第161話:魔法世界
東京上空。
一機の大型ジェット機が雲を切り裂きながら飛行していた。
機内。
黒い《魔法装衣》
蒼い魔力ラインを纏う青真。
紫のラインを纏う闇風。
橙のラインを纏うメグ。
翠のラインを纏うカレン。
四人は後部ハッチ付近で待機していた。
特魔災害対策庁ナビゲーターの通信が機内へ響く。
「新宿でA級ダンジョンがダンジョンブレイク!」
「周辺にB級以上の上級探索者は居ません!」
青真が小さく肩を回す。
「まさか新宿のど真ん中にA級ダンジョンが出来てるとはな〜。」
闇風が肩を竦めた。
「東京の悪夢再びか?」
青真は笑う。
「ならないだろ、俺達がいる。」
メグが呆れたように言う。
「二人とも集中。」
カレンも頷いた。
「到着します。」
後部ハッチが開いた。
轟音と共に猛烈な風が機内へ流れ込む。
遥か下。
新宿。
巨大な黒い亀裂が空中を裂いていた。
ダンジョンブレイク。
街のど真ん中で発生した災害。
高層ビル群の間を大量の魔物が走り回っている。
屋上では特魔災害対策庁の戦闘部隊員達が応戦していた。
「第七班、右側を抑えろ!」
「魔法銃、撃て!」
魔力を込められた弾丸が夜空を駆ける。
銃声、爆発。
魔物達が次々と撃ち抜かれていく。
別のビル。
パラシュート降下部隊が着地。
マジックダガーを抜き放ち近接戦闘へ移行する。
部隊員達は強かった。
B級下位相当。
一般人から見れば英雄級の実力者達だ。
だがそれでも。
「くそっ!」
「雑魚は抑えられるが止まらない!」
誰かが叫ぶ。
その視線の先。
高層ビルよりも巨大な影が立っていた。
災竜王。
全長八十メートル。
灰黒色の鱗。
巨大な尾。
背中へ並ぶ結晶棘。
怪獣と竜を掛け合わせたような異形。
「グオオオオオオオオオッ!!」
咆哮。
衝撃波。
周囲の窓ガラスが一斉に砕け散り降り注ぐ。
災竜王が口を開く。
赤黒い魔力が輝いていく。
隊長の顔色が変わった。
「まずい!」
次の瞬間。
極太の熱線が放たれる。
轟音。
高層ビルの上層階が吹き飛んだ。
「隊長!」
「まだだ!」
「時間を稼げ!」
隊員達は必死に応戦する。
だが誰もが理解していた。
勝てない。
その時だった。
誰かが空を見上げる。
「……来た。」
雲を突き抜け四つの人影が落下してくる。
蒼。
紫。
橙。
翠。
夜空を彩る四筋の光。
隊員達の表情が変わった。
「PRIMEだ……!」
「本当に来た!」
青真達は高速で降下する。
災竜王もそれに気付いた。
咆哮。
巨大な前脚を振り上げる。
だが。
青真は落下しながら笑った。
「一気に終わらせるぞ。」
「了解。」
闇風。
「任せて。」
メグ。
「はい。」
カレン。
四人が同時に動く。
メグが巨大な魔法陣を展開した。
「魔鎖錬成。」
無数の魔力鎖。
災竜王の四肢へ巻き付く。
巨体が強引に固定された。
「グオオオッ!?」
動きが止まる。
その瞬間。
闇風が消えた。
次に見えた時には災竜王の身体中を駆け抜けている。
黒紫の軌跡。
斬撃。
全身へ無数の傷が刻まれる。
続いて。
カレン。
白色の斬撃が走る。
「砕きます。」
神速の一閃。
災竜王の魔力装甲が真っ二つに裂けた。
隊員達が絶句する。
「装甲を斬った……!?」
青真が右手を前へ突き出す。
無数の小さい魔力球から光線状に魔力が掌へ収束していく。
「終わりだ。」
「《魔力収束砲》。」
蒼白い光が空を斬り裂く。
極限まで圧縮された魔力が災竜王へ直撃する。
轟音。
衝撃波。
周囲の空気が吹き飛んだ。
災竜王の巨体が光に呑まれる。
「グオオオオオオオオオオッ!!」
断末魔。
だが、それも長くは続かない。
蒼白い閃光が収まった時そこに災竜王の姿は残っていなかった。
巨大な身体は跡形もなく消滅していた。
静寂。
誰も言葉を発せない。
隊員達は呆然と空を見上げていた。
「……終わった。」
「嘘だろ。」
「三十秒もかかってないぞ……。」
隊長ですら信じられないという顔をしていた。
青真は肩を回す。
「次は?」
闇風が周囲を見渡した。
「雑魚だけだ。」
メグが魔法陣を解除する。
「後は一般隊員達でも十分だね。」
カレンも剣を納めた。
「では任せましょう。」
隊長が慌てて敬礼する。
「お疲れ様でした!」
「後の処理は我々が行います!」
青真達は軽く手を上げた。
「ん。お疲れ〜。」
その様子を。
避難していた市民達が見ていた。
「助かった……。」
「何だったんだあの人達。」
「空から降ってきたぞ。」
「災害対策庁の……。PRIMEだ。」
誰かが呟く。
その言葉は瞬く間に広がった。
PRIME。
世界最強の対魔法スキル災害部隊。
三年前世界を救った英雄達。
その噂は今や誰もが知っていた。
◇◇◇
探索者学校。
授業中。
教師が黒板へ魔法式を書き込む。
「今日の魔法学は一般攻撃魔法《魔力弾》についてだ。」
生徒達が教科書を開く。
「この魔法は現在、最も普及している攻撃魔法の一つだ。」
教師は魔法陣を展開した。
小さな魔力弾が浮かぶ。
「単純な魔力弾射出だけではない。」
「散弾化。」
魔力弾が複数へ分裂する。
「属性付与。」
炎。
雷。
氷。
風。
様々な属性が付与される。
「収束化。」
一つへ集まり高密度化。
「連射化。」
高速で射出される。
教師は頷いた。
「使用者の技術次第で様々な応用が可能になる。」
生徒達は真剣な表情でメモを取っていた。
◇◇◇
(俺達はあの日魔王を倒した。)
ジェット機の窓から外を見ながら青真は思う。
眼下には東京の街並み。
三年前とは全く違う世界。
(その結果魔王の魔力は世界中へ広がった。)
人類は魔法を扱えるようになった。
ダンジョンが自然発生するようになった。
探索者という職業が生まれた。
世界は大きく変わった。
だが。
不思議と後悔はなかった。
(これが今の世界、俺達が守る世界だ。)
◇◇◇
特魔災害対策庁本部。
ジェット機が着陸する。
青真達が降り立つと、職員達が一斉に敬礼した。
「お疲れ様です!PRIME帰還しました!」
蓮が歩いてくる。
今は会長ではない。
特魔災害対策庁長官。
それが今の肩書だった。
「ご苦労。」
青真が笑う。
「A級程度なら問題ないですよ。」
蓮は苦笑した。
「そう言える人間が世界に何人いると思ってる。」
闇風が肩を竦める。
「少なくとも俺達以外は居ないな。」
メグが吹き出した。
カレンも小さく笑う。
三年前。
命懸けで戦った日。
今では少しだけ昔の話になっていた。
だが。
平和になった世界は確かにそこにあった。
そして青真達は。
その平和を守るために、今日も空へ飛ぶ。
新たな世界の物語が、ここから始まる。
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