↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/180

第179話:改造魔獣

ネメシス本拠地地下深部。

重い扉が閉じる音が、長い通路の奥へ響いた。


ゴゴゴゴゴ……。

青真達四人は、薄暗い地下通路を進んでいた。


天井には一定間隔で魔導灯が設置されている。

しかし、その光は弱い。

まるで侵入者を誘導するように、遠くまで続いていた。


「……静かすぎるな。」

青真が小さく呟く。


先頭を歩く闇風が足を止めずに答える。

「罠かもしれない。」

「さっきまで外があれだけ騒がしかったのに、ここまで何の反応もない。」


メグが周囲を見回す。

「警備を外側へ集中させているのかも。」

「私達が内部へ入ることを想定していない……?」


カレンが首を横に振る。

「いえ。」

「ここがネメシスの本拠地なら、そんなはずはありません。」


その言葉に、青真も頷いた。

「だよな。」


銀河へ手を添える。

いつでも抜けるように意識しながら、四人はさらに奥へ進んでいく。


しばらくすると、通路の壁に大きなガラス窓が現れた。

その向こうには、広大な研究室が広がっている。


無数の魔導装置。

巨大な魔力炉。

床を這うように伸びる魔力配線。


そして。


「……何だ、これ。」

青真が足を止めた。


研究室の中央。

巨大な金属製の檻がいくつも並んでいた。

中には何もいない。


だが、床には深い爪痕が残っている。

「魔獣用の檻ですね。」


メグがガラスへ近付く。

「かなり大型。」

「しかも……。」

彼女は壁際の端末へ目を向ける。

「まだ電源が入ってる。」


闇風が周囲を警戒する。

「触るな。」


「分かってる。」

メグは慎重に端末へ魔力を流した。


画面が一度暗くなり。

その後。

大量の文字列が表示された。


「……研究記録。」

メグの表情が変わる。


「魔獣の身体能力強化。」

「魔力回路の人工改造。」

「外部スキルの移植……。」


青真が眉をひそめる。

「スキルの移植?」


「うん。」

メグは画面をスクロールする。

「最初は失敗例が多いみたい。」


「魔獣の魔力回路と、移植するスキルの相性が合わなくて暴走したり……。」

「身体そのものが耐えられなかったりしてる。」


カレンが記録を覗き込む。

「ですが、最近の記録は……。」


「成功率が上がっている。」

メグが呟いた。


その瞬間。

通路の奥から。

ドンッ。

何かが床を踏み鳴らす音がした。

四人が一斉に振り返る。


ドンッ。

また一歩。

重い。

だが、近付いてくる速度は異常に速い。


「来る。」

闇風が双短剣を抜いた。


青真も銀河を抜く。

キィン――。

蒼白い刀身が薄暗い通路を照らした。

カレンが剣を構える。

メグは魔力を集中させる。


そして。

通路の先に、一体の巨大な魔獣が姿を現した。


「……!」

四人の表情が変わる。


それは、狼に似た魔獣だった。

しかし通常の狼型魔獣とは明らかに違う。


全身を覆う毛皮の一部が金属化している。

背中には魔導装置が埋め込まれ、赤い魔力管が首から脚へ伸びていた。


右前脚には巨大な魔力爪。

さらに胸部には、人工的に組み込まれた魔力核が浮かんでいる。


「改造魔獣……。」

メグが呟いた。


魔獣が低く唸る。

グルルルル……。


その瞬間。

姿が消えた。


「速い!」

闇風が反応する。


直後。

ガキィン!!

青真の銀河へ魔獣の爪が叩き込まれた。


衝撃で足元の床が砕ける。

「くっ……!」


青真が押し込まれる。


未来予知。

数秒先。

魔獣の次の攻撃が見える。


青真は身体を捻り、爪を躱した。

そのまま銀河を振り抜く。

ザンッ!!

魔獣の肩へ斬撃が入った。


しかし。

「浅い……!」


魔獣が身体を捻り、距離を取る。

傷口から赤い魔力が流れ込んでいく。


メグが目を見開く。

「再生してる!」


「いや。」

青真が魔獣を見据える。

「普通の再生じゃない。」


傷口へ埋め込まれた魔導装置。

そこから魔力が流れ込んでいる。


「外部から魔力を供給してるのか。」

闇風が一瞬で魔獣の背後へ回る。

「なら、装置を壊す。」


短剣が閃く。

ガキン!!

しかし魔獣は身体を捻り、尻尾で闇風を弾き飛ばした。


「ちっ。」

闇風が着地する。

「動きまで普通じゃない。」


魔獣が再び地面を蹴った。

今度はカレンへ向かう。

「カレン!」


カレンは動じない。

剣を構え、魔獣の爪を受け流す。


「重い……!」

しかし、その瞬間。


魔獣の身体が不自然に跳ねた。

空中で身体を反転。

本来なら不可能な角度から、再び爪が振り下ろされる。


カレンは後方へ跳んで躱した。

「今の動き……。」


カレンの目が細くなる。

「獣の動きではありません。」

「何か別の技術を使っています。」


メグが端末の記録を思い出す。

「外部スキル……。」


その言葉に、青真が反応する。

「まさか。」


魔獣が再び姿を消した。

未来予知。

青真の脳裏へ複数の未来が流れ込む。


右。

左。

正面。


さらに。


「上……!」


青真が叫んだ。

天井から魔獣が落下してくる。


ドォン!!

