第181話:混戦
「行くぞ!!」
ウルフが地面を蹴った。
ドォン!!
地下通路の床が僅かに沈み、一瞬で青真との距離を詰める。
大剣が振り下ろされた。
ガギィィン!!
銀河と大剣が正面から激突する。
凄まじい衝撃。
青真の足元へ亀裂が走る。
「……重いな。」
青真は歯を食いしばりながら剣を押し返す。
「その程度か。」
ウルフがさらに力を込める。
「PRIMEならもっと楽しませろ。」
「そっちこそ。」
青真は僅かに笑った。
「俺一人だけ見てていいのか?」
ウルフの目が動く。
その瞬間。
背後から闇風の二本の短剣が襲う。
「っ!」
ウルフが大剣を振り抜く。
キィン!!
二本の短剣が弾かれ、壁へ突き刺さった。
「おっと。」
コヨーテが笑う。
「俺の相手を忘れてもらっちゃ困るぜ。」
「忘れてない。」
闇風が既にコヨーテの背後へ回っていた。
「なっ――!」
コヨーテが振り返る。
闇風の双短剣が迫る。
ガキィン!!
コヨーテも短剣を交差させ、辛うじて受け止める。
「速いな。」
「お前もな。」
二人が同時に距離を取った。
その間にも戦場は動き続けていた。
「さて。」
ディンゴが魔導杖を掲げる。
「施設内魔力回路、第二層へ接続。」
カチッ。
壁の魔導装置が一斉に輝いた。
床へ無数の魔法陣が展開される。
「何これ……!」
メグが杖を構える。
次の瞬間。
床の一部がせり上がった。
巨大な壁が二人の間へ出現する。
「分断するつもりか!」
メグが叫ぶ。
「その通り。」
ディンゴは淡々と答えた。
「この施設そのものが戦場だ。」
「だったら――!」
メグが手を前へ突き出す。
「《重力領域》!」
ズンッ!!
床へ発生した重力場によって、せり上がった壁の動きが鈍る。
「今!」
カレンが走った。
壁を蹴り、そのままマスティフへ斬り込む。
「はあっ!」
斬撃が盾へ叩き込まれる。
ガァン!!
マスティフの巨体が僅かに後退する。
マスティフが楽しそうに笑った。
「いい一撃だ!」
戦斧が横薙ぎに振られる。
カレンは身を屈めて回避。
そのまま懐へ入り込もうとする。
しかし。
「そう簡単には通さねぇ!」
マスティフが盾を突き出す。
ドンッ!!
カレンの身体が押し戻された。
「くっ……!」
「力なら俺の方が上だ!」
マスティフが戦斧を振り上げる。
その瞬間。
「カレン!」
メグの声。
カレンは横へ飛ぶ。
直後、メグが放った重力弾がマスティフの盾へ直撃した。
ズンッ!!
巨大な盾が床へ押し付けられる。
「今よ!」
カレンが踏み込む。
「はあああっ!」
斬撃。
マスティフが盾で受け止める。
その瞬間、カレンは剣の向きを変えた。
「吹き飛べ!」
風を纏った斬撃が盾を大きく弾く。
「ぐおっ!?」
マスティフの巨体が後方へ飛ぶ。
その先には――。
「おっと。」
青真がいた。
「ちょうどいいところに来たな。」
青真が銀河を振り抜く。
ドゴォン!!
マスティフの巨体がさらに横へ吹き飛ばされる。
「ホームラン!」
「誰がボールだ!!」
マスティフが怒号をあげる。
青真は笑った。
だが。
「調子に乗るな。」
低い声。
ウルフが青真へ迫っていた。
「危ない!」
カレンが叫ぶ。
青真は未来予知を発動する。
視界へ数秒先の未来が流れ込む。
大剣。
斜め上からの斬撃。
さらに二撃目。
そして三撃目。
「見えた。」
青真は一歩下がる。
大剣が目の前を通過する。
二撃目。
身体を捻る。
三撃目。
銀河で受け流す。
「なに?」
ウルフの表情が僅かに変わった。
「全部読んでいるのか。」
「まあな。」
青真が銀河を横へ構える。
「でも――。」
銀河が青白く輝いた。
「これだけなら、まだ普通の戦いだ。」
キィン――。
銀河の刀身が分離する。
一本。
二本。
三本。
やがて七本。
「銀河。」
七振りの銀色の魔剣が青真の周囲へ浮かび上がる。
コヨーテが目を細めた。
「またそれか。」
ディンゴも即座に反応する。
「警戒しろ。」
「その剣は通常のアーティファクトとは性能が違う。」
「分かってる!」
マスティフが盾を構え直す。
ウルフが大剣を握り直す。
コヨーテは三つの幻影を生み出した。
ディンゴはさらに魔導装置を起動する。
「来るぞ。」
青真が手を前へ向けた。
七振りの剣が一斉に動く。
ヒュンッ!!
