第182話:一転
張り詰めた空気の中。
PRIMEと四人の幹部が、再び同時に動いた。
「来るぞ!」
ウルフが大剣を構える。
その瞬間、青真の周囲に浮かんでいた銀河の七振りが、ゆっくり上空へ移動した。
「今までと同じだと思うなよ。」
青真が手を上げる。
七振りの銀河が縦一列へ並んだ。
そのまま七本すべてが一直線に連なる。
「……何をする気だ?」
ウルフが目を細める。
次の瞬間。
七振りの銀河が、一斉に落下した。
「行け!」
ドドドドドドドン!!
巨大な剣の雨が、ウルフへ迫る
ウルフは一瞬だけ動きを止めた。
そして。
「面白い!」
地面を強く蹴る。
身体を後方へ反らし、空中で一回転。
次々と降り注ぐ銀河を紙一重でかわしていく。
最後の一振りが地面へ突き刺さった瞬間、ウルフはそのまま着地した。
ドンッ!!
「全部避けたか!」
青真が目を見開く。
「当然だ!」
ウルフは着地と同時に大剣を構える。
「この程度で止まると思うな!」
そのまま青真へ向かって突進する。
青真は未来予知を発動した。
大剣の軌道。
踏み込み。
次の一撃。
さらにその次。
未来の光景が連続して流れ込んでくる。
「来る。」
青真は銀河を一振りへ戻した。
大剣と銀河が激突する。
ガギィィン!!
激しい衝撃が地下施設へ響き渡る。
しかし。
「今までとは違うな。」
ウルフが笑う。
「使い方を変えたか。」
「さあな。」
青真は一度距離を取った。
その頃。
闇風とコヨーテの戦いにも変化が起きていた。
「こっちだ!」
コヨーテが幻影を生み出す。
十人。
二十人。
無数のコヨーテが闇風を取り囲む。
「どれが本物か分かるか?」
「……。」
闇風は答えない。
代わりに。
双短剣を両手から放った。
ヒュンッ!!
二本の短剣が空中で大きく弧を描く。
「何?」
コヨーテが目を見開く。
短剣は幻影の間を抜け、奥の壁へ向かう。
しかし壁へ刺さる寸前。
軌道が変わった。
ぐるりと弧を描き、闇風の方向へ戻ってくる。
闇風は走る。
三方向から同時にコヨーテへ迫る。
「これなら――。」
闇風が低く姿勢を落とす。
「逃げ場はない。」
コヨーテは慌てて幻影を重ねる。
だが闇風は幻影を無視して、一気に距離を詰めた。
その直後。
戻ってきた二本の短剣が、左右からコヨーテを挟むように通過する。
「くっ!」
コヨーテは身を捻って回避した。
「なるほど……。」
初めて、その表情から余裕が消える。
闇風は落ちてきた短剣を再び手に取る。
その言葉と同時に、コヨーテが笑った。
「だったら、もっと面白くしてやるよ!」
幻影が再び増殖する。
今度は全ての幻影が、闇風と同じように短剣を構えた。
一方。
メグとディンゴの戦場では、白い煙が再び広がっていた。
「また煙幕か。」
ディンゴが杖を掲げる。
「同じ手は通用しない。」
魔導装置が起動する。
熱感知。
魔力感知。
空間探知。
複数の索敵装置が煙の中を捉えようとする。
「見つけた。」
ディンゴが杖を向ける。
しかし。
「残念。」
メグの声が背後から響いた。
「そっちはハズレ。」
「何!?」
ディンゴが振り返る。
そこには誰もいない。
次の瞬間。
「こっちよ!」
正面からメグが飛び出してきた。
魔導之杖へ炎が集まる。
「はあっ!」
炎を纏った杖が振り抜かれる。
ガァン!!
ディンゴの杖と激突する。
「術師が接近戦だと?」
「錬金術師だからって、後ろにいるとは限らないでしょ!」
メグはそのまま杖を押し込む。
さらに。
「《重力領域》!」
ズンッ!!
周囲の重力が一気に増加した。
ディンゴの足が床へ沈む。
「くっ……!」
その隙にメグは煙の中へ消える。
「またか……!」
ディンゴが周囲を見回す。
煙の向こうから、メグの声だけが響いた。
「探してみなさい。」
カレンとマスティフ。
こちらも真正面から激突していた。
「来い!」
マスティフが盾を構える。
カレンは正面から走り込む。
「はああっ!」
剣が盾へ叩き込まれる。
ガァン!!
