第4話:宣戦布告の掃除
事の始まりは、生徒会に寄せられた「旧校舎裏に他校の人間が入り込んでいる」という苦情だった。 規律の化身である一条副会長が、それを放置するはずがない。彼女は数人の役員を連れ、毅然と「不法侵入」の排除に向かった。……だが、そこにいたのはただの野次馬ではなく、巨大な暴力の末端だった。
「はあ……。なんで俺がこんな不穏な現場をウォッチングしてなきゃいけないんだ」
俺、藤崎青真は、裏庭に面した旧校舎の非常階段で、身を隠しながら溜息をついていた。 眼下には、異様な威圧感を放つ集団。黒い特攻服の背中に刻まれた、禍々しい蝶の紋章。広域不良組織「黒死蝶」。
「一条副会長。あんたの正義感じゃ、この街は守れねえよ。この学園は今日から、俺たちの『シマ』になるんだからよ」
下卑た笑い声を上げるのは、第八師団の連中だ。 黒死蝶は第一から第八までの師団で構成され、数字が若いほど強い。第八は末端だが、それでも数十人の軍勢となれば、正論だけで武装した一条さんたちを囲んで震え上がらせるには十分すぎる暴力だった。
(……マジかよ。漫画の世界かよ。フィジカルクソ雑魚の俺1人じゃあっという間にリンチされるぞ)
俺は手すりにしがみつき、震えるフリをしながら状況を伺う。 だが、隣でスマホを弄っていたメグが、望遠で撮った画面を俺に見せてきた。
「ねえサブマスター。あそこの隊長のピアス……ライバルギルド『バハムート』のエンブレムじゃない? 写真、高く売れるわよ」
メグの言葉に、俺の思考が「WISTERIA」へと切り替わった。 オンライン上の宿敵の紋章。それがなぜ、現実の不良組織の末端が持っている?
不快な汗が引いていく。代わりに、冷徹な計算が始まった。
「WISTERIAさん。……あいつら、纏めて「消去」しますか?」
非常階段の手すりの外側、垂直な壁面に張り付くようにして闇風が問う。その瞳は、主君の「獲物」を狙う敵への殺意で満ちていた。
「いや、俺が出るまでもない。……闇風,お前はそこから石でも投げてろ。一条さんたちに当たらないように、あいつらの足首だけを正確に狙え。メグ、お前はあいつらの仲間に『生徒会が警察に通報した』ってガセ情報を流せ。今すぐだ」
「了解です、サブマスター。裏掲示板にガセを流すくらい、ジュース一本分のお仕事ですよ」
メグが指を動かし、闇風が手近な砂利を掴んで音もなく跳ねた。 数秒後。裏庭に、男たちの悲鳴が響き渡った。
「ぐわっ!? なんだ、今の!?」「誰だ、石投げたのは!」
高所から正確に放たれる投石。闇風の指先から放たれる礫は、正確に不良たちの足首を撃ち抜いていく。姿の見えない狙撃者に、第八師団はパニックに陥った。さらにメグの情報工作により、不良たちのスマホが一斉に鳴り響く。
「おい、サツが動いたってマジか!?」「チッ、一条! 今日はここまでだ!」
パニックに陥った第八師団が、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。 俺は彼らが去ったのを見計らい、階段を駆け下りた。
「……ふぅ、怖かった。一条さん、大丈夫!?」
俺はいつもの「冴えない藤崎青真」の顔で、一条に駆け寄る。その足元に落ちていた「エンブレムのピアス」を、転びそうになった拍子にドサクサに紛れて回収しながら。
「藤崎くん……。あなた、ずっとそこにいたの?」
驚きと困惑が混ざった一条の視線。 俺の手の中には、さっき拾ったばかりの『敵』の証拠が隠されている。
これで、黒死蝶の第八師団は「たった一人の生徒会役員」に追い払われたという屈辱を味わうことになる。 全面戦争の火種としては、これ以上ないほど最高だ。
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