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最強ゲーマーの《多世界攻略録(マルチバースアーカイブ)》  作者: 紅柳
第一部現実世界編 第一編 学園攻略編
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第3話:氷の追求者

「はあ、新作ジュース高すぎだろ。俺の3日分の昼飯代が軽く吹っ飛んだんだが……」

俺は手の中にある、キンキンに冷えた(そして悪意を感じるほど値段が高い)プレミアムジュースをメグに差し出す。


「……ほら、支援アイテムの対価だ」

「わぁ、流石はサブマスター! 太っ腹ですね!」

メグがニヤニヤしながらそれを受け取る。お前、その「太っ腹」って言葉、俺の財布のHP(残高)がゼロになったのを知ってて言ってるだろ。絶対にそうだ。

メグがストローを咥え、幸せそうに喉を鳴らしたその瞬間だった。


「――藤崎青真くん。ちょっといいかしら?」

(…………げっ)

聞き覚えのある、鈴を転がすような、それでいて氷点下の冷たさを孕んだ声。俺の背筋に、目に見えない「麻痺」のデバフが走った。

「一条、副会長……」

俺は「至って健全な一般生徒です」というオーラを必死に偽装しながら振り返る。


そこに立っていたのは、生徒会の歩く校則違反取り締まり機、一条カレン。長い黒髪をなびかせ、怜悧な美貌に疑念を宿した彼女は、鋭い視線で俺を上から下までスキャンしてきた。

「藤崎くん。あなた、先ほどから隣の彼女に『多額の賄賂』を渡していたようだけれど、これは一体どういうことかしら?」

賄賂!? ちょ、待てよ! ただの新作ジュースだよ! 支援の対価とはいえ、これを賄賂扱いするのは横暴がすぎるだろ!

「これは……ただの、テストの労いですよ。クラスメイトとしての、ね」


「ほう。クラスメイト、ねぇ……」

一条は手帳を取り出し、サラサラとペンを走らせる。

「私の調査によれば、最近あなたたちの周りで『ギルド』や『クエスト』といった、穏やかでない隠語が飛び交っているという報告が入っているの。……藤崎くん、あなた、学園内で何か怪しい秘密集会でも企画しているんじゃないかしら?」

いやいやいや、ただのネットゲームの専門用語です。そんな国

家転覆でも狙うような怪しい組織じゃありません。


「集会なんて、とんでもない。俺たちはただ、放課後の過ごし方について健全な議論を……」

「ほう。では、その『健全な議論』の内容を、生徒会室で詳しくじっくり聞かせてもらっても構わないわね?」

一条がぐいっと顔を近づけてくる。綺麗だが全く笑っていない瞳。やばい、この人、一度目をつけたら証拠が出るまで絶対にターゲットを逃さない超高精度の追尾型モンスターだ。


「一条さん。……その必要はありません」

これまで沈黙を守っていた闇風が、静かに一歩前に出る。おい闇風! 余計なヘイトを集めるな! 今は話術スキルでやり過ごす場面だろ!?

「僕たちは、WISTERIAさんのもとで――」

「ちょ、待て待て待てええええ!!」

俺は闇風の口を音速で塞いだ。だが遅い。一条の眉間のしわが、カチリと深く刻まれる。

「……WISTERIA? 藤崎くん、今この生徒が言おうとしたのは――」


その時だった。廊下の向こうから、別の生徒会役員が血相を変えて走ってきた。

「一条副会長! 失礼します!」

「……取り込み中よ。後にしなさい」

「ですが、緊急事態です! 裏庭で、例の『他校の不良グループと繋がっている集団』が動き出したと報告が入りました! すでに一般生徒が巻き込まれかけています!」

一条の顔つきが、一瞬で「学園の検察官」から「守護者」のそれに変わった。

どうやら、俺の小さな不審点よりも、もっと大きな『毒』が学園内で牙を剥き始めたらしい。一条は俺を鋭く一瞥し、手帳をポケットに叩き込んだ。

「藤崎くん。今の話は、後できっちり聞かせてもらうわ。……今の学園は、あなたたちのギルドごっこで遊んでいられるほど穏やかじゃないの。分かったら、さっさと教室に戻りなさい!」


そう言い残すと、一条は役員を引き連れて風のように去っていった。

(……助かったぁ……!)

俺は膝から崩れ落ちそうになるのを、精神力だけで食い止める。他校の不良組織だか何だか知らないが、今日だけはそいつらに感謝したい気分だ。

「流石はWISTERIAさん……。生徒会副会長の追及さえも、外敵の動向をあらかじめ予測し、その動きを利用して退けるとは……」


「……だから、その名前で呼ぶなと言ってるだろ」

俺はため息をつき、メグが涼しい顔で飲み干した空のジュース容器を回収した。

去っていく一条の背中を見送りながら、俺はふっと目を細める。


(……いや、待てよ。他校の不良グループ、だと?)

俺の脳裏に、ある懸念が浮かんだ。

もし、あの裏庭で起きている「事件」が、ただの不良の喧嘩ではなく――


「闇風、メグ。ちょっと裏庭の様子、見に行くぞ」

「えっ? 教室に戻るんじゃ……」

「フッ、クエスターが目の前のイベントを無視して帰れるかよ。……それに、どうも嫌な予感がする」

俺たちは足早に、騒がしくなり始めた裏庭へと向かった。

そこが、『現実世界(リアル)』というクソゲーが、本格的にバグに侵食され始める最初の戦場になるとも知らずに。

読んでいただきありがとうございました!もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援してもらえると励みになりま

す!

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