第176話:改人騒暴
やっと1話かけた〜。お待たせしました。
七本の銀河が、紫黒色のアーティファクトへ迫る。
ジャッカルは必死に腕を伸ばした。
「やめろ……!」
しかし。
キィンッ!!
七つの刃が同時に軌道を変えた。
一つ目がアーティファクトを弾き飛ばす。
二つ目がその手から離れたアーティファクトを空中へ打ち上げる。
三つ目。
四つ目。
五つ目。
六つ目。
そして最後の一本が、空中のアーティファクトを正面から貫いた。
パリンッ!!
乾いた音が夜空へ響く。
紫黒色の光が砕け、無数の粒子となって消えていった。
「……あ。」
カレンの身体から力が抜ける。
剣が手から滑り落ちそうになる。
青真はすぐに駆け寄った。
「カレン!」
「大丈夫です。」
カレンは息を整えながら答える。
「少し……身体に力が入りませんが。」
青真がカレンの顔を見る。
その瞳には、もう先ほどまでの虚ろな光はなかった。
いつものカレンだった。
「本当に?」
「はい。」
カレンは小さく頷く。
「青真の顔を見て、もう大丈夫だと分かりました。」
「……そうか。」
青真は安堵したように息を吐く。
その直後。
「青真!」
メグが駆け寄ってくる。
「カレン、大丈夫!?」
「大丈夫です。」
カレンは笑みを浮かべた。
「メグも、ありがとうございます。」
「よかった……。」
メグは胸を撫で下ろす。
玲司も通信機を確認しながら近付いてきた。
「精神干渉反応、完全に消失しました。」
「これなら問題ありません。」
闇風はジャッカルへ視線を向ける。
「なら、残る問題は一つだ。」
ジャッカル。
その男は、既に立っていられないほど消耗していた。
それでも逃げようと身体を動かす。
「くっ……。」
青真が一歩前へ出る。
「逃げるのか?」
ジャッカルは答えない。
その瞬間。
遠くから轟音が響いた。
ドォォォン!!
全員が振り返る。
東京の別の区域。
高層ビルの向こうから巨大な魔力の光が立ち上がっていた。
玲司が通信機へ手を伸ばす。
「こちらPRIME支援班、玲司。」
「現在の状況を確認します。」
通信の向こうから慌ただしい声が返ってくる。
『改人遊撃連隊が複数区域で戦闘を継続中!』
『撤退命令が出ているはずですが、一部の個体が暴れています!』
玲司の表情が変わった。
「まだ戦っているのか。」
青真がジャッカルを見る。
「お前達、まだ終わってないんだな。」
ジャッカルは苦しそうに笑った。
「……遊撃連隊は、俺の命令だけで動いているわけじゃない。」
「既に戦闘命令が組み込まれている。」
闇風が眉をひそめる。
「つまり、止まらない個体もいる。」
「そういうことだ。」
ジャッカルはそれだけ答えた。
青真は銀河を握り直す。
「なら、俺達が止める。」
カレンも落とした剣を拾い上げた。
「私も行きます。」
青真が振り返る。
「無理はするな。」
「大丈夫です。」
カレンは剣を構える。
「もう支配されてはいません。」
「それに――」
一歩前へ出る。
「改人数体程度なら、問題ありません。」
その言葉に闇風が僅かに口元を緩めた。
「いつものカレンに戻ったな。」
「当然です。」
カレンは淡々と答える。
「私は青真達と同じPRIMEですから。」
メグも魔導具を手に取る。
「じゃあ、私も行く。」
青真は頷いた。
「決まりだな。」
玲司が通信機へ話しかける。
「各部隊へ、俺達は東地区へ向かう。」
『了解!』
「それと、ネメシス構成員の戦闘部隊を確認したら、俺に位置を送ってくれ。」
『了解しました!』
玲司は通信を切った。
「ネメシス戦闘部隊なら、俺が処理します。」
「任せた。」
青真は短く答えた。
その直後。
闇風が屋上の端へ歩く。
「下だ。」
「何か来る。」
全員が視線を向ける。
遠くの道路。
建物の間から、複数の巨大な影が現れた。
一体。
二体。
三体。
さらにその後ろから、次々と改人が姿を現す。
合計十体。
全てがA級相当の魔力を放っていた。
「十体か。」
青真が銀河を抜く。
カレンも剣を構えた。
「問題ありません。」
改人達が一斉に地面を蹴る。
「グォォォォォッ!!」
十体の改人が四人へ殺到する。
青真は銀河を握りながら、右手を前へ突き出した。
「《属性付与魔力弾》。」
蒼白い魔力弾が次々と形成される。
一つ。
二つ。
十。
二十。
さらに数を増やしていく。
そして。
「氷属性付与。」
全ての光弾が一斉に青白い氷の魔力を纏った。
「追尾。」
ドォォォッ!!
