第165話:猟犬の巣
特魔災害対策庁、作戦会議室。
壁一面の大型モニターには、ここ数日で発生した魔法犯罪の記録が表示されていた。
暴走事件。
魔法を利用した強盗。
ネメシス傘下組織襲撃。
一見すれば、それぞれ別の事件にしか見えない。
しかし。
「全部、繋がってる。」
蓮が静かに口を開いた。
「問題は、どこへ繋がっているかだ。」
青真達はモニターを見つめる。
「ネメシスの名前はすでに表へ出ている。」
「だが、上層部の人間や本拠地については、ほとんど情報がない。そこで、お前達には別々に捜査してもらいたい。」
青真は頷いた。
「分かった。」
四人はそれぞれ違う方向から捜査を開始した。
◇◇◇
青真が向かったのは、過去に発生した魔法犯罪資料室だった。
大量の記録を机へ並べ、一件ずつ発生地点と時間を地図へ書き込んでいく。
「こっちが暴走事件。こっちが強盗。こっちは傘下組織襲撃……。」
事件そのものには共通点がない。
だが、青真は地図を眺めながら眉をひそめた。
「……違う。」
「見るべきなのは事件が起きた場所じゃない。」
犯人達が事件の前に移動した経路。
そこへ視点を切り替える。
複数の事件を線で繋いでいく。
すると、いくつもの線が一つの地域へ集中していた。
「東京湾岸……。」
◇◇◇
闇風は別の場所にいた。
制圧したネメシス傘下組織。
その組織から押収された資料を調べている。
闇風は帳簿を眺めるだけではなく、物資の搬入記録、人員の移動記録、受け渡し場所を一つずつ確認していた。
「……ここか。」
複数の組織から別々に送られた魔石や特殊金属。
その行き先が、同じ中継地点へ集中している。
しかも、その中継地点から先の記録だけが不自然に途切れていた。
「隠しているな。」
闇風は地図へ視線を落とす。
中継地点の先。
そこにも東京湾岸の旧工業地区があった。
◇◇◇
メグは研究室でアーティファクトを調べていた。
机の上には、回収された精神干渉アーティファクトが並んでいる。
「……やっぱり。」
魔力を流す。
内部の術式が淡く輝いた。
「精神干渉の術式だけじゃない。」
「魔力回路そのものが、ほぼ同一規格。」
さらに素材を確認する。
「この魔石。」
「こっちの特殊金属も……。」
メグは資料と照合し、徐々に表情を険しくした。
「これだけ大量のアーティファクトに精神干渉効果を付けて生み出してる。」
「個人の研究施設じゃ無理。」
「大規模な製造設備が必要になる。」
候補となる施設を検索する。
そして。
「……あった。」
条件に一致する施設が一つだけ残った。
「東京湾岸の旧工業地区。」
◇◇◇
カレンは事件資料と交通網を照らし合わせていた。
「犯人達が移動したルートだけではありませんね。」
「人員を運ぶための経路。物資を運ぶための経路。そして、見張りを配置するための経路。」
それぞれを書き出していく。
やがて三つの経路が、一つの地点へ集まった。
「ここです。」
カレンが地図を指差す。
「東京湾岸の旧工業地区。」
◇◇◇
夕方。
四人が作戦室へ戻る。
それぞれの資料を机へ置いた。
「俺は事件の移動ルートから。」
青真が言う。
「俺は物資の流れから。」
闇風が続ける。
「私はアーティファクトの製造条件から。」
メグが資料を示す。
「私は人員と物流の経路からです。」
カレンが最後に地図を広げる。
蓮は四人の資料を一つへ重ねた。
その中心。
全ての線が、一つの地点で重なっていた。
東京湾岸。
旧工業地区。
青真が静かに口を開く。
「……ここだな。」
闇風が頷く。
「間違いない。」
メグも地図を見つめる。
「製造設備の条件も一致してる。」
カレンは静かに息を吐いた。
「なら、ここがネメシスの拠点です。」
蓮は数秒間、地図を見つめた。
そして。
「明日、現地へ向かえ。」
「ハウンドがいるかどうかは分からん。」
「だが、ここまで情報が揃えば調べる価値はある。」
青真は立ち上がった。
「了解。」
四人は作戦室を後にする。
その夜。
東京湾岸、旧工業地区。
誰も使っていないはずの廃工場の地下で、無数の監視モニターが静かに光っていた。
その画面の一つに映っているのは――。
青真達、PRIMEの資料だった。
翌日。
東京湾岸、旧工業地区。
かつては工場や倉庫が立ち並んでいた場所も、今では使われなくなった建物ばかりが残っていた。
四人は人目を避けながら、目的の区域へ入っていく。
「……静かすぎるな。」
青真が周囲を見渡す。
昼間だというのに、人の気配がほとんどない。
「廃棄された工場が多い地域ですから。」
カレンが答える。
「ですが、完全に無人というわけではありません。」
その言葉に闇風が足を止めた。
「……ああ。」
視線だけを動かす。
「見られている。」
青真も周囲を見渡した。
「どこから?」
「分からない。」
闇風が短く答える。
「だが、いる。」
メグも魔力を探る。
「微弱な魔力反応がある。」
「地下……ね。」
四人は一つの古びた工場へ視線を向けた。
建物自体は完全に放棄されているように見える。
だが。
正面入口の扉だけが妙に新しい。
「ここだな。」
青真が近付く。
カレンが扉を確認する。
「鍵が掛かっています。」
「開けるか?」
青真が聞く。
カレンは首を横に振った。
「待ってください。」
剣を抜く。
一閃。
金属製の扉が綺麗に切断され、そのまま静かに倒れた。
「行きましょう。」
「相変わらず豪快だな。」
青真が苦笑する。
四人は工場内部へ入った。
中は暗い。
機械は停止し、床には長年使われていないような埃が積もっている。
しかし。
「……この埃。」
メグがしゃがみ込む。
「最近、誰かが通ってる。」
闇風も床へ視線を落とす。
「足跡がある。」
その先には、古い搬入口。
さらにその奥。
地下へ続く階段があった。
「地下施設か。」
青真が呟く。
四人は階段を降りていく。
十数段。
やがて、地下へ到着した。
その瞬間だった。
カチッ。
小さな音が響く。
「止まって!」
メグが叫ぶ。
次の瞬間。
天井から無数の細いワイヤーが飛び出した。
「来る!」
青真が前へ出る。
銀河を鞘から抜剣する。
同時に、通路の奥から大量の魔力を纏った弾丸が飛んできた。
ドドドドドッ!!
