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第26話:電子の要塞、インフラ争奪戦

「おいおい、本当に残高が文字通り『ゼロ』になってるぞ……!」


高級リムジンの車内。メグが叩き出すノートPCの画面を覗き込み、闇風が珍しく驚きの声を漏らしていた。


画面に表示されているのは、サイバーレギオンが街の裏インフラから不正に吸い上げていた、いくつかのダミー会社の隠し口座。そこに刻まれた額面は、数分前まで億単位の数字を誇っていたはずが、今や綺麗に『0円』に書き換わっている。


「ふふん、これぞ『アイテム増殖バグ』の応用。全盛期のクソゲーに存在した、アイテム売却時のマイナス決済バグのロジックだよ。口座の資金データを電子的な『ゴミアイテム』として一括処理して、運営のゴミ箱に一瞬で転送してやった」


メグが丸メガネを指でクイと押し上げ、ドヤ顔で胸を張る。


「いやぁ、さすが青真の予測演算と、私の錬金術コードの合わせ技だね! 奴らのセキュリティ、ガチガチに見えて根元のシステムが古いゲームの流用だから、仕様の穴がガバガバだったよ」


「ああ。だけど、これで奴らも完全に頭に血が上ったはずだ」


俺――青真は、手元の端末で街のトラフィックデータを見つめながら、表情を引き締めた。

サイバーレギオンほどの巨大組織だ。軍資金の一部をハめ取られた程度で壊滅するわけがない。むしろ、姿の見えないガキの集まりだと舐めていた『百華繚乱』に手痛い一撃を喰らったことで、奴らは本格的にこの街の全インフラを兵器として動かし始めた。


直後、リムジンのフロントガラス越しに見える街の景色が、一変した。


「……おや、信号機が全て赤に変わったね。それも、この区画だけでなく、私たちが向かおうとしているルートの先まですべてだ」


ハンドルを握る蓮会長が、バックミラー越しに冷静な声で告げる。

見れば、交差点の信号が異常な明滅を繰り返し、周囲の防犯カメラのレンズが一斉にウィインと音を立てて、俺たちのリムジンを追うように角度を変えた。


さらに、街頭の電子掲示板には『テロ容疑車両:黒のリムジンを包囲せよ』という偽の警告文が強制表示され、周囲を走る一般の自動運転車たちが、まるで意志を持ったかのようにこちらの進路を塞ごうと不気味に車線を変更し始める。


「位置情報を完全に掌握され、社会的に包囲されているわけですか」


カレンが隣で、木刀をギュッと握り直して窓の外を鋭い目で見つめる。

「お兄様、このまま突っ切ってください。邪魔な障害物は、私がすべて叩き斬ります!」


「頼むよ、カレン。……青真、指示を」

蓮会長の言葉に、俺は即座に頷いた。


「メグ、用意していた『対電子戦用デバフドローン』を全機、一斉にばら撒いてくれ。闇風は俺の演算を補佐してくれ、カメラの死角を見つける!」


「了解! 錬金術式特製、ジャミング型デバフドローン『ブラック・フライ』、12機起動!」


メグがエンターキーを叩くと同時に、リムジンのサンルーフから漆黒の小型ドローンが夜空へと飛び立っていく。それらは強力な電波攪乱とシステム汚染ウイルスを撒き散らす電子の蜂だ。


予測演算タクティカル・フォーサイト始動――。闇風、3秒後、左前方カメラがハングする。会長、次の交差点をノーブレーキで左折です!」


「了解。――っと、さっそく物理的なお邪魔虫のお出ましだね」


蓮会長がハンドルを切るのと同時に、ハッキングされて暴走した二台の大型セダンが、リムジンの左右にピタリと並走し、強引に挟み込もうと車体をぶつけてきた。衝撃でリムジンが大きく揺れる。


「カレン、右だ! 車のフロントの車高センサーを叩け! 闇風は左の車のタイヤの回転軸へ衝撃を流せ!」


「任せてください! 一条流――!」


待ってましたと言わんばかりに、カレンがリムジンの窓から身を乗り出した。

風圧を切り裂き、愛用の木刀が一閃。強化ガラスをも容易く打ち砕く凄まじい一撃が、右側のセダンのバンパー裏にあるセンサーを正確に直撃する。システムが致命的なエラーを起こしたセダンは、勝手に急ブレーキがかかって後方へと吹き飛んでいった。


同時に、左側の窓からは闇風が流れるような動作で手を伸ばした。

合気道の極意をもって、並走する車の強烈な推進力をそのまま利用し、タイヤの回転軸へピンポイントで衝撃の勁力を流し込む。左側の車は一瞬でコントロールを失い、スピンしながら街路樹へと激突していった。


「カレンも闇風もナイス! 前方の隙間、今なら通れます!」

俺の叫びと同時に、蓮会長がアクセルを踏み込む。二台の暴走車を退けたリムジンは、火花を散らしながら完璧なドリフトで包囲網を駆け抜けていく。


『――クソが! どいつもこいつも、何をやっている……!』


車内のスピーカーから、ノイズ混じりの男の怒号が響いた。メグのデバフが逆流し、敵のインフラ統括幹部の音声が混線してきたのだ。


「聞こえてるぞ、ハッカー気取りの幹部さん」

俺はマイクに向かって、静かに語りかけた。


「街のインフラをハックして無敵になったつもりでしょうが、あんたたちのシステムは広がりすぎた。広大なマップ(領域)は、それだけで処理落ちとバグの温床だ。……次で、あんたたちの電子の要塞を完全にチェックメイトしてやる」


メグのドローンが街のメイン電波塔に到達し、汚染コードを完全に流し込む。

画面上の敵のインフラ制御マップが、次々とエラーを示す赤色に染まっていく。前線のカレンと闇風が道を切り開き、俺とメグ、設置された蓮会長の知略が、ついに電子戦で敵の喉元を捉えようとしていた。

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