第177話:突入
お待たせしました〜
東京各地で続いていた戦闘が、ようやく終わりを迎えた。
夜の街には、まだ戦闘の痕跡が残っている。
崩れた道路。
損傷した建物。
魔力の余波によって破壊された魔導設備。
だが、先ほどまで街中を駆け回っていた改人達の姿は、もうどこにもなかった。
青真は瓦礫の上から東京の街を見渡す。
「……静かになったな。」
隣ではカレンが剣を鞘へ収めていた。
「はい。」
「これで、改人による襲撃は終わったようです。」
闇風は周囲を確認しながら短く答える。
「反応も消えた。」
メグも通信端末を確認する。
「こっちも全部消えたわ。」
少し離れた場所では、レイジが他の隊員達と共に戦闘区域の確認を行っていた。
「こちら東地区。」
「改人反応、完全に消失しています。」
通信を終えたレイジが、青真達のもとへ戻ってくる。
「全区域、制圧完了です。」
「ご苦労。」
青真が短く答える。
レイジは頷いた。
「ただ、妙なんです。」
「妙?」
メグが聞き返す。
「はい。」
レイジは端末へ表示されたデータを見せる。
「改人達の行動記録を確認していたんですが、戦闘中に複数の施設へ立ち寄っています。」
画面へいくつもの地点が表示された。
「魔力研究施設。」
「通信中継所。」
「物流拠点。」
「それから魔導設備の保管施設です。」
青真が眉をひそめる。
「襲撃だけが目的じゃなかったってことか。」
「そう考えるのが自然です。」
レイジが頷く。
「各地点から、何らかの物資やデータが回収されています。」
闇風が画面を見る。
「回収した物はどこへ運ばれた?」
「それを追跡しています。」
その時だった。
複数の車両が道路の向こうから近付いてきた。
先頭の車両が停止すると、扉が開く。
降りてきたのは蓮だった。
「全員、無事か。」
「大丈夫です。」
カレンが答える。
蓮は周囲を一度見渡した。
「改人部隊は?」
「全区域で制圧完了しています。」
レイジが報告する。
「被害状況も現在まとめています。」
「そうか。」
蓮は頷いた。
だが、その表情は険しい。
「しかし。」
「今回の騒動は、まだ終わっていない。」
青真が蓮を見る。
「やっぱりですか。」
「ああ。」
蓮は端末を操作する。
東京全域の地図が空中へ展開された。
複数の施設が赤く表示される。
「今回、改人達が襲撃した場所をすべて繋げてみた。」
「すると、回収物の移動経路が一ヶ所へ集中していることが分かった。」
赤い線が次々と一本の場所へ集まっていく。
東京湾岸。
そして、その地下。
「……ここだ。」
青真が呟く。
蓮が頷く。
「地下施設。」
「ネメシスの本拠地と思われる場所だ。」
メグが画面を覗き込む。
「地下にこんな規模の施設があるの?」
「表向きの施設情報には存在しない。」
「だからこそ、見つけにくかった。」
蓮が地図を拡大する。
「今回の襲撃で、奴らが隠していた移動経路が露出した。」
「そこから逆算して、この場所を割り出した。」
闇風が静かに言う。
「つまり、今回の騒動そのものが本拠地へ繋がる手掛かりだった。」
「そういうことだ。」
青真は銀河の柄へ手を添えた。
「なら、今度はこっちから行く番だな。」
蓮は頷いた。
「ああ。」
「だが、正面から全員で突入するわけにはいかない。」
その言葉と同時に、蓮は少し離れた場所へ視線を向ける。
そこにはレイジと共に、三人の隊員が立っていた。
一人目。
サブマシンガン型の魔導銃を持つ青年。
軽装の戦闘服を身に着け、身軽そうな身体つきをしている。
二人目。
巨大な盾を背負った大柄な男。
腰には長剣。
背中には小銃を装備している。
三人目。
落ち着いた表情の女性。
その周囲には、淡い魔力の輪がいくつも浮かんでいた。
蓮が青真達へ向き直る。
「紹介しておこう。」
「今回、外部制圧を担当するA級隊員だ。」
先頭の青年が一歩前へ出る。
「黒瀬隼人。」
「A級。」
続いて、大柄な男が前へ出る。
「御堂剛志。」
「A級。」
短い自己紹介。
