第39話:チェックメイトの包囲網、光の境界へ
「街の同期率(データ吸い上げ)が、ついに92%を超えたわ……! 100%になったら、この街の現実そのものが運営のサーバーに完全に飲み込まれる!」
セーフハウスの崩壊した壁の隙間から、紫色のモザイク状に変色していく市街地を見下ろしながら、メグが血の気の失せた顔でノートPCのキーボードを叩く。
周囲の空間は歪み、道路はパズルのように断裂し、重力の法則すら崩壊しかけていた。運営の本隊である【DEBUGシリーズ】の軍勢は、その数を無限に増やしながら、俺たちを完全に包囲しようと狭い路地を埋め尽くしている。
「これ以上、防衛戦を続けてもジリ貧だ。……全員、作戦を変更する。これより、敵の本陣へ向けて『強行突入』をかける!」
俺――青真の言葉に、ギルド『百華繚乱』のメンバーの目が一斉に輝いた。
「待ってました! 防戦一方なんて、一条流の性に合いませんからね!」
カレンが血の滲む拳で新しい木刀を握り直す。
「フッ、敵の包囲網を内側から切り裂くか。望むところだ」
闇風も、システム上のバグ(背景オブジェクト化)を維持したまま、いつでも動けるよう前傾姿勢を取った。
「メグ、運営がこの現実世界と仮想世界を繋いでいる『メイン接続インターフェース(中央サーバー)』の座標はどこだ!」
「街の中心にある電波タワーの最上階よ! そこから発信されている量子電磁波が、現実のデジタル書き換えのマスターキー(大元)になってる!」
「よし、目標はタワー最上階の接続端末だ! 蓮会長、アイギス! 残った防衛車両の全火力を、タワーへ続く中央大通りに集中させて道をこじ開けてくれ!」
「了解したよ、青真。我がギルドの未来、君たちに委託する。……全車、主砲閉鎖。道を穿ちなさい!」
蓮会長の冷徹な号令と共に、アイギス率いる装甲車部隊が一斉に砲撃を開始した。
物理的な砲弾は異形たちの『すり抜け』によって直撃こそしないものの、着弾時の凄まじい衝撃波と爆風が、異形たちの周囲の空間座標の計算を強制的に狂わせ、一瞬の硬直を生み出していく。
「今だ、走れッ!!」
俺の叫びと同時に、カレンと闇風が爆炎の中を一直線に駆け抜けた。
『予測演算』によって、敵が次に放つパッチ修正のタイミングと、その瞬間に生まれる「仕様の隙」を、俺は走る二人の脳内へリアルタイムで送り続ける。
「カレン、左から来る三体のコリジョンが実体化する! 0.2秒後、すれ違いざまに首元を薙げ!」
「はあああぁぁッ!!」
カレンの神速の連撃が、実体化した瞬間の異形を完璧に捉え、コアを次々と爆砕していく。
「闇風、正面の個体はお前をターゲットロックしようとしてバグを起こしている! 座標を左に3メートルずらせば、奴の攻撃処理が完全に不発に終わる!」
「了解……!」
闇風の残像すら残さない体術が、異形の絶対攻撃の射線を完璧にいなし、背後からその心臓部を貫いた。
完璧な連携。青真の仕様ハック、カレンの圧倒的な武術、闇風の隠密、メグのデータ解析。
これまでの戦いで培ってきた『百華繚乱』のすべての技術と絆が噛み合い、無限とも思えたデバッグ部隊の包囲網を、文字通り紙切れのように切り裂いていく。
そして――俺たちはついに、タワーの最上階、紫色の光が天に向かって柱のように吹き荒れる『接続端末』の目の前へと辿り着いた。
「これね……! これを壊せば、運営のシステム上書きを強制停止できる!」
メグが端末のメインコンソールにハッキングコードを打ち込み、プロテクトを次々と解除していく。画面の同期率が「99%」でピタリと停止した。
「チェックメイトだ、クソ運営。現実を自分たちのいいように書き換えられると思うなよ」
俺は端末の基盤に向けて、カレンの木刀を構えさせた。
だが、俺たちの誰もが勝ったと確信したその瞬間、コンソールの画面が血のような赤色に染まり、見たこともないシステム文字が激しく点滅した。
【致命的なエラー:現実領域の完全同期(100%)に失敗】
【緊急措置:イレギュラーオブジェクトの排除のため、サーバーの『強制フルリブート(初期化)』を実行します】
「な……ッ!?」
俺の予測演算の視界が、一瞬で真っ白に反転した。
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