銀色の刃が四方向へ飛び散った。
一本がウルフへ。
二本がマスティフへ。
二本がディンゴへ。
残り二本がコヨーテへ。
「散れ!」
コヨーテの幻影が一斉に走り出す。
七振りの剣がそれぞれの敵を追う。
だが。
「甘い。」
ディンゴが杖を振る。
床から巨大な魔法陣が出現する。
「魔力偏向。」
ゴォン!!
空間が歪み、銀河の軌道が僅かに逸れた。
一本の剣が壁へ突き刺さる。
「なるほど。」
青真が目を細める。
「施設の魔力回路で、攻撃の軌道まで変えられるのか。」
「正確には。」
ディンゴが答える。
「この施設内に存在する魔力の流れを、私が操作している。」
「なら、その流れごと変えればいい。」
メグが杖を構える。
「《重力領域》!」
ズンッ!!
今度はディンゴの魔法陣そのものへ重力が掛かる。
魔法陣が歪む。
「……!」
ディンゴの眉が僅かに動いた。
その隙に。
「そこだ。」
青真が指を動かす。
銀河の剣が軌道を変えた。
七振りの刃が再び敵へ迫る。
しかし。
「させるか!」
ウルフが大剣を振る。
ガギィン!!
二本を弾く。
マスティフも盾を構え、二本を受け止める。
コヨーテは幻影を囮にして、残った二本を避けた。
「危なかったな。」
コヨーテが笑う。
「でも――。」
その姿が一瞬消える。
「こっちも忘れるなよ。」
「!」
闇風の背後。
コヨーテが現れた。
短剣が振り抜かれる。
しかし。
キィン!!
闇風が振り返りざまに受け止めた。
「読めてる。」
「いや。」
コヨーテが笑う。
「これはどうだ?」
幻影が一斉に増える。
四人。
八人。
十六人。
地下通路を埋め尽くすほどのコヨーテ。
闇風の目が細くなる。
「……数が多いな。」
「さて、本物はどれでしょう?」
コヨーテ達が一斉に笑った。
同時に。
ディンゴの魔法陣が再び輝く。
ウルフとマスティフが同時に踏み込む。
四人の幹部による連携攻撃。
青真達は一斉に迎え撃つ。
地下施設全体を揺らすほどの衝撃が、再び戦場へ響き渡った。
銀河の七振りが壁を跳ね、ウルフの大剣と激突する。
ガギィン!!
「くっ……!」
ウルフが一本を弾いた。
しかし、その直後。
「もう一本!」
青真が意識を向ける。
死角から回り込んだ銀河の刀身が、ウルフへ迫る。
「させるか!」
マスティフが巨大な盾を割り込ませた。
ガァン!!
刀身が盾へ弾かれる。
「助かったぜ!」
「礼はいい!」
マスティフが笑う。
その瞬間。
「なら、まとめて動きを止める!」
メグが杖を掲げた。
「《重力領域》!」
ズンッ!!
床一帯の重力が一気に強まる。
ウルフとマスティフの動きが僅かに鈍った。
「今!」
カレンが踏み込む。
「はあああっ!」
鋭い斬撃がマスティフの盾へ叩き込まれる。
ガァン!!
「ぐっ!」
さらに一撃。
「まだ!」
三撃、四撃。
盾を削ることはできない。
だが、カレンの連撃によってマスティフの意識が完全に前方へ向いた。
「いいぞ!」
マスティフが笑う。
「もっと来い!」
その背後。
「隙だ。」
闇風が現れた。
毒影の短剣がマスティフの背後へ迫る。
しかし。
「見えてるぜ!」
マスティフが身体を捻る。
盾が回転し、闇風の攻撃を防いだ。
「……!」
闇風が距離を取る。
「反応も悪くない。」
「俺は守るのが仕事だからな!」
マスティフが豪快に笑う。
その直後。
「――そこ!」
青真の声。
銀河の一振りがマスティフの足元へ飛び込む。
マスティフが避ける。
だが、そこへカレンの斬撃が重なる。
「逃がしません!」
「なに!?」
盾で受け止めた瞬間。
カレンは剣を滑らせ、マスティフの身体を横へ押し流した。
その先には青真。
「今度は俺か。」
銀河が振り抜かれる。
ドォン!!
