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第171話:神代玲司

特魔災害対策庁。

作戦会議室には、青真達PRIMEの姿があった。


机の上には、先日の襲撃事件で回収された資料と、改人に関する報告書が並べられている。

蓮は資料を一枚手に取り、静かに口を開いた。

「先日の改人について、いくつか分かったことがある。」


青真が腕を組む。

「何か掴めたんですか?」


「ああ。」

蓮は資料を机へ置いた。


「奴らは単独で動いていたわけじゃない。」

「ネメシスから継続的に指示を受けていた形跡がある。」


メグが資料へ視線を落とす。

「やっぱり……組織的に動いていたんですね。」


「そういうことだ。」

蓮は続ける。

「そして問題は、改人がどこから来ているのかということだ。」


室内が静かになる。

青真は資料をめくる。

そこには、改人の魔力構造や身体能力に関する記録が並んでいた。


「これ……全部、自然に発生したものじゃないな。」


「もちろんだ。」

蓮が頷く。

「誰かが作っている。」

「そして、その場所を割り出した。」


蓮は机の中央へ地図を広げた。

「ここだ。」


青真達が一斉に地図へ目を向ける。


「ネメシスが使用していると思われる施設がある。」

「改人の製造拠点だ。」


青真の表情が変わる。

「改人を作ってる場所……。」


「ここを潰せば、少なくとも量産を止められる可能性がある。」


カレンが地図を確認する。

「周囲の警備状況は?」


「詳しいところまでは分かっていない。」

蓮は一度言葉を切った。

「だから今回は、支援班を一人同行させる。」


会議室の扉が開いた。

一人の青年が入ってくる。

まだ二十代前半。

落ち着いた表情をしているが、その目には現場を経験してきた者特有の鋭さがあった。

青年は青真達の前まで来ると、姿勢を正した。


「初めまして。」

「神代玲司です。」

「本日からPRIME支援班として同行します。」

「よろしくお願いします。」


青真は青年を見つめる。

若い。

だが、感じられる魔力は明らかにA級の領域を超えている。


蓮が補足する。

「A+級だ。」

「主な役割は索敵、通信、避難誘導、それから戦闘後の処理。」


「ネメシスの拠点へ直接乗り込む場合、こういう人間がいると戦いやすい。」


玲司は小さく頷いた。

「PRIMEの皆さんが前線へ集中できるように、周辺の状況はこちらで確認します。」


「増援の察知や通信も任せてください。」

「戦闘後の回収や現場の処理も対応します。」


青真が頷く。

「分かった。」


「よろしく、玲司。」


「はい。」

玲司は短く答えた。


余計な言葉はない。

それでも、真面目に仕事をする人間だということは伝わってくる。


闇風が資料へ視線を戻す。

「施設の場所は?」


蓮が地図を指差した。

「ここから離れた山間部だ。」


「表向きは廃棄された研究施設になっている。」

「だが地下には大規模な魔力反応がある。」


玲司が地図を確認する。

「地下……ですか。」


「ああ。」

蓮が頷く。

「それに、この施設周辺では先日の改人と似た魔力反応も確認されている。」


青真は静かに銀河へ手を添えた。

「なら、話は早い。」


「直接行って、作ってる場所を潰す。」


メグが頷く。

「改人が街へ出てくるたびに倒していても、根本的な解決にはならないからね。」


カレンも立ち上がる。

「製造拠点を制圧できれば、今後の被害を減らせます。」


蓮は全員を見渡した。

「頼む。」

「ただし、施設内部の情報はほとんどない。」

「何が待っているか分からない。」


青真は椅子から立ち上がる。

「それでも行く。」

「ネメシスが改人を作ってるなら、放っておく理由はない。」


玲司も静かに頷いた。

「出発の準備をします。」


こうしてPRIMEは、改人を生み出している施設へ向けて動き始めた。


出発から数時間。

PRIMEと玲司は、山間部にある廃棄施設へ到着していた。


周囲には人の気配がない。

古びた建物は長い間使われていないように見えた。


しかし。


「……妙ですね。」

玲司が周囲を見渡す。


「建物自体は放棄されていますが、地下から魔力反応があります。」


青真が建物を見上げる。

「やっぱり、見せかけか。」


「そのようです。」

玲司は通信機へ手を伸ばした。

「周辺に目立った人影はありません。」

「通信も問題ありません。」


カレンが頷く。

「では、内部へ入りましょう。」


「はい。」


古びた扉を開く。

ギィィ……

建物の中は静まり返っていた。

床には薄く埃が積もっている。


壁には古い研究施設を思わせる設備が残されているが、どれも長い間使われていないように見える。


「本当に廃墟みたいだな。」

青真が呟く。


メグが周囲を見回す。

「でも地下に魔力があるなら、何かは残ってるはず。」


闇風が足を止めた。

