第2話:知略と代償
テスト。それは、『現実世界』というクソゲーにおいて、全世界の学生が忌み嫌う最大級の定期イベントである。
今まで俺は《直感演算》(ただの勘)と《神界書庫》(ただのカンペ)でどんな難問もイージーモードでクリアしてきた。
だがやばい。普通にノー勉だし、カンペの準備すら忘れていた。どう考えても赤点回避すら無理ゲーだ。
そんな俺の横で、昨日弟子入りしてきた闇風が、キラキラとした純粋な目を向けてくる。
「WISTERIAさんは、当然お勉強の方も最強なんですよね!」
「……フッ、愚問だな」
大嘘である。実際は脳内がパニックで処理落ち寸前なのだが、ギルドマスターとしてのプレッシャーで胃が引き千切れそう
だ。
頭を抱えていると、不意に前の席のメガネ女子が振り返り、不敵に微笑んだ。
「どうしたんですか? サブマスター。まさかノー勉ですか?」
「は……?」
なぜこいつが、俺の百華繚乱での役職を知っているんだ?
驚愕して闇風を見ると、彼は「昨日、うちのクラスで『百華繚乱』のメンバーがいないか聞いて回ったんですよ!」と満面の笑顔。余計な索敵をしやがって……!
「はい、改めまして。私は百華繚乱所属、プレイヤーネーム『メグ』です」
嘘だろ!? メグといえば、うちのギルドが誇る超一流のアイテム調達係(錬金術師)じゃねえか。まさか俺のクラス、ネットのトップランカーが集まる魔境なのか!?
「それはそうとサブマスター、この絶望的なステージを切り抜けるなら、やっぱり《魔眼》でしょ?」
「ほう……」
メグの発言の意図を察し、俺の脳内CPUが高速で解決策をハックする。優等生の席から答えを視線で盗む。バレれば一発退場のリスクはあるが、背に腹は変えられない。
ナイスだメグ! これで勝つる!
――そして、運命のテストが始まった。
俺は開始の合図とともに、自信満々で隣の席の答案を「魔眼」で盗み見て――そして、絶望した。
忘れていた。俺の席の周り、クラスでも有名なバカ(低レベルプレイヤー)しか配置されていない。記述欄が綺麗に白紙じゃないか。
(終わった...俺の学園ライフはここでサービス終了だ......)
神に祈りを捧げかけたーーが、俺の脳内CPUは諦めていなかった。
現実のテストは、配点、問題数、制限時間が決まった一種の『レイドボス』だ。ノ一勉の俺単体では勝てない。なら、やることは一つ。
メグ、そして闇風を巻き込んだ、即席の『テスト攻略パーティ』の結成だ。
俺はテスト用紙をペンで軽く叩く。トントン、トン、トトトン。
ギルド『百華繚乱』の最高幹部しか知らない、モールス信号をベースにした《暗号通信》だ。
『こちらWISTERIA。問題の傾向を解析した。大問3と4は過去問のパターンBだ。メグ、《解答》
の生成を頼む』
前の席のメグが、小さくペンを2回鳴らした。了解のサインだ。
しかし、どうやって教師の目を盗んで解答を共有する?監視の目は厳しい。
そこで俺は、右斜め前の闇風に視線を送る。
『闇風、ターゲットのヘイト(視線)を稼げ(タゲ取り)』次の瞬間、闇がわさとらしく大きな音を立てて消しゴムを落とした。
「あっ、すみません!」
廊下まで響く大声。さらに、拾う際に椅子を派手に鳴らす。完璧な挑発スキルだ。試験官の教師の《視線》が完全に閣風へと固定され、こちらへの監視の目が一瞬だけ『ゼロ」になる。
その一瞬。
メグの手元から放たれた一個の消しゴムが、正確な軌道を描いて俺の足元へ滑り込んできた。カバーの裏には、極小の文字で全解答が書かれてノートの切れ端が挟まれている。
ヘイト管理、動線確保、そしてアイテム支給。
MMOで数千回と繰り返してきた基本戦術。それが完璧に噛み合った瞬間だった。
俺は神速のタイピングはりの速度で、解答用紙を埋めていく。
キリリリリーン!
テスト終了のチャイムが鳴り
解答用紙が回収され、俺はフッと不敵に微笑んだ。
「WISTERIAさん!さすがのコンビネーションでしたね!」風が目を輝かせて寄ってくる。
「ああ。どんな難攻不落のステージだろうと、完璧なパーティで挑めばイージーモードにすぎない」
そこへ、メグがニヤニヤしながら割って入ってきた。
「サブマスター、あの支援アイテム、役に立ったでしょ? お礼は――そうね、購買の新作ジュース。一番高いやつで手を打ってあげるわ」
「……協力への対価としては、安いものだな(泣)」
さらっと財布のリソースまで削りに来やがった。恩人という名の、ただの守銭奴である。
俺は震える足で立ち上がり、全ては計画通りという顔で購買へ向かった。誰か俺に《回復薬》をくれ……。
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