無数の散弾が一斉に放たれる。
氷属性の魔力弾は空中で軌道を変え、改人達を追い続ける。
「グォッ!?」
一体。
二体。
三体。
逃げようとした改人の背後へ魔力弾が回り込む。
バシュッ!!
命中した瞬間、氷が身体へ広がる。
さらに別の改人へ追尾弾が殺到する。
バシュッ!!
バシュッ!!
バシュッ!!
十体全てへ氷属性の追尾弾が降り注いだ。
身体を凍らされた改人達の動きが一斉に鈍る。
「今だ。」
青真が呟く。
その瞬間。
闇風が走った。
視界から姿が消える。
次に現れた時には、一体の改人の横を通り過ぎていた。
ザンッ!!
さらに二体目。
ザンッ!!
三体目。
ザンッ!!
四体目。
「速い……!」
改人達が反応する。
しかし遅い。
闇風は止まらない。
道路を駆ける。
壁を蹴る。
車両の屋根を踏み台にして跳ぶ。
そのまま空中で身体を捻り、着地と同時に別の改人へ斬り込む。
ザシュッ!!
「まだだ。」
再び走る。
五体目。
六体目。
七体目。
次々と斬撃が走り、改人達の戦列が崩れていく。
その頃。
メグは両手を前へ向けていた。
「動きを止める。」
魔力が一気に広がる。
「《重力領域》!」
ズンッ!!
空間そのものが重くなる。
氷属性の追尾弾によって動きの鈍った改人達へ、さらに強烈な重力が掛かった。
ドン。
ドン。
ドン。
改人達の身体が地面へ沈む。
メグの足元へ巨大な錬成陣が展開する。
「《錬金拘束》!」
金色の鎖が地面から一斉に伸びた。
ガシャン!!
腕。
脚。
胴体。
次々と改人達へ絡み付いていく。
「《魔人形》!」
巨大な魔人形が地面を蹴った。
ドゴォン!!
拘束された改人の一体を正面から殴り飛ばす。
さらに別の改人へ拳を叩き込む。
その間に。
カレンが動いた。
「私も行きます。」
剣を構え、一気に踏み込む。
目の前には五体の改人。
「まとめて――。」
身体が回転する。
「吹き飛べ!」
横薙ぎの一閃。
ドォォォン!!
凄まじい衝撃波が発生した。
五体の改人がまとめて宙へ舞い上がる。
「なっ……!?」
カレンは止まらない。
地面を蹴った。
跳躍。
一瞬で改人達の上空へ到達する。
「逃がしません!」
空中で身体を翻す。
剣が閃いた。
一体。
二体。
三体。
次々と空中の改人へ斬撃を叩き込む。
さらに蹴りで一体を別方向へ弾き飛ばす。
そこへ再び斬撃。
ザンッ!!
最後の一体を地上へ叩き落とした。
ドゴォン!!