「まだまだ!」
カレンはその反動を利用して空中へ跳んだ。
身体を回転させる。
「上からです!」
斬撃が振り下ろされる。
マスティフは盾を掲げた。
ガァン!!
「効かねぇぞ!」
「そうですか。」
カレンは空中で身体を捻る。
そのまま着地せず、宙を足場にするように横へ移動した。
「なら、こちらです!」
横薙ぎの斬撃。
マスティフが盾を動かす。
しかし。
「遅い!」
カレンの斬撃が盾の側面へぶつかる。
マスティフの身体が僅かに横へ流れた。
そこへ。
「闇風!」
「分かってる。」
闇風が飛んでくる。
だがコヨーテの幻影が間へ割り込んだ。
「そう簡単には行かせない!」
「なら――。」
カレンが剣を振る。
暴風が発生する。
幻影がまとめて吹き飛ばされた。
「道を開けます!」
「助かる。」
闇風がその隙を抜ける。
一瞬だけ、二人の視線が交差した。
「次。」
「任せる。」
短いやり取り。
それだけで十分だった。
その直後。
「面白くなってきたな!」
ウルフが大剣を振り上げる。
「行くぞ!」
マスティフが盾を構える。
コヨーテが幻影を展開する。
ディンゴが施設の魔導装置を再起動する。
四人の幹部が同時に攻撃態勢へ入った。
「来る!」
メグが叫ぶ。
「全員、散開!」
四人が同時に動く。
魔導砲が走る。
幻影が駆ける。
大剣が振り下ろされる。
盾が突き出される。
それぞれの攻撃が重なり、地下施設全体が激しく揺れた。
だが。
PRIMEも、もう先ほどまでとは違う。
青真の銀河が空を舞う。
闇風の二本の短剣が大きな弧を描く。
メグの煙幕が視界を奪う。
カレンの斬撃が敵の位置を強引に動かす。
四人の戦い方そのものが変わり始めていた。
そして。
「今ならいける。」
青真が呟く。
未来予知へ映る光景。
ウルフが踏み込む。
マスティフが盾を構える。
コヨーテが幻影を生み出す。
ディンゴが魔導装置へ魔力を流す。
その瞬間。
青真は笑った。
「次は、全員で合わせるぞ。」
カレンが頷く。
「分かりました。」
闇風が短剣を構える。
「了解。」
メグも杖を握り直す。
「オッケー。」
四人の視線が交差する。
次の瞬間。
戦場へ、四人の軌跡が走り出した。
カレンの声と同時に、四人がそれぞれ別方向へ駆け出した。
「来い!」
ウルフが青真へ向かって踏み込む。
だが青真は迎え撃たなかった。
銀河の刀身が空中へ浮かび上がる。
「《魔力弾》。」
無数の魔力弾が一斉に放たれた。
ドドドドドドッ!!
「魔法か!」
ウルフが魔剣を振るう。
迫った魔力弾を斬り払いながら前進する。
しかし、その間にも銀河が次々と飛来した。
「くっ……!」
巨大な魔剣で受け止める。
その隙に、さらに魔力弾が降り注ぐ。
青真は距離を保ったまま、攻撃を止めなかった。
一方。
コヨーテを追う闇風は一直線に駆けていた。
走りながら右手の短剣を投げる。
ヒュンッ!
コヨーテの横を通過した短剣が壁へ突き刺さる。
「そんなところに投げて何する気?」
コヨーテが笑う。
その瞬間。
闇風は左手の短剣を構えたまま、一気に距離を詰めた。
「――!」
斬撃。
コヨーテが幻影を作り出す。
だが闇風は止まらない。
左の短剣で幻影を切り払いながら、そのまま本体へ迫る。
「見えてるぞ。」
「へぇ?」
コヨーテが身を翻す。
その瞬間。
壁に突き刺さっていた短剣が跳ね返った。
ヒュンッ!
