第164話:其々
東京。
昼下がりの新宿。
青真は特魔災害対策庁本部から送られてきた資料へ目を通していた。
ここ数日。
暴走一般人事件は急増している。
回収されたアーティファクト。
精神干渉。
ネメシス。
全てが一本の線で繋がり始めていた。
「……面倒だな。」
青真が小さく呟いた。
その時だった。
耳元の通信機から警報音が鳴る。
『緊急通報。』
『新宿三丁目付近。』
『魔力装甲車両による暴走事件発生。』
『周辺探索者及び警察による制止失敗。』
青真はため息を吐いた。
「またか。」
遠くで爆発音が響く。
そして次の瞬間。
ドゴォォォン!!
黒煙が立ち上った。
「近いな。」
青真は銀河を背負い、そのままビルの屋上から飛び降り駆け出す。
現場。
魔力装甲車両。
大型トラックを改造したような車体。
その全身を魔力装甲が覆っている。
さらに荷台。
そこには数人の武装した一般人。
違法アーティファクトで強化された連中だった。
「撃てぇぇぇ!!」
火球。
風刃。
雷撃。
周囲へ無差別乱射。
探索者達も近付けない。
「くそっ!」
「止まらない!装甲が硬すぎる!」
D級探索者達が苦戦していた。
そこへ。
青真がする。
ドンッ。
探索者達が振り返った。
「青真さん!?」
「PRIMEだ!」
青真は暴走車両を見る。
未来予知発動。
数秒先。
「なるほど。」
青真は右手を前へ向ける。
魔力圧縮。
《魔力弾》。
さらに。
《属性付与・氷》。
蒼白い光が弾丸へ宿る。
「止まれ。」
バシュッ!!
放たれた氷属性付与魔力弾。
それは正確に前輪へ命中した。
瞬間。
バキバキバキッ!!
タイヤ全体が凍結。
車体が大きく揺れる。
「何だ!?」
「タイヤが!」
運転手が叫ぶ。
そのまま装甲車両は制御を失った。
キィィィィィィッ!!
激しくスリップ。
車体が横を向く。
そして。
真正面。
高層ビル。
「ぶつかるぞ!」
探索者達が叫んだ。
しかしその前に青真は既に動いていた。
銀河抜刀。
青白い光が刀身を包む。
「終わりだ。」
一閃。
ズバァァァァァン!!
魔力装甲車両を正確に縦断。
車体だけを真っ二つに切断した。
運転席。
荷台。
乗員。
誰一人傷付いていない。
真っ二つになった車体だけが滑りながら停止する。
静寂。
数秒。
探索者達が呆然と呟いた。
「……は?何今の。」
「車だけ切ったのか?」
青真は銀河を鞘へ戻した。
「後は頼む。」
探索者達。
「は、はい!」
青真は振り返ることなくその場を離れる。
次の現場が待っていた。
同時刻。
大阪。
湾岸地区。
闇風は特魔災害対策庁一般隊員三名と共に倉庫街を歩いていた。
隊員達は緊張した様子で周囲を警戒している。
「この先です。」
隊員の一人が小声で言った。
「ネメシス傘下組織のアジト。」
闇風は無言。
気配察知。
既に中の人数も把握していた。
三十。
全員武装。
闇風は立ち止まる。
「待ってろ。」
隊員達。
「え?」
その瞬間。
闇風の姿が消えた。
「は?」
「え?」
隊員達が顔を見合わせる。
数秒。
沈黙。
そして。
倉庫の中から。
ドォォォォォン!!
雷鳴が轟いた。
続く。
悲鳴。
衝撃音。
何かが壊れる音。
そして。
再び静寂。
隊員達は慌てて倉庫へ突入した。
そこで見た光景に言葉を失う。
倉庫内。
構成員全員。
闇風の短剣で壁に縫い付けられていた。
誰一人逃げられない。
その時。
通信機が鳴る。
闇風だった。
『終わった。』
隊員達。
「え?」
『そこにまとめておいた。』
『拘束しておけ。』
沈黙。
そして。
『俺の短剣も回収しておけ。』
ブツッ。
通信終了。
隊員達。
「……。」
「帰った?」
「もう?」
倉庫内には、気絶した構成員達だけが残されていた。
同時刻。
名古屋。
市内中心部。
大手銀行。
館内には悲鳴が響いていた。
「動くな!!」
「全員床に伏せろ!!」
武装集団。
十数名。
全員が魔法銃や違法アーティファクトで武装している。
警備員達は既に制圧済み。
一般人達は床へ伏せさせられていた。
「金庫を開けろ!」
リーダー格が怒鳴る。
その時だった。
銀行入口のガラス扉が開く。
特魔災害対策庁隊員。
そして。
PRIME。
メグ。
同行した一般隊員三名が慌てて声を掛ける。
「メグさん!本当に前に出るんですか!?」
メグは面倒そうに振り返る。
「大丈夫だって。」
隊員。
「いやいや!」
「メグさん、いくらS+級とはいえあなたは後衛ですし!」
「PRIMEメンバーに何かあったら困るんですって!」
メグは呆れたように肩を竦めた。
「失礼ね。」
「私だって戦えるんだから。」
強盗達が気付く。
「何だお前ら!」
「撃て!!」
ドドドドドドドド!!