カレンはそのまま着地する。
静寂。
道路には十体のA級改人が倒れていた。
青真は銀河を下ろす。
「終わったな。」
闇風も短剣を収める。
「相手になっていない。」
メグは魔人形を戻しながら苦笑した。
「十体でも、やっぱりA級じゃ足りないわね。」
カレンは剣を振り、付着した魔力を払う。
「当然です。」
「私達が相手なら、この程度では止められません。」
その時。
遠くから再び爆発音が響いた。
ドォォォン!!
青真が顔を上げる。
「……まだ別の場所で戦ってる。」
玲司が通信機を確認する。
「東地区だけではありません。」
「複数区域で戦闘が継続しています。」
青真は東京の街を見渡した。
「なら、全部止める。」
四人は再び走り出した。
その頃。
別の区域では、改人達が逃走を始めていた。
しかし。
その進路へ、一人の青年が立ちはだかる。
「そこまでだ。」
玲司だった。
長剣を抜く。
「お前達は俺が相手する。」
改人達が一斉に武器を構えアーティファクトの能力を解放する。
玲司は小さく息を吐く。
「十分だ。」
その瞳に、迷いはなかった。
レイジは長剣を構え直した。
五体のA級改人が一斉に動く。
正面から一体。
左右から二体。
さらに後方から二体。
完全な包囲。
普通のA級冒険者なら、一瞬で追い詰められてもおかしくない。
だが。
レイジはゆっくりと息を吸った。
「……行くぞ。」
次の瞬間。
ドンッ!!
地面が砕けた。
レイジの姿が消える。
「――!?」
最初に反応した改人が腕を振り抜く。
しかし、そこにはもう誰もいない。
レイジは一体目の背後へ回り込んでいた。
「遅い。」
長剣が閃く。
ガキィン!!
改人の装甲を斬り裂く。
そのまま身体を捻り、二体目へ突進。
「こいつ……!」
改人が拳を振るう。
レイジは身体を低く沈め、その下を滑るように抜けた。
そして。
「そこだ。」
一閃。
二体目の腕が大きく弾かれる。
その隙を狙い、左右の改人が同時に迫る。
レイジは後退しない。
むしろ前へ出た。
「まとめて来い。」
二つの攻撃を紙一重で躱す。
右。
左。
身体を回転させながら攻撃を受け流し、そのまま長剣を横薙ぎに振り抜く。
ドォン!!
二体まとめて吹き飛んだ。
「まだだ!」
後方の二体が同時に魔力を解放する。
紫色の魔力弾。
雷撃。
炎。
複数の属性攻撃が一斉にレイジへ向かう。
レイジは長剣を地面へ突き立てた。
「……まだ足りない。」
全身へ魔力が集中する。
「《限界突破》。」
ドクン。
心臓が大きく鼓動した。
次の瞬間。
レイジの身体能力が一気に跳ね上がる。
敏捷性。
筋力。
耐久力。
体力。
全てが限界を超えて引き上げられる。
「なっ……!」
改人達が反応するより早く、レイジは動いた。
シュンッ!!
魔力弾の間をすり抜ける。
一瞬で一体目の懐へ。
長剣を振り上げる。
「終わりだ。」
ドゴォン!!
改人の身体が地面へ叩き付けられる。
そのまま反転。
もう一体へ迫る。
「グォォッ!!」
改人が巨大な腕を振り下ろす。
レイジは真正面から受け止めた。
ガキィィン!!
凄まじい衝撃。
だが。
今度はレイジが押し返す。
「これなら……!」
筋力をさらに乗せる。
改人の腕が弾かれた。
「俺でもやれる!」
レイジはそのまま踏み込み、長剣を振り抜いた。
一閃。
装甲が砕ける。
さらに追撃。
二撃。
三撃。
最後の一撃が魔力回路を断ち切った。
改人が崩れ落ちる。
残り三体。
レイジは息を整える暇もなく走る。
三体が同時に攻撃する。
しかし、その全てを速度で上回る。
一体の背後。
一閃。
二体目の側面。
一閃。
三体目の正面。
長剣を振り上げる。
「これで……!」
ドォン!!