「……待て。」


全員が動きを止める。


闇風が前方を見つめる。

「いる。」


玲司もすぐに周囲を確認する。

「右側の通路です。」




複数のネメシス構成員が通路の奥から姿を現した。

数は十人ほど。

全員が武器を手にしている。


「敵です。」

レイジが静かに告げる。


青真が銀河へ手を掛けようとした、その時。

「お待ちください。」


レイジが一歩前へ出た。

「この程度なら、僕が対応します。」

「C級程度です。」

「PRIMEの皆さんが動く必要はありません。」


青真はレイジの背中を見る。

「分かった。」

「任せる。」


「ありがとうございます。」

レイジは長剣を抜いた。

細身の刀身が照明を反射する。


敵が一斉に駆け出した。

「肉体強化。」


レイジの身体を淡い光が包む。

次の瞬間。

床を蹴った。

一気に距離を詰める。


「なっ……!」

先頭の男が剣を振り上げる。


レイジは身体を僅かに沈め、その一撃を躱した。

そのまま懐へ入り込み、長剣を横薙ぎに振るう。


ガンッ!

男の武器が弾き飛ばされる。

続けて柄で腹部を打ち、男を床へ転がした。


「一人。」


背後から別の構成員が迫る。

レイジは振り返らない。

足音だけで位置を把握し、身体を半回転させる。


振り下ろされた刃を長剣で受け流す。

その勢いを利用して相手の体勢を崩し、肩口へ剣の腹を叩き込んだ。


「二人。」


左右から同時に襲い掛かる。

レイジは一歩前へ踏み込んだ。

二人の攻撃が互いにぶつかる。


その隙間を抜け、長剣が二度走った。

武器だけを正確に弾き飛ばす。


「三、四人。」


残った構成員達が距離を取る。

「こいつ……!」


「災害対策庁の人間か!」


レイジは長剣を構え直した。

「一応そういうことになっている。」

「面倒だから動かないでもらえるとありがたいんだが。」


敵が怒号を上げ、一斉に突っ込んでくる。

レイジは静かに息を吐いた。


強化魔法によって高められた脚力。

一歩。

二歩。

三歩。


敵の間を縫うように駆け抜ける。

長剣が次々と閃く。


腕。

脚。

武器。


致命傷を避けながら、戦闘能力だけを奪っていく。


最後の一人が剣を振り下ろした。

レイジは真正面から受け止める。

ギィンッ!

鍔迫り合い。


「くっ……!」

男が力を込める。


しかしレイジは押し負けない。

強化魔法によって底上げされた身体能力で相手を押し返し、そのまま剣を弾いた。


「これで終わりだ。」


柄を打ち込む。

男が崩れ落ちる。

静寂。

レイジは長剣を軽く振って血を払い、鞘へ納めた。


「……終わりました。」

青真達の方へ振り返る。

「全員、生存しています。」

「拘束しておきますので、先へ進みましょう。」


青真は小さく頷いた。

「助かった。」


「いえ。」

レイジは倒れた構成員達を見渡す。

「仕事ですから。」


そう言って、彼は通信機を取り出した。

玲司は通信機へ手を伸ばす。

「入口付近、制圧完了。」

「これから地下へ向かいます。」


PRIMEはさらに奥へ進んだ。

やがて。

「……ここですね。」

玲司が立ち止まる。


目の前には、地下へ続く巨大な扉。

その向こうから、これまでとは比べ物にならない魔力が漏れ出している。


メグが眉をひそめた。

「すごい魔力。」


闇風も険しい表情になる。

「中に何かいる。」


カレンが剣を構え直す。

「油断しないでください。」


青真は扉へ近付く。

そして、ゆっくりと手を伸ばした。

重い音を立てて扉が開く。


その瞬間。

冷たい空気が吹き抜けた。


地下には巨大な空間が広がっていた。

壁一面に並ぶ魔導装置。

床へ刻まれた複雑な術式。

無数の魔力供給装置。


そして、その奥。

いくつもの巨大な培養槽が並んでいる。

中には、人の姿をした異形の影が静かに浮かんでいた。


メグが息を呑む。

「……これが。」

「改人の製造設備。」


玲司は言葉を失いながらも、すぐに通信機を取り出した。


「長官。」

「施設内部を確認しました。」

「大規模な製造設備があります。」


蓮から通信が返る。

『了解した。』

『無理はするな。』

『設備の確保を優先しろ。』


「承知しました。」

玲司が答える。

その時だった。

地下空間の奥から、重い足音が響いた。


ドン。

ドン。

ドン。


青真が銀河を構える。

「……来るぞ。」


培養槽の一つがゆっくりと開く。

白い蒸気が床へ流れ落ちる。

その奥から、一体の改人がゆっくりと歩み出した。


PRIME全員が武器を構える。

玲司も静かに周囲を確認する。

「魔力反応、複数。」

「他にもいます。」


青真は前を見据えた。

「だったら、まとめて片付ける。」

銀河の刀身が蒼く輝く。


地下施設全体へ、戦いの気配が広がっていった。

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