青真は避けない。
銀河で銃弾を全て斬り捨てていく。
「銃撃です!」
カレンが叫ぶ。
暗闇の奥から複数の人影が現れた。
一人。
二人。
三人。
さらに奥から五人。
合計八人。
全員が武器を構えている。
《魔法短剣》。
鉄パイプ。
魔力手榴弾。
そして《六連回転魔銃》を装備した男。
「侵入者はPRIMEだ!」
「構うな!」
「ここで潰せ!」
八人が一斉に動いた。
魔力手榴弾が投げ込まれる。
「散開!」
青真の声と同時に、四人がそれぞれ別方向へ動く。
爆発。
白い閃光と煙が通路を覆った。
その中から短剣を持った男が飛び出してくる。
「死ね!」
青真へ向かって振り下ろされる短剣。
キィン!
刃が魔力装衣へ触れた瞬間、弾かれた。
「なっ……!」
青真は相手の腕を掴む。
「悪いな。」
そのまま軽く投げ飛ばす。
男の身体が床を転がった。
闇風の背後から別の男が鉄パイプを振り上げる。
しかし。
その姿が突然消えた。
「え?」
気配を完全に消し、一瞬で死角へ回り込んでいた。
次の瞬間。
ゴッ。
闇風の短剣の峰が男の首元へ入る。
男が崩れ落ちる。
「こいつ!」
残りの敵が闇風へ殺到する。
だが。
「遅い。」
闇風は一歩後ろへ下がった。
その瞬間、床へ仕掛けられていたワイヤーが敵の足へ絡み付く。
「なに!?」
「罠まで!」
闇風は答えない。
ただ死角へ消える。
一人。
また一人。
峰打ちによって次々と敵が倒れていく。
「メグ!」
「わかってる!」
魔力手榴弾がメグへ向かって飛んでくる。
メグは慌てない。
「《魔人形》!」
巨大な魔人形が瞬時に前へ現れる。
ドンッ!!
爆発を正面から受け止める。
煙が晴れる。
魔人形は傷一つない。
「そ、そんな……!」
敵が後退する。
メグは魔導具を握り直した。
「私達を相手にするなら、もっと準備した方がいいよ。」
魔人形が拳を振り抜く。
ドォン!!
敵がまとめて吹き飛ばされる。
残った二人が《六連回転魔銃》を構えた。
「撃てえええっ!!」
六発の魔弾が連続して放たれる。
青真はその前へ出た。
「《魔力弾》。」
掌から放たれた光弾が途中で分裂する。
一発。
二発。
四発。
八発。
散弾となった魔力弾が敵の武器を正確に弾き飛ばす。
「ぐあっ!」
「銃が!」
そのまま二人が床へ倒れ込む。
そして。
最後に残った敵の前へ、カレンが立っていた。
「これで、終わりです。」
剣を構える。
敵が鉄パイプを振り上げた。
カレンは一歩だけ踏み込む。
一閃。
空気を裂く斬撃が敵の武器を弾き飛ばし、その衝撃で身体ごと後方へ吹き飛ばした。
ドンッ!
静寂。
八人の戦闘員が、全員床へ倒れている。
青真は周囲を見渡した。
「……終わったな。」
闇風が倒れた敵を確認する。
「全員、生きている。」
メグも頷いた。
「気絶しているだけね。」
カレンは剣を鞘へ納める。
「では、先へ進みましょう。」
その時。
地下施設の奥から、カチッという小さな音が響いた。
四人が一斉に振り向く。
暗闇の奥。
無数の監視カメラが、ゆっくりとこちらへ向きを変えていた。
「……。」
青真が目を細める。
「見られてるな。」
モニターの赤いランプが、一つ。
また一つと点灯していく。
その先に待つものが何なのか。
まだ、誰も知らなかった。
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