第29話:蹂躙
ガソリンスタンドの看板に叩きつけられた最初の刺客が火花を散らして崩れ落ちる中、残されたサイバーレギオンのアタッカーたちの間に明確な動揺が走っていた。
「全員、動くな! 奴らは攻撃のタイミングを完璧に合わせてくる! 囲んで一斉に叩くぞ!」
リーダー格の男が激を飛ばし、残る5人のアタッカーがカランビットナイフを構えて闇風を半円状に包囲する。だが、その完璧な包囲網すらも、俺――青真の目から見れば、ただの「隙だらけの初期配置」にすぎなかった。
「闇風、右から2番目のナイフ持ちが最初に踏み込んでくる。そいつの突きをかわしながら背後に回り込んで、盾にしろ。残りの4人は同士討ちの判定を嫌って1秒間硬直する」
「……了解」
闇風が小さく呟くと同時に、鋭い踏み込みの音が響いた。
指示通り、右から2番目の男が狂暴な速度でナイフを突き出してくる。しかし、闇風はその切っ先が自身の衣服をかすめるよりも早く、水が流れるような体術で男の懐へと滑り込み、その背後を完璧に奪った。
「がはっ……!? しまッ――」
「そのまま左へ投げ飛ばせ。カレン、飛んできた奴を野球のノックの要領で、奥の二人の動線へ打ち返せ!」
「お任せあれ!」
闇風が男の襟を掴み、凄まじい遠心力とともに前方へと放り投げる。宙を舞う人間の肉体という巨大な質量に対し、カレンは一切の躊躇なく木刀をフルスイングで叩き込んだ。
ドゴォォォンッ!!!
「ぶべっ!?」
カレンの常軌を逸した打撃力を受けた男の身体が、弾丸のような速度で奥の仲間二人へと文字通り「打ち込まれる」。直撃を受けた二人は、まともな防御姿勢すら取れずに巻き込まれ、アスファルトの上を激しく転がって気絶した。
「な、なんだこれは……! 連携が全部潰されてるぞ!?」
残されたアタッカーは、リーダー格の男を含めてあと二人。彼らの額から冷たい汗が流れ落ちる。
どれだけ実戦経験を積んだプロの暗殺者であろうと、自分たちの動線、視線、攻撃のフレーム数がすべて青真という「指揮官」に筒抜けである以上、戦いではなくただの「作業」として処理されていくのだ。
「メグ、残った二人の足元に、ジャミングドローンの過負荷爆発を落とせ。カレンと闇風は、爆発の光に敵の目が眩んだ瞬間に左右から挟撃だ」
「了解! 私の可愛いハチさん、最後の一仕事だよ!」
メグがノートPCの画面上で指を弾くと、上空で待機していた2機のドローンが急速に落下し、残った二人のアタッカーの目の前で強烈な電磁火花を散らして破裂した。
「うおっ!? 目が――」
激しい光と高周波のノイズに、敵が完全に視界を奪われて武器を落とす。
その視覚を失った絶望的な一瞬を、百華繚乱の前衛コンビが見逃すはずがなかった。
カレンの木刀がリーダー格の男の溝おちを正確に捉えて息の根を止め、ほぼ同時に闇風の鋭い足払いが最後の一人の軸足を完璧に払い、強烈な背負い投げで地面へと沈める。
ドサリ、と静まり返った深夜の道路に、気絶した男たちの身体が転がった。
「ふぅ……。全員、戦闘不能ですね。怪我はありませんか、青真?」
カレンが木刀を収め、息一つ乱さずに振り返る。
「ああ、完璧なタイミングだった。二人ともありがとう」
俺は静かに歩み出で、気絶したサイバーレギオンの男たちを見下ろした。
これで、街を支配していた電子犯罪組織の「リアルアタッカー部隊」は完全に壊滅。資金をハめ取られ、ハッキングシステムを焼かれ、最後の武力行使すらも完膚なきまでに叩き潰された。
だが、これで全てが終わったわけではない。俺たちの本当の戦いは、ここからさらに深い領域へと引きずり込まれていくことになる。
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