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第175話:縛られた剣士

ちょっと旅行で更新が1週間遅れます。

ごめんなさい。

夜の街を、青真と闇風が駆け抜けていた。


「カレン……。」

青真の表情が険しくなる。


先ほどまで安定していたカレンの魔力反応が、明らかに不自然な揺らぎを見せている。


通信も繋がらない。


「嫌な感じがする。」

闇風が短く答えた。


「同感だ。」

二人は足を止めなかった。


正面には崩れかけた建物。

通常なら迂回するところだ。


だが、青真は壁へ向かって走る。


「こっちだ。」

一歩目で壁を蹴る。


二歩目。

崩れた看板を踏み台にして跳躍。


未来予知によって数秒先の足場を確認しながら、最短のルートを選んでいく。


闇風も遅れない。

壁面の僅かな出っ張りへ足を掛け、そのまま上へ駆け上がる。


二人は道路を走るよりも速く、建物の間を立体的に移動していく。


「青真。」

闇風が呼ぶ。


「ああ。」

二人の視線の先。


高層ビルの屋上。

そこに、カレンの魔力反応がある。


しかし。

その反応のすぐ近くに、もう一つ。


「敵だ。」

闇風が呟く。


青真はさらに速度を上げた。

最後のビルの壁を蹴る。

屋上の縁へ手を掛け、一気に身体を引き上げた。


「カレン!」

そこにいた光景を見て、青真の足が止まる。


屋上の中央。

黒い外套を纏った男が立っている。

その隣には。


剣を握ったカレン。

しかし、いつものカレンではなかった。

瞳からは力が失われ、表情もほとんど動かない。


それでも。

青真の姿を見た瞬間。


カレンの指が僅かに震えた。

「……青真。」

その声に、ほんの僅かだがいつものカレンの面影があった。


青真は一歩前へ出る。

「カレン。」


カレンは青真を見つめる。

「……来て、くれたんですね。」

「私は……。」

カレンの言葉が途切れる。


剣を握る手が、ゆっくりと上がった。


青真の目が細くなる。

「カレン?」


「……逃げてください。」

その声は震えていた。


「私は……青真を攻撃したくありません。」


闇風も短剣へ手を掛ける。

「支配されているのか。」


男が静かに笑った。

「正解だ。」


青真が男を睨む。

「お前は誰だ。」


「ネメシス幹部。ジャッカルと呼べ。」

男――ジャッカルは淡々と答えた。


「そして、その女はもうこちら側だ。」

カレンの身体が僅かに動く。

剣の切っ先が青真へ向く。


だが。


「……違う。」

カレンが小さく呟いた。

「私は……。」


握った手が震える。

「私は……青真達を……。」


言葉が続かない。

その瞬間。


カレンの身体が大きく揺れた。

「……っ。」


苦しそうに目を閉じる。


それでも細剣は下げられない。


「やめて……。」

カレンの声が僅かに漏れる。


「私は……戦いたく……。」


ジャッカルが手に持った黒紫色のアーティファクトを掲げた。


淡い光がカレンを包む。


「命令に従え。」


カレンの表情が強張る。

激痛が走る。

「がっ.....!。」


だが、その直後。

ジャッカルの眉が僅かに動いた。


カレンは必死に顔を上げる。

その目から涙が一筋落ちる。

「私は……抵抗します。」


「カレン……。」

青真の声が低くなる。


闇風もジャッカルを睨んだ。

「お前がやったのか。」


「そうだ。」

ジャッカルは動じない。

「だが、俺一人の力ではない。」


「この女を支配するためには、それなりの準備が必要だった。」


青真は黙って聞いている。


ジャッカルは続けた。

「まず五十体。」

「A級改人を交代させながら、長時間戦わせた。」

「奴らはカレンを倒す必要などなかった。ただ戦わせ続ければいい。」


闇風が目を細める。

「集中力を削ったのか。」


「その通り。」

ジャッカルが笑う。

「S+級の化け物を正面から支配するのは難しい。」


「だから、先に抵抗する力を落とした。」

「そして最上位幻覚魔法。」

「判断力と認識能力を乱した。」


「最後に、この試作品だ。」

黒紫色のアーティファクトが再び光る。


カレンが身体を震わせる。

「……っ。」


それでも。

「負けません……。」

カレンは剣を握り直した。


「私は……PRIMEです。」

「青真の……仲間です。」


ジャッカルが小さく息を吐く。

「まだ完全には沈んでいないか。」

「だが、それも時間の問題だ。」


青真の手が銀河へ伸びる。

「……十分だ。」


ジャッカルが視線を向ける。

「何?」


青真の表情から、先ほどまでの焦りが消えていた。

ただ静かな怒りだけが残っている。


「カレンを返せ。」


「断る。」


「そうか。」

青真が銀河の柄を握る。


その時。

屋上の入口から足音が響いた。


「青真!」

メグだった。


その後ろから玲司も駆け込んでくる。

「遅れて申し訳ありません。」


玲司は息を整えながら周囲を確認する。

「……敵反応一名。」


「そして、カレンさんから強い精神干渉反応があります。」


メグがカレンを見る。

「カレン……。」


カレンはメグへ視線を向ける。

「メグ……。」


「大丈夫。」

メグが一歩前へ出る。

「絶対に助けるから。」


カレンは僅かに笑おうとした。

しかし。

再びアーティファクトが輝く。


「……っ!」

カレンがその場で動きを止める。


青真の目が鋭くなる。

「……もういい。」


ジャッカルがアーティファクトを構える。

「ならば、まとめて相手をしてやる。」


