの身体が内側から崩壊するように光の粒子へと変わり、大気のなかに消えていく。
それと同時に、俺たちの頭上に再びあの心地よいファンファールが鳴り響いた。
『CONGRATULATIONS! DUNGEON CLEARED!』
「……やった、倒せました!」
カレンがレイピアをサッと鞘に納め、額の汗を拭いながら満面の笑みを浮かべる。
「ふぅ、なんとかなるものね。青真の指示通りのタイミングで投げたら、ダメージが通常の2倍くらい跳ね上がったわよ。あれ、システム的なコンボ扱いになってたの?」
メグが不思議そうにフラスコの予備を片付けながら聞いてくる。
「ああ。カレンが結晶を破壊して防御力を下げた瞬間に、お前のフラムポーションの着火属性が乗ったんだ。戦術士の補正も少し入っている」
俺がそう説明すると、闇風が目をキラキラ輝かせて近寄ってきた。
「さすがWISTERIAさんです! 俺たちがどう動けば一番強いのか、最初から全部見えているみたいでした。やっぱり、貴方の指揮は世界一です!」
純粋な尊敬の眼差しを向けてくる闇風に、俺は少し照れ臭くなりながらも、その頭を軽く小突いた。
「お前たちの動きが正確だったからだよ。さあ、ボスの宝箱を開けて、この最初の街へ戻ろう」
中央に現れた豪華な宝箱を前に、俺たちは顔を見合わせて笑った。過保護なシステムへの違和感は残るが、この4人の歯車が噛み合ったときの爆発力は、この世界でも健在だった。
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