御堂は巨大な盾へ手を添える。
「防御と前衛は任せてください。」
そして最後。
女性が一歩前へ出た。
「桐生美咲。」
「A級です。」
周囲の魔法陣が静かに回転する。
「拘束、防御、攻撃魔法を担当します。」
青真は三人を順番に見た。
「よろしく。」
黒瀬が笑う。
「こちらこそ。」
カレンも頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
御堂が答える。
桐生も静かに頷いた。
「こちらこそ。」
レイジはその横で端末を確認している。
青真がレイジへ目を向ける。
「レイジも外側か。」
「はい。」
レイジが頷く。
「今回は外部部隊の通信と索敵、それから戦闘後の処理を担当します。」
「了解。」
蓮は再び地図を表示した。
「作戦は二方向から行う。」
地下施設の外周が赤く染まる。
「外部部隊は、本拠地を包囲する。」
「黒瀬、御堂、桐生、神代。」
「そして一般隊員達で外周の敵戦力を引き付ける。」
御堂が頷く。
「正面は俺が抑えます。」
黒瀬が魔導銃を構える。
「俺は左右を回っときますわ。」
桐生は静かに魔力を集中させる。
「敵の進路を塞ぎます。」
レイジは端末を確認した。
「外周の敵反応は、こちらで把握します。」
蓮は次に青真達へ視線を向ける。
「そして。」
「内部へ侵入するのは、お前達四人だ。」
「青真。」
「闇風。」
「メグ。」
「カレン。」
青真は地図の奥を見つめる。
「俺達は中枢を目指す。」
「ああ。」
蓮が答える。
「改人Ωに関する資料。」
「改人研究の全容。」
「今回、各施設から回収していた物資の目的。」
「すべてを突き止めてくれ。」
メグが腕を組む。
「本拠地なら、何か残ってるでしょうね。」
「だからこそ危険だ。」
蓮の声が低くなる。
「中に何がいるかは分からない。」
「改人が待ち構えている可能性もある。」
闇風が答える。
「それなら、見つけた敵を排除しながら進むだけだ。」
カレンも静かに頷く。
「問題ありません。」
青真は銀河を握り直した。
「外は任せた。」
蓮は頷く。
「任せろ。」
「こちらも外から道を作る。」
「お前達は、その隙に内部へ入れ。」
夜の東京。
ネメシスの本拠地は、ついにその場所を突き止められた。
そして。
これまで追い続けてきた敵の本拠地へ。
百華繚乱は、初めて自分達から踏み込もうとしていた。
蓮が時計を見る。
「出発する。」
蓮の言葉と共に、周囲の空気が変わった。
先ほどまで戦闘の余韻が残っていた東京。
しかし今、全員の視線は空中に投影された一枚の地図へ集中している。
東京湾岸。
その地下深く。
複数の施設から伸びた魔力反応が、一ヶ所へ集まっていた。
「ここが……ネメシスの本拠地か。」
青真が地図を見つめる。
「確定ではない。」
蓮が答える。
「だが、ほぼ間違いない。」
地図がさらに拡大される。
地下へ続く巨大な空間。
複数の区画。
そして、中心部に異常なほど濃い魔力反応。
「この反応は?」
メグが尋ねる。
「改人の研究設備だと思われる。」
蓮が答える。
「今回、奴らが各地から回収していた魔力データや設備も、最終的にはここへ運ばれている。」
闇風が腕を組む。
「なら、敵はここで何かを準備している。」
「そう考えている。」
カレンが地図を見ながら口を開く。
「正面から全員で突入するのは危険ですね。」
「ああ。」
蓮は頷いた。
「そこで二方向から攻める。」
その言葉と同時に、地図が二つに分かれた。
「外部部隊は、本拠地周辺を包囲する。」
「敵の注意を外へ向ける。」
「その隙に――」
蓮の視線が青真達へ向く。
「お前達四人が内部へ侵入する。」
青真が頷く。
「了解。」
「中枢まで行けばいいんだな。」
「ああ。」
「改人Ωに関する情報も、そこにある可能性が高い。」
メグが小さく息を吐く。
「やっと本丸ってわけね。」
闇風は静かに答える。
「油断するな。」
「ここまで隠していた施設だ。」
「何が待っているか分からない。」
カレンが剣の柄へ手を添える。