マスティフの巨体が大きく後退する。
「おおおっ!」
壁へ叩き付けられる寸前、マスティフは盾を構えて衝撃を受け止めた。
「やるじゃねぇか!」
「そっちもな。」
青真が笑う。
その横では、闇風とコヨーテの戦いが続いていた。
無数の幻影。
十人以上のコヨーテが地下通路を駆け回る。
「こっちだ。」
「違う。」
「残念。」
「こっちが本物だ。」
声まで完全に同じ。
闇風は目を閉じた。
「……。」
「どうした?」
コヨーテが笑う。
「見えないなら、どうする?」
闇風は双短剣をゆっくり構え直す。
「見る必要はない。」
「!」
闇風が床を蹴った。
一気に加速する。
幻影を無視し、一直線に壁際へ向かう。
「そこだ。」
短剣が走る。
キィン!!
本物のコヨーテが弾き飛ばされた。
「なっ……!」
「足音。」
闇風が短く答える。
「幻影には出せない。」
「なるほど。」
コヨーテは楽しそうに笑った。
「だったら――。」
指を鳴らす。
パチン。
周囲の幻影が一斉に走り始めた。
今度は全ての幻影が足音を立てる。
「……面倒だな。」
闇風が小さく呟いた。
その時。
「闇風!」
青真の声が飛ぶ。
「上!」
闇風が反射的に跳ぶ。
直後、天井から魔法弾が降り注いだ。
ドドドドドッ!!
ディンゴが魔導杖を掲げている。
「施設内魔力回路を利用すれば、どこからでも攻撃できる。」
「厄介だな。」
闇風が着地する。
「そうでしょう。」
ディンゴは淡々と答える。
「この場所では私の方が有利です。」
しかし。
「だったら――。」
メグがディンゴを見据える。
「その魔力回路を止めればいい。」
「可能だと?」
「試してみる。」
メグが壁へ手を添える。
魔力を流す。
「……構造は分かった。」
ディンゴの表情が初めて変わった。
「何?」
「この施設の魔力は、全部ここを通ってる。」
「なら――。」
メグが杖を振る。
「《逆流》!」
ズンッ!!
重力によって魔力の流れが一瞬だけ乱れる。
魔導装置が次々と明滅した。
「施設制御に干渉しただと……?」
ディンゴが後退する。
その瞬間。
「今だ!」
青真が叫ぶ。
七振りの銀河が一斉に動く。
ウルフ。
マスティフ。
ディンゴ。
コヨーテ。
四人へ向かって銀色の刃が迫る。
だが敵も即座に反応した。
「ウルフ!」
「分かってる!」
ウルフが大剣を振り抜く。
「マスティフ!」
「任せろ!」
巨大な盾が前へ出る。
「コヨーテ、左!」
「了解!」
幻影が広がる。
「ディンゴ!」
「魔力回路、再接続!」
四人が一斉に動く。
それぞれが互いを補い、銀河の攻撃を防いでいく。
「……!」
青真の表情が変わる。
「また防がれた。」
カレンが隣へ並ぶ。
「こちらの攻撃を見てからではありません。」
「最初から、お互いがどう動くか分かっている。」
闇風も短く頷く。
「連携が完成している。」
メグが魔導装置を見つめる。
「しかもディンゴが施設を使って戦場そのものを変えてる。」
青真は銀河を握り直す。
敵は強い。
だが、それ以上に厄介なのは四人の連携だった。
一人を狙えば別の一人が守る。
防御を崩そうとすれば、別方向から攻撃が飛んでくる。
幻影で視界を乱されれば、施設の魔導装置が追撃してくる。
「なるほど……。」
青真は静かに息を吐いた。
「普通に戦ってたら、いつまでも終わらないな。」
カレンが青真を見る。
「では、どうします?」
青真は仲間を見る。
闇風。
メグ。
カレン。
四人の視線が交差する。
「まだあるだろ。」
青真が笑った。
「俺達にも。」
闇風が短剣を構える。
「……次の手か。」
メグも杖を握り直す。
「少し変えてみる?」
カレンが剣を構える。
「青真に任せます。」
青真は銀河を見つめる。
「決まりだ。」
その言葉と同時に、四人の幹部も再び構えを取った。
ウルフが大剣を肩へ担ぐ。
コヨーテが双短剣を回す。
ディンゴが魔導杖を掲げる。
マスティフが巨大な盾を構える。
地下通路の空気が、再び張り詰める。
まだ誰も倒れていない。
だが。
次の一手から、戦いは大きく変わろうとしていた。
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