魔法銃乱射。
火属性。
水属性。
雷属性。
大量の弾丸が飛来する。
しかし。
メグは微動だにしなかった。
「《重力領域》。」
ズドォッ!!
空間が沈む。
飛来した弾丸。
全て。
銀行の床へ沈む。
強盗達。
「は?」
「何だ今の!?」
メグはため息を吐く。
右手を前へ向けた。
「《魔力拘束鎖》。」
ジャラララララララッ!!
紫色の鎖が地面から出現し強盗達へ一斉に絡み付く。
「ぐっ!」
「何だこれ!」
「外れろ!」
外れない。
それどころか。
鎖が淡く輝き始めた。
「なっ……!」
「魔力が……!」
体内魔力が吸い上げられていく。
鎖。
拘束。
さらに。
魔力吸収。
吸収した魔力はそのままメグへ還元されていた。
隊員達。
「魔力を吸ってる……。」
メグ。
「そのまま寝てなさい。」
指を鳴らす。
パチン。
ゴゴゴゴゴ……
巨大な『魔人形』。
出現。
強盗達の前へ立つ。
リーダー格。
「ふざけるなぁぁぁ!!」
火球。
水撃。
雷刃。
全力で放つ。
しかし。
ガギィィィィン!!
魔人形。
無傷。
「え?」
「は?」
魔人形の拳。
ドゴォォォン!!
強盗団。
まとめて吹き飛ぶ。
壁へ激突。
完全制圧。
隊員達。
「……。」
「後衛とは?」
メグは魔人形を回収しながらを小さく笑った。
「だから言ったじゃない、大丈夫だって。」
同時刻。
仙台。
探索者学校。
訓練場。
生徒達が木剣を振っていた。
その前。
カレン。
特別講師として招かれている。
教師達も周囲で指導中。
全員C級。
探索者学校の教師らしく十分強い。
近接戦闘教師。
「踏み込みが甘い!」
「腰を落とせ!」
魔法学教師。
「近接と魔法の連携を意識しろ!」
生徒達は真剣に訓練する。
その時だった。
警報。
ビーッ!!
ビーッ!!
訓練場全体へ鳴り響く。
教師達の表情が変わる。
通信。
「暴漢侵入!」
「校舎西側!」
近接戦闘教師。
「生徒達は全員避難!」
「教師陣出動!」
生徒達。
ざわつく。
教師達は即座に現場へ向かった。
暴走一般人。
違法アーティファクト装備。
十数名。
校舎からその様子を見る。
カレンが前へ出た。
剣を抜く。
キィン……
暴走者達。
一斉に突撃。
舞うように優雅に斬り払って行く。
魔法学教師。
「援護する!《大火球》!」
巨大な火球が暴漢数人を吹き飛ばす。
近接格闘教師。
「落とします!《剛進落》!!」
タックルし肘鉄をお見舞いし意識を奪う。
カレン。
静かに息を吐いた。
「終わりです。」
次の瞬間。
斬撃。
それは竜巻のように広がった。
ドォォォォォォォッ!!
暴走者達。
まとめて吹き飛ぶ。
建物。
地面。
壁。
全員叩き付けられる。
一撃。
終了。
教師達。
「相変わらずすごいですね……。」
生徒達。
言葉を失う。
「これが……。」
「PRIME……。」
カレンは静かに剣を鞘へ戻した。
そして。
何事も無かったかのように訓練場へ戻る。
「では続けましょうか。」
生徒達。
全員直立。
その瞳には憧れが宿っていた。
夜。
特魔災害対策庁本部。
PRIME。
再集結。
回収されたアーティファクト。
拘束された犯人達。
そして。
各地で発生した事件。
メグが解析結果を見ながら口を開く。
「資金力も技術力も異常ね。」
「あの量のアーティファクト全部に精神干渉効果を付与してるんだから。普通の工房じゃ絶対無理。」
闇風も頷く。
「俺が潰したのはネメシス傘下の一組織だ。」
「本体はもっと上にいる。」
カレン。
「全国同時。」
「計画性があります。」
青真は腕を組む。
「面倒な相手だな。」
蓮は静かに資料を閉じた。
「次は根を叩く。」
会議室。
空気が張り詰める。
ネメシス。
その巨大な影が、少しずつ姿を現し始めていた。
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