背後から戻ってきた短剣がコヨーテへ迫る。
「おっと!」
コヨーテが身体を捻る。
短剣は肩を掠め、そのまま闇風の手元へ戻った。
闇風はキャッチした短剣を一瞬で握り直す。
「逃がさない。」
一方を投げ、もう一方で斬り込む。
そして戻ってきた短剣でさらに追撃。
闇風の攻撃は止まらなかった。
「厄介だな……!」
コヨーテの表情から、初めて余裕が消える。
その頃。
メグの周囲には白い煙が広がっていた。
「さて。」
煙の中でメグが魔導具へ魔力を流す。
ズズズズズ……。
煙の奥から巨大な影が現れる。
一体。
二体。
三体。
さらに五体、十体。
次々とゴーレムが姿を現した。
「なに……!?」
ディンゴが目を見開く。
煙幕の中をゴーレム達が一斉に走り始める。
右から一体。
左から二体。
正面から三体。
「どれが本物だ!」
ディンゴが魔法陣を展開する。
しかしゴーレム達は攻撃を受けるたびに煙の中へ消え、別の場所から再び現れる。
「全部ゴーレムよ。」
メグの声だけが響く。
「だから全部相手してね。」
ディンゴが魔力を解放する。
魔法陣から無数の魔法が飛び出す。
ゴーレム達が次々と吹き飛ばされる。
しかし。
「まだまだ!」
煙の中からさらにゴーレムが現れる。
その数は増え続けていた。
そしてメグは静かに魔導之杖を掲げる。
「そろそろ仕上げ。」
魔力が一気に膨れ上がる。
「大魔法、《雷電大魔槍》――!」
轟ッ!!
巨大な雷の槍が魔法陣から生み出される。
その数は一本ではない。
十数本の雷槍が空中へ浮かび上がり、煙幕の外側まで広がっていく。
「潰す!」
ドォォォォォン!!
雷槍が一斉に降り注ぐ。
ディンゴは魔法障壁を展開する。
轟音が響き、床が激しく震えた。
一方。
マスティフと対峙していたカレンは、真正面から剣を交えた。
「重い……!」
戦斧を受け流した瞬間、カレンはその勢いを利用して跳躍する。
「なに!?」
空中へ舞い上がる。
マスティフが追撃しようと戦斧を振り上げた。
しかし。
カレンは空中で身体を捻る。
剣を横薙ぎに振るった。
バシュッ!!
強烈な剣圧が発生する。
空気そのものが一瞬だけ硬質化し、カレンの足場となった。
「なんだその動きは!?」
マスティフが驚く。
カレンは固めた空気を足場に、さらに跳躍する。
一段。
二段。
三段。
まるで空そのものを階段にするように高度を上げていく。
「ここです!」
上空から急降下。
「ぐっ!」
マスティフが盾を掲げる。
激しい衝撃が響く。
カレンは盾を踏み台にして再び空中へ跳ね上がった。
「まだ終わりません!」
空中で身体を反転。
剣圧を放つ。
マスティフの足元へ衝撃が走り、巨体が僅かに浮き上がった。
「ぬおおおっ!?」
カレンはそのまま追い掛ける。
斬撃。
回転。
剣圧。
跳躍。
連続する攻撃によって、マスティフは完全に上空へ引きずり出されていく。
カレンは剣を構え直す。
その時。
青真の銀河が再び空を埋め尽くした。
七振りの銀河の刀身。
その下を闇風が駆け抜ける。
さらにメグの雷槍が戦場へ降り注ぐ。
カレンが空中から敵を翻弄する。
四人の戦い方が完全に変わった。
敵四人は、これまでのように互いを援護する余裕を失い始めていた。
「ディンゴ!」
ウルフが叫ぶ。
「こっちは構わない!」
ディンゴが答える。
「まず自分の相手を倒せ!」
コヨーテも笑う。
「それなら――」
幻影が一斉に消える。
本体だけが残った。
「俺も本気で行くよ。」
マスティフは盾を構え直す。
「こいつを叩き落とす!」
ウルフも魔剣へ魔力を集中させる。
「こちらから踏み込むまでだ。」
四人の敵も、それぞれが単独で突破するための動きを始める。
青真は飛来する魔力を銀河で弾く。
闇風は二本の短剣を交互に投げる。
メグは煙幕の中で新たなゴーレムを生み出す。
カレンは空中で剣を構える。
それぞれの戦場が、激しくぶつかり合う。
そして――。
四人の戦いは、次の段階へ進もうとしていた。
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