床が大きく陥没した。

青真達は一斉に散開する。


魔獣が着地すると同時に、背中の魔導装置が赤く輝いた。

「グオオオオオッ!!」

魔力が一気に膨れ上がる。


メグが端末を確認する。

「やっぱり……!」


「この魔獣、A+級。」

「でも、それだけじゃない。」

「移植されたスキルが複数ある。」


青真が銀河を構える。

「どんなスキルだ。」


「まだ全部は分からない。」

メグは端末を見ながら答える。

「高速移動系。」

「それから再生系。」


「あと……。」


魔獣の口元へ魔力が集まる。

「遠距離攻撃系もある!」


「来ます!」


魔獣が咆哮する。

次の瞬間。

無数の赤い魔力弾が放たれた。


ドドドドドドドッ!!


「散開!」

四人が一斉に飛び退く。

魔力弾が床を抉り、壁を砕いていく。


青真は銀河を振るい、迫る魔力弾を斬り落とす。

闇風は壁を蹴りながら高速で回避する。

カレンは剣で魔力弾の軌道を逸らす。

メグは魔法障壁を展開した。


それでも。

一発。

二発。

防ぎ切れない攻撃が続く。


「数が多い!」

メグが歯を食いしばる。


青真は未来予知で次々と攻撃を見切っていく。

だが、魔獣の動きが未来予知の映像とは微妙に違う。


「……変だ。」

青真が呟く。


「何がです?」

カレンが問い掛ける。

「未来予知で見た動きと、実際の動きが少しズレてる。」


「ズレ?」


「こいつ自身の動きじゃない。」

青真は魔獣の背中にある魔導装置を見る。

「誰かが後から動きを追加してるみたいだ。」


メグの表情が険しくなる。

「それって……。」

「移植されたスキルが、魔獣の本来の能力に干渉してる?」


「たぶん。」


魔獣が再び吠える。

赤い魔力管が激しく明滅する。


そして。

その身体が、また一瞬で消えた。


青真は銀河を握り直した。

「来るぞ。」


四人が構える。

地下研究施設に、再び巨大な足音が響いた。


一歩。

二歩。

そして。

改造された異形の魔獣が、再びPRIMEへ襲い掛かった。


改造魔獣が再び姿を消す。


「右!」

青真の声と同時に、闇風が横へ飛んだ。


直後。

ガキィン!!

魔獣の爪が、闇風のいた場所を切り裂く。


「助かった。」

闇風は着地すると、そのまま魔獣へ向かって走り出した。


「今度は俺が止める。」

一瞬で距離を詰める。


ザンッ!!

短剣が魔獣の前脚へ走る。


しかし。

ガキンッ!!

金属化した毛皮に弾かれた。

「硬い……!」


魔獣が身体を捻る。


闇風はすぐに後退した。

その瞬間。


魔獣の背中の魔導装置が赤く輝く。


「また来る!」

メグが叫んだ。


無数の魔力弾が闇風へ殺到する。


だが。


「任せて。」

メグが両手を広げた。

「《重力領域グラビティエリア》!」


ズンッ!!

空間そのものが重くなる。

飛来していた魔力弾の速度が一気に落ちた。


闇風はその隙間を縫うように駆け抜ける。

「今だ。」


一閃。

二閃。

三閃。


闇風の短剣が魔獣の脚へ連続して叩き込まれる。

しかし、魔獣は倒れない。


むしろ。

「グオオオオオッ!!」

魔力がさらに膨れ上がった。


「まずい!」

カレンが前へ出る。


魔獣の身体が一気に加速した。

重力領域を強引に振り切り、カレンへ突進する。


「カレン!」


「大丈夫です!」

カレンは剣を構えた。

魔獣の爪と剣がぶつかる。

ガキィィン!!


衝撃でカレンの足が床を滑る。

「くっ……!」

純粋な力では押し切られる。


それでもカレンは剣を離さない。

「この程度……!」


身体を捻る。

魔獣の力を受け流し、その勢いを利用して斜め上へ弾き飛ばす。


「今です!」

カレンが叫んだ。


魔獣の巨体が宙へ浮く。


青真が一歩踏み出した。

「分かった。」


銀河へ魔力を集中させる。

蒼白い光が刀身を包む。

「《属性付与魔力弾エンチャントマナショット》。」


複数の魔力弾が形成される。

「氷属性付与。」

光弾が青白い氷の魔力を纏う。

「追尾。」


ドォォォッ!!