空気が歪んだ。

屋上の景色が一瞬で二重になる。


ビルの輪郭が揺らぎ、ジャッカルの姿が幾つにも分裂していく。

「《ファントムディストピア》!」


メグが警戒する。


玲司も周囲へ視線を走らせた。

「位置情報が乱れています。」


闇風が短剣を構える。

「本体を探す。」


その隣で、青真だけは動かなかった。

幻影の中。

幾つものジャッカル。

幾つものカレン。


そして。

数秒先の未来が、青真の脳裏へ流れ込んでくる。


「……。」

青真は静かに目を開いた。

その瞳には、一切の迷いがなかった。



ジャッカルの表情が変わる。


青真が銀河を抜いた。

キィン――。

蒼白い極大魔力が刀身を包み込む。

「幻覚なんかが俺に効くと思ったか?」


青真の銀河へ、極大の魔力が集束していく。

蒼白い光が刀身を覆い、周囲の空気そのものが震え始めた。


ジャッカルが目を見開く。

「なっ……。」


青真は構わず、一歩前へ進む。


ジャッカルの表情が歪む。


「グッ……!食らえ!!」

ジャッカルが手にした支配アーティファクトを突き出す。


紫黒色の光が無数に放たれた。


一本。

十本。

数え切れないほどの精神干渉波動が、青真へ向かって殺到する。


「青真!」

メグが叫ぶ。


しかし。

青真は止まらない。


一歩。

また一歩。

紫黒色の光が身体へ触れる。


だが、何も起こらなかった。


青真の表情は変わらない。

歩みも止まらない。

ジャッカルの顔から余裕が消えていく。


「馬鹿な……。」

さらにアーティファクトを発動する。

「まだだ!」


光がさらに増える。

幻覚。

精神干渉。

支配。


複数の効果が重なり、屋上全体を紫黒色の光が埋め尽くす。


それでも青真は歩き続ける。

「効かない。」


短い言葉。

ジャッカルが後退する。


「なぜだ……!」


「俺が何度、幻覚を見てきたと思ってる。」

青真の瞳が蒼く輝く。


未来予知。

数秒先の未来が、青真の脳裏へ次々と流れ込んでくる。


どこから攻撃が来るのか。

どこへ逃げるのか。

どの光が本物なのか。


すべてが見えていた。


「お前の幻覚は、未来を隠せない。」

青真は銀河を握り直す。


「そして。」

銀河の刀身がさらに強く輝いた。

「支配なんて、俺には届かない。」


ジャッカルが歯を食いしばる。

「ならば……!」

「これでどうだ!」


支配アーティファクトが激しく輝く。

巨大な紫黒色の魔力が青真を包み込もうとする。


しかし。

青真はその中心を真っ直ぐ歩いていく。


一歩。

二歩。

三歩。


魔力の壁を抜ける。

ジャッカルの目の前まで到達した。


「……嘘だ。」

ジャッカルが呟く。


青真は答えない。

銀河を頭上へ掲げる。


「終わりだ。」


次の瞬間。

キィィィン――。

銀河の刀身が七つに分離した。


七振りの長剣。

それぞれが蒼白い魔力を纏い、青真の周囲へ浮かび上がる。


ジャッカルが後退する。

「七本……だと……?」


「銀河。」

青真が右手を掲げる。


七振りの刀身が空中で一斉に向きを変えた。

「行け。」


ドォン!!

七本の銀河が同時に飛び出した。

ジャッカルが慌てて幻影を展開する。


一人。

十人。

百人。


無数のジャッカルが屋上へ現れる。

「どれが本物か分かるか!」


しかし。

七振りの銀河は一切迷わない。

一本が幻影を貫く。


二本目が別の幻影を消し飛ばす。

三本目。

四本目。

五本目。

六本目。


そして最後の一本が、本物のジャッカルの逃げ道を塞いだ。

「な……!」


ジャッカルが振り返る。

その瞬間。

七振りの銀河が空中で停止した。

完全に包囲されている。


「全部見えている。」

青真が静かに告げる。

「お前がどこへ逃げるかも。」


ジャッカルの額から汗が落ちる。

「くそ……!」

再び支配アーティファクトを構える。


だが。


「無駄だ。」


七振りの銀河が一斉に降下する。

ジャッカルは必死に防御魔法を展開する。

轟音。

蒼白い斬撃が防壁へ次々と叩き込まれる。


一枚。

二枚。

三枚。


防壁が砕ける。

ジャッカルは後退しながら幻覚魔法を放ち続ける。

だが、青真はその全てを見抜く。


七振りの銀河が次々とジャッカルの周囲へ突き刺さり、逃げ道を完全に奪っていく。


最後には、ジャッカルは膝をついていた。

支配アーティファクトを握る手も震えている。


青真がゆっくりと近付く。

「カレンを返せ。」


ジャッカルは答えない。


青真はジャッカルの手にあるアーティファクトへ視線を向ける。

「それがある限り、カレンは苦しみ続けるんだな。」


「……。」

ジャッカルが初めて視線を逸らした。

それだけで十分だった。


青真の目が鋭くなる。

「だったら。」


銀河の七振りが再び宙へ浮かぶ。


「先に、それを壊す。」


カレンが苦しそうに顔を上げる。

「青真……。」


その声を聞いた青真は、一瞬だけカレンを見る。

「もう大丈夫だ。」


そして再びジャッカルへ視線を戻す。

七振りの銀河が、支配アーティファクトへ狙いを定める。


ジャッカルの顔が青ざめた。

「待て……!」


青真は静かに右手を振った。

蒼白い七つの刃が、一斉に支配アーティファクトへ迫った。

読んでいただきありがとうございました!もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援してもらえると励みになりま

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