最後の一撃が改人を地面へ叩き伏せた。
静寂。
五体のA級改人が、すべて動かなくなっていた。
レイジは長剣を下ろす。
「……制圧完了。」
その瞬間。
限界突破の効果が切れた。
「……っ。」
身体から一気に力が抜ける。
レイジはその場で片膝をついた。
呼吸が乱れる。
魔力もほとんど残っていない。
「三分……。」
自分の手を見つめる。
「やっぱり、長くは持たないか。」
それでも。
レイジはゆっくり立ち上がった。
通信機を取り出す。
「こちらレイジ。」
「担当区域、制圧完了。」
『了解。無理はするな。』
「分かってる。」
短く答えて通信を切る。
◇◇◇
その頃。
東京各地でも、最後の改人達が次々と制圧されていた。
通信端末へ報告が入る。
「こちら西部区域。」
「改人、制圧完了。」
「南部区域、制圧完了。」
「東部区域も完了しました。」
次々と表示されていた赤い反応が消えていく。
そして。
最後の一つが消えた。
「全区域、改人反応なし。」
青真は端末を見つめる。
「……終わったか。」
メグが頷く。
「うん。」
カレンも周囲を見渡す。
「これで、ひとまず安心ですね。」
闇風は静かに答える。
「だが、事件そのものは終わっていない。」
青真が頷く。
「分かってる。」
今回の襲撃。
改人達は無差別に暴れていたわけではなかった。
施設。
通信設備。
物流拠点。
魔力関連設備。
それぞれから何かを回収していた。
「ネメシスは何かを集めていた。」
青真が呟く。
メグが端末を操作する。
「回収された魔力データをまとめてみる。」
画面へ大量の情報が表示される。
「……やっぱり。」
「全部、同じ系統の魔力情報が混ざってる。」
カレンが画面を見る。
「改人Ωに使われていた技術とも関連しているのでしょうか。」
「たぶん。」
メグは険しい表情になる。
「まだ断定はできないけど、かなり近い。」
闇風が言う。
「つまり今回の騒動は、改人を使った実験でもあった。」
「そういうことだと思う。」
青真は東京の夜空を見上げた。
「だったら、次はその目的を突き止める。」
◇◇◇
東京地下。
巨大な施設。
暗闇の中で、無数の魔導装置が稼働していた。
一つの画面へ、次々と報告が表示される。
《改人部隊――全個体停止》
《実戦データ――取得完了》
《魔力関連設備――回収完了》
《通信設備――回収完了》
《物流拠点――回収完了》
最後に、一つの表示が浮かび上がる。
《第一段階――完了》
暗闇の中。
誰かが静かに笑った。
「よくやった。」
「改人達は十分に役目を果たした。」
別の人物が尋ねる。
「次の段階へ移りますか?」
「ああ。」
男が巨大な魔導炉へ視線を向ける。
回収された魔力が、青白い光となって炉の内部へ吸い込まれていく。
「必要な情報は揃った。」
「改人Ωの能力継承データ。」
「各種魔力反応。」
「そして、PRIMEの戦闘データ。」
画面へ、青真達の戦闘記録が映し出される。
未来予知。
銀河。
隠密。
短剣術。
錬金術。
重力魔法。
剣術。
超人的な身体能力。
そして。
青真達が改人を制圧する映像。
「……想定以上だ。」
男は僅かに目を細める。
「特に、青真。」
「そしてカレン。」
「この二人の戦闘能力は、今後の計画において無視できない。」
魔導炉の奥。
さらに巨大な扉がゆっくりと開いていく。
その先には、まだ何も見えない。
ただ、奥深くから低い駆動音だけが響いていた。
「準備を始めろ。」
「第二段階へ移行する。」
魔導装置が一斉に起動する。
ゴォォォォォ……。
地下施設全体へ魔力が流れ始める。
そして。
東京の地上では。
朝日が昇り始めていた。
長い夜が終わる。
だが。
本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。
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