「それでも行きましょう。」
青真は三人を見る。
「そうだな。」
「ここまで来たんだ。」
その時。
蓮が外部部隊へ視線を向けた。
「お前達も準備してくれ。」
「敵の主力が外へ出てきたら、そこで食い止める。」
黒瀬が魔導銃を取り出す。
「了解。」
「外を騒がしくすれば良いんですよね。」
「そうだ。」
御堂が巨大な盾を背負い直す。
「正面は任せろ。」
桐生は周囲へ小さな魔法陣を展開する。
「退路を確保しておきます。」
レイジは通信端末を確認した。
「周囲の敵反応を監視します。」
「内部へ侵入したPRIMEとも通信を繋ぎます。」
蓮が頷く。
「頼む。」
そして蓮は四人を見渡した。
「無理に戦う必要はない。」
「目的は本拠地の中枢へ到達することだ。」
「敵を見つけても、必要なら回避しろ。」
青真が笑う。
「分かってる。」
「俺達は中へ入る。」
「そして、全部調べる。」
蓮はそれ以上何も言わなかった。
やがて。
作戦開始時刻が近付く。
夜の東京湾岸。
ネメシス本拠地周辺へ、各部隊が静かに展開していく。
一般隊員達は複数の地点へ分散。
魔導銃を装備した黒瀬は西側。
巨大な盾を持つ御堂は正面。
桐生は東側。
レイジは後方で通信と索敵を担当する。
そして、その中心。
全隊員を指揮する位置に蓮が立っていた。
「全員、配置完了。」
レイジから通信が入る。
「敵の外周警備を確認。」
「B級相当の戦闘員が複数。」
「監視塔も稼働しています。」
黒瀬が笑う。
「結構いますね。」
御堂は盾を構えた。
「問題ない。」
桐生も魔力を整える。
「いつでも動けます。」
蓮は時計を見る。
「……あと一分。」
一方。
本拠地の裏側。
青真達四人は、建物の影へ身を潜めていた。
目の前には巨大な外壁。
通常の入口とは別に、地下へ続く搬入口が存在している。
闇風が周囲を確認する。
「警備は少ない。」
「ただし、結界がある。」
メグが壁へ手を触れた。
「かなり複雑ね。」
「外側の結界を破壊したら、すぐに警報が鳴る。」
青真が銀河へ手を添える。
「じゃあ、壊さずに入る方法を探すか。」
「そういうことです。」
カレンが答える。
メグが魔力を集中させる。
淡い光が指先へ集まっていく。
「少し待って。」
魔力の流れを読み取る。
「……見つけた。」
「ここ。」
扉の横。
小さな魔力錠が淡く光っている。
「解除できる。」
カチッ。
小さな音と共に、魔力錠が沈黙した。
しかし。
扉は開かない。
闇風が眉をひそめる。
「二重か。」
「みたいね。」
メグがもう一度魔力を流す。
今度は扉の奥から低い音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……。
「開く。」
青真が一歩前へ出る。
だが、その瞬間。
通信機から蓮の声が入った。
『青真さん。』
「ん?」
『開始します。』
『外は俺達が抑えます。』
『内部は任せます。』
青真は短く答えた。
「了解。」
通信が切れる。
静寂。
誰も口を開かない。
やがて。
遠くから轟音が響いた。
ドォォォン!!
続いて、別方向からも爆発音。
ドォン!
ドォォン!
外部部隊が動き始めた。
黒瀬の魔導銃が夜空を走る。
御堂の巨大な盾が敵の攻撃を受け止める。
桐生の魔法陣が次々と展開され、敵の進路を塞いでいく。
レイジの通信が各部隊へ飛び交う。
『敵部隊、正面へ移動!』
『西側にも増援!』
『そのまま進め!』
ネメシス本拠地の外周が、一気に騒がしくなる。
その瞬間。
「今だ。」
青真が呟いた。
扉がゆっくりと開いていく。
その先には。
光の届かない、深い地下通路。
青真は銀河を握り直す。
カレンが隣へ並ぶ。
闇風が先頭へ出る。
メグが最後尾につく。
「行くぞ。」
四人が同時に踏み込む。
扉の向こうへ。
ネメシス本拠地、その内部へ。
そして。
重い扉が、静かに閉じた。
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