無数の魔力弾が一斉に飛び出した。


空中の魔獣を追い続ける。

「グオッ!?」


一発。

二発。

三発。


魔力弾が次々と魔獣へ命中する。

氷が身体へ広がり、動きが鈍くなっていく。


だが。

「まだ倒れない!」

メグが叫ぶ。


魔獣の背中に埋め込まれた魔導装置が激しく明滅していた。


「魔力供給を続けてる!」


「なら、あれを壊す。」

闇風が走る。


魔獣は空中で身体を捻った。


しかし。

「逃がしません!」

カレンが跳躍する。


空中で魔獣へ追いつく。

「そこです!」

剣が背中の魔導装置へ突き込まれる。

ガキィン!!

装置の外殻へ亀裂が走った。


「闇風!」


「任せろ!」

闇風がさらに高く跳ぶ。

短剣を逆手に持ち替える。


「これで……!」

ザンッ!!

亀裂へ短剣が突き刺さる。

魔導装置が大きく揺れた。


「壊れた!」


魔獣の身体から赤い魔力が一気に噴き出す。

「グオオオオオオオッ!!」


地面へ落下する。

ドゴォン!!

研究室の床が大きく砕けた。


しかし。

まだ動いている。


「しぶとい!」

メグが魔力を集中させる。

「もう一度、重くする!」


「《重力領域(グラビティエリア)》!」


ズンッ!!

魔獣の巨体が地面へ押し付けられる。


だが、魔獣は四肢へ力を込める。

「グ……オオ……!」

少しずつ身体を起こしていく。


青真が未来予知を発動する。

数秒先。

魔獣が右前脚を振り上げる。


次に左。

そして。

胸部から最後の魔力弾。


「来る。」

青真が呟いた。

「カレン、三秒。」


「はい!」

カレンが魔獣の正面へ踏み込む。


「闇風、右。」


「了解。」

闇風が消える。


「メグ、そのまま。」


「分かった!」

三人が同時に動く。


魔獣の右前脚。

闇風が攻撃を誘導する。


左前脚。

カレンが受け流す。


そして。

魔獣の身体が完全に開いた。


「今だ!」

メグが重力を一点へ集中させる。


ズドンッ!!

魔獣の身体が完全に床へ押し付けられた。

「青真!」


青真は銀河を握り直した。

未来予知に映る。

魔獣の胸部。

魔力核。

そこだけが、一瞬だけ無防備になる。


「そこだ。」

青真が駆ける。


銀河の刀身が蒼白く輝く。

「合わせる!」


カレンが正面から斬り込む。

ザンッ!!


魔獣の防御が崩れる。

闇風が背後から駆け抜ける。

ザシュッ!!


魔導装置の残骸を完全に切り落とす。

メグが重力をさらに集中させる。


「今!」

青真が跳んだ。


銀河を大きく振り上げる。

「終わりだ!」


蒼白い斬撃が一直線に走る。

ドォォォォォン!!


魔獣の胸部を覆っていた装甲が砕ける。

露出した魔力核へ、銀河の刃が深く届いた。


ピシッ。

魔力核へ亀裂が走る。


そして。

パキィン!!


魔力核が砕けた。

魔獣の身体から力が抜ける。


「……グ……。」

巨体がゆっくりと倒れた。


ドォン。

静寂。

四人はしばらく動かなかった。


やがて青真が銀河を下ろす。

「……終わった。」


闇風が短剣を収める。

「かなり厄介だったな。」


カレンも息を整えながら頷く。

「通常のA級魔獣とは明らかに違いました。」


メグは倒れた魔獣へ近付く。

「原因は、やっぱりスキル移植ね。」


魔獣の身体には、まだいくつもの魔導装置が残されている。


メグがその一つへ手を伸ばす。


「高速移動。」

「再生。」

「遠距離攻撃。」

「少なくとも三種類。」


青真が眉をひそめる。


「魔獣に複数のスキルを組み込んでたってことか。」


「うん。」

メグが頷く。

「しかも、ただ強くするだけじゃない。」

「元々持っていた能力と組み合わせている。」


闇風が倒れた魔獣を見る。

「だから動きが読みにくかった。」


「未来予知でも完全には一致しなかったのは、そのせいですね。」

カレンが続ける。


「異なる能力を一つの個体へ無理に組み込んでいた。」


青真は研究室を見渡した。

「……ここで、こんな実験をしてたのか。」


その時。

研究室の奥から。

ピッ。

小さな電子音が響いた。


四人が一斉に振り返る。

壁際の大型モニターが自動的に起動する。

《実験体――戦闘終了》

《戦闘データ取得》

《スキル適合率――更新》


そして。


最後に表示された文字。

《次段階への移行準備》


メグの表情が険しくなる。

「次段階……?」


青真はモニターを見つめた。

「まだ、これが終わりじゃないってことか。」


地下施設のさらに奥。

閉ざされた巨大な扉の向こうから、低い駆動音が響き始める。


ゴォォォォォ……。


四人は武器を構え直した。

「行くぞ。」


青真の声に、三人が頷く。


PRIMEは、さらに深い場所へ続く通路へ足を踏み入れた。

読んでいただきありがとうございました!もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援してもらえると励みになりま

す!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。