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最強ゲーマーの《多世界攻略録(マルチバースアーカイブ)》  作者: 紅柳
第四編 サイバーレギオン編 
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第25話:日常ハックと反撃仕様ハック

激動の黒死大戦を潜り抜けた街は、何事もなかったかのように平穏な日常を取り戻していた。


駅前のファミレス。西日の差し込むボックス席のテーブルには、食べ終えたドリアの皿と、山盛りのホイップクリームが載ったストロベリーパフェが置かれている。


「はぁ……やっぱり、命懸けのバトルの後に食べるパフェは脳に染みますね!」


そう言って嬉そうに長いスプーンを動かしているのは、一条カレンだ。生徒会副会長であり、普段の凛とした佇まいからは想像もつかないほど今は無邪気に笑っている。だが、彼女が座る椅子のすぐ横には、いつでも抜刀できる角度で一本の木刀が立てかけられていた。


「カレン、生クリーム食べすぎ。戦闘データの回収中に隣で咀嚼音がすると集中できないんだけど」


対面に座るメグが、トレードマークの丸メガネをクイと押し上げながら、慣れた手つきでノートPCのキーボードを叩く。彼女はゲーム時代からギルドを支える凄腕の錬金術師だ。リアルでもその知識を遺憾なく発揮し、今回は『黒死大戦』で収集したデバフドローンの戦闘ログを次々とアップデートしていた。


「まぁまぁ。それよりメグ、ドローンの調子はどうなんだ?」


カレンの隣で、器用にストローでアイスコーヒーを飲みながら尋ねたのは闇風だ。一見すると物静かな少年だが、その正体は空手と柔道を極めて融合させた、アサシン風の近接格闘スタイルの達人である。


Andその3人のやり取りを少し離れた席から苦笑交じりに見守っているのが、俺――青真だった。


この世界がクソゲーの仕様と現実化したあの日から、俺たちの戦いは始まった。俺自身のステータスは完全に『クソ雑魚(最弱)』。前線で戦うカレンや闇風の足元にも及ばない。だが、元・伝説的ゲーマーとしての圧倒的なゲーム知識と、数秒先を予見する技術、『予測演算タクティカル・フォーサイト』があれば、この理不尽な現実のバグを突いて無双することができる。


「みんなのおかげで、ひとまずは大物組織を一つ潰できた。……本当に助かったよ」


俺がそう呟いた、その瞬間だった。


ジ、ジジッ……。


心地よく流れていた店内のBGMが、突如として不快な電子音を立てて途切れた。

同時に、店内にいる客たちのスマートフォンが一斉に、聞いたこともないような甲高い警告音を鳴らし始める。


「――っ!? 青真、これ……!」


メグが目を見開く。彼女の丸メガネの奥の瞳が捉えたのは、ノートPCの画面が暗転し、不気味な深い緑色のコードが滝のように流れ落ちていく光景だった。液晶画面の真ん中に浮かび上がったのは、見慣れない電子の紋章――『サイバーレギオン』のロゴマーク。


それだけではない。店内の全モニター、外の自動販売機の電子パネル、そのすべてが瞬時にハッキングされ、同じロゴに塗り潰されていく。


街全体のシステムが、一瞬にして書き換わっていくような強烈な違和感。

俺の脳内で、眠っていた『予測演算』の回路がガチリと噛み合い、爆発的な速度で周囲の情報を計算し始めた。


「みんな、伏せろッ!!」


俺の叫び声と同時に、外の交差点から激しいタイヤの摩擦音が響く。

見れば、無人の大型トラックが、システムを完全に遠隔ジャックされた状態でギヤを限界まで上げ、俺たちがいるファミレスのガラス窓に向かって猛スピードで突っ込んできていた。


衝突まで、あと1.2秒。

最悪のステータスを持つ俺の肉体では、逃げることすら間に合わない。だが、脳内の演算はすでに『ハメ技の仕様』を完成させている。


「カレン! 木刀で正面の厚手のテーブルを斜め45度に弾き飛ばせ! それを傾斜にして衝撃を受け流す! 闇風はメグを連れてカウンターの死角へ!」


「はいッ、一条流――!」


コンマ数秒の指示に、仲間たちは完璧に身体を動かした。

カレンが電光石火の速さで木刀を一閃。凄まじい脚力から繰り出された一撃が重いテーブルを完璧な角度で跳ね上げる。直後、ガラスを粉砕して突っ込んできた大型トラックのフロントが、カレンの作った『傾斜』に乗り上げ、凄まじい火花と爆音を立てて店の天井へと撥ね上げられた。


ズウゥゥゥンッ!!!


瓦礫と白煙が店内に立ち込める。闇風の素早い身のこなしのおかげで、メグも青真もかすり傷一つ負っていない。


無人トラックのハザードランプが虚しく点滅する中、静まり返った店内に、俺たちのスマホから同時に、歪んだ合成音声が流れ響いた。


『百華繚乱。お前たちの現実ゲームは、ここでサービス終了だ』


姿の見えない電子の犯罪組織からの、明確な宣戦布告。


キィィッ――。


割れたガラスの向こう、瓦礫の山となったファミレスの目の前に、一台の黒いリムジンが音もなく滑り込んできた。後部座席のドアが開き、仕込み傘を傍らに置いた男が静かに声をかける。


「無事かい、皆。敵の挨拶代わりにしては、少しばかり品がないね」


ギルド『百華繚乱』の会長――一条蓮だ。


「蓮会長……!」

「詳しい話は車内だ。ここはすぐに警察と野次馬で埋まる。乗るんだ」


俺たち4人は即座にリムジンへと飛び乗った。ドアが閉まると同時に、高級感溢れる車内は臨戦態勢のブリーフィングルームへと変貌する。


蓮会長が手元の端末を操作し、立体ホログラムのマップを展開した。

「奴らの名は『サイバーレギオン』。この街の裏のインフラ、電子マネー、通信網、自動運転システムを完全に掌握している本物の電子犯罪組織だ。今までの不良の集まりとは規模が違う。……青真、何か勝算はあるかい?」


圧倒的な資金力と技術力を誇る、電子の要塞。

だが、蓮会長の問いかけに、俺はゆっくりと不敵に口元を歪めた。


「ありますよ、会長。奴らは街のシステムを支配しているつもりでしょうが、元がクソゲーの仕様である以上、支配領域を広げれば広げるほど、システム的な『脆弱性バグ』も肥大化するんです」


俺はメグの方を向いた。

「メグ、さっきのハッキングの逆探知ログ、どこまで追えた?」


「ふふん、私を誰だと思ってるの?」

メグは丸メガネを指でクイと動かし、画面に不敵な笑みを浮かべた。

「自動運転の制御信号の裏プロトコルを逆流させて、奴らの資金管理サーバーの隠し座標(IPアドレス)を、完全にロックオンしてあるよ。デバフの追跡マーカーはバッチリ刺さってる」


「よし」

俺はマップを指差し、ギルドのメンバーを見回した。


「姿も見せないハッカー気取りの犯罪組織ですか。……まずは奴らの隠し口座を、仕様バグを使って丸ごとハめ取ってやりましょう。百華繚乱の、反撃開始です」

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