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第27話:チェックメイト

「……捕まえた。これで、終わりだよ!」


深夜の街を疾走するリムジンの車内。メグが勝利の宣言とともに、キーボードのエンターキーをひときわ強く叩き込んだ。


ノートPCの画面上で、これまで激しい攻防を繰領り広げていたサイバーレギオンのインフラ制御マップが、一瞬にして完全な漆黒に染まり、中央に巨大な『SYSTEM DOWN』の文字が浮かび上がる。


「よし! メグ、逆流ウイルスの流し込み完全成功だな?」


「ばっちり! 奴らが街の防犯カメラや自動運転システムをジャックするために使っていた中継サーバー、その根幹プロトコルを完全に焼き切ってやったよ。これで奴らは、この街のインフラを二度と兵器としては使えない!」


メグが丸メガネをクイと押し上げ、満足げに息を吐く。


青真の『予測演算』によって敵のインフラハックのパターンを先読みし、その処理落ちの隙を突いてメグのデバフドローンでウイルスを逆流させる――。伝説的ゲーマーの知識をフル活用した『仕様ハック』は、街のインフラを牛耳る巨大組織の頭脳を、文字通り完全に機能停止チェックメイトに追い込んでみせたのだ。


車外を見れば、異常な明滅を繰り返していた信号機は通常のサイクルに戻り、不気味にこちらを追っていた防犯カメラも力を失ったように項垂れている。


「ふぅ……これでようやく、普通の速度でドライブが楽しめるね。みんな、素晴らしい連携だったよ」


ハンドルを握る蓮会長が、バックミラー越しに穏やかな笑みを浮かべる。


「やりましたね、青真! これで奴らも、もう手出しはできないはずです!」

カレンが木刀をシートの横に置き、嬉しそうに声を弾ませた。


だが、隣に座る闇風だけは、未だに目を閉じたまま、車のシートに深く背を預けてピクリとも動かない。アサシン風近接格闘術の達人である彼の鋭い五感が、何かの『違和感』を捉えているようだった。


And、手元の端末でサイバーレギオンの残存ログを監視していた俺――青真の顔からも、笑みは消えていた。


「いや、カレン。ハッキングの潰し合いは俺たちの勝ちだ。……だけど、奴らはまだ諦めちゃいない」


「え……? でも、資金口座も凍結されて、ハッキングシステムも壊滅したんですよ?」


メグが不思議そうに首を傾げる。俺は端末の画面をみんなに見えるように提示した。

そこには、機能停止したはずの敵のメインサーバーの隅で、ドス黒い赤い文字のログが高速で静かに刻まれ続けている。


『――電子戦ノ敗北ヲ確認。プランBへ移行――』

『ターゲット「百華繚乱」のリアル座標、特定済み』

『これより、物理排除アサシネーションを開始する』


「画面の向こうから手を出せないなら、直接肉体リアルを消しに来た方が早い。……組織のトップの、冷徹で合理的な判断だ」


俺の言葉が終わるか終わらないかの、その瞬間。


「――来るぞ」


闇風がバッと目を開き、鋭い声を上げた。


ガガガガガッ!!!


突如として、リムジンのルーフを激しい金属音が叩いた。何者かが走行中の車の屋根の上に、音もなく飛び降りてきたのだ。

直後、鋭いナイフの刃がルーフの鋼鉄を紙のように切り裂き、車内へと突き立てられる。


「おっと、随分と気の早いお客さんだね」


蓮会長が冷静にハンドルを急に切り、車体を大きく蛇行させる。凄まじい遠心力がかかるが、ルーフの上の刺客はまるで磁石で張り付いているかのように微動だにしない。


それだけではない。リムジンの前方、街灯の光に照らされた深夜のガソリンスタンドの前に、黒いライダースーツに身を包んだ集団が、異様な威圧感を放ちながら道を塞ぐように立ち塞がっていた。

その手に握られているのは、鈍く光る特殊合金のトンファーや、実戦用に研ぎ澄まされたカランビットナイフ。


「あいつら……ただの不良の集まりじゃない。動きが完全に、訓練された『プロの暗殺者アタッカー』だわ……!」


メグが顔を青くしてノートPCを抱え込む。


電子の壁をブチ破り、ついに牙を剥いたサイバーレギオンの武闘派集団。

ここからは、一手間違えればリアルに命を落とす、ガチの肉弾戦の始まりだった。


「会長、車を止めてください。……ここからは、俺たちの本領発揮だ」


俺は不敵に口元を歪め、鋭い眼光で窓の外の敵を見据えた。

横では、カレンが不敵な笑みを浮かべて木刀を掴み、闇風が音もなくシートから腰を浮かせ、その拳を硬く握り締めている。


「ハッキング戦で得た奴らの『戦闘アルゴリズム』のデータは、すべて俺の頭の中に入ってる。……全員まとめて、リアルハック(ハめ殺し)にしてやりましょう」


キキィィィッ!!!

蓮会長が激しくブレーキを踏み、リムジンが白煙を上げて停止する。ドアが開き、新章の『本当の戦い』のゴングが、深夜の街に鳴り響いた。

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