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第160話:未来の先へ

白。

ただ真っ白な光だけが広がっていた。

未来断絶フューチャーブレイク》。

次元断絶ディメンションブレイク》。


二つの概念が激突した瞬間、世界から音が消えた。

青真は銀河を握ったまま立っている。

視界は真っ白だった。


やがて。

微かな音が戻る。

風。

呼吸。

鼓動。

世界が少しずつ輪郭を取り戻していく。


「……。」

青真は顔を上げた。

目の前。

そこには魔王が立っていた。


終焉を握ったまま。

静かに。

ただ。

その身体には無数の亀裂が走っていた。


パキッ。

小さな音。

終焉の刀身へ一本の亀裂が入る。

二本三本と刀身全体へ広がっていった。


魔王はそれを見つめる。

そして。

フッと笑った。

「そうか。」


終焉が砕け散る。

黒い光の粒子となって夜空へ消えていった。


青真は銀河を構えたまま動かない。

魔王も攻撃しない。

勝敗は決していた。


「見事だ。」

魔王は静かに言う。

「人間。」


黄金の瞳が青真を見据える。

そこに怒りはない。

憎しみもない。

ただ。

長い戦いの果てに敗北を認めた者の眼だった。


青真は何も答えなかった。

答える必要もなかった。

魔王は空を見上げる。

崩壊しかけていた世界。


その未来は既に断たれている。

「我の負けだ。」

その言葉と共に。

魔王の身体へ走る亀裂がさらに広がった。

全身から黒い光が漏れ出していく。


「貴様は。」

魔王は小さく笑う。

「最後まで抗ったな。」


次の瞬間。

身体が崩れ始めた。

黒い粒子。

無数の光。


それらが風に溶けていく。

青真は黙って見送った。

魔王は最後まで視線を逸らさなかった。


そして。

完全に消滅した。

静寂。

戦いは終わった。


その直後。

凍結していた空間が大きく震える。

氷獄停止世界(フリーズワールド)》の解除が始まった。


東京上空を覆っていた巨大な氷の結界が砕けていく。

青氷龍が低く咆哮した。

グオオオオオオオ……


凍結していた雲が動き出す。

停止していた風が吹く。

止まっていた時間が再び流れ始める。

東京が戻ってくる。


街の灯り。

車。

人々。

全てが本来の時間へ帰還していく。


世界は救われた。

融合世界は崩壊を免れた。

青真は銀河をゆっくり下ろす。


ようやく終わった。

そう思った。

だが。

胸の奥に残る重さは消えない。


勝ったはずなのに。

どこか空虚だった。

青真は無意識に周囲を見渡す。

そこにいるはずの仲間を探すように。


しかし。

その視線は途中で止まった。

脳裏に浮かぶ。

最後に見た姿。

風の翼。

傘。

聖剣。


そして――。

青真は静かに目を閉じた。

世界は救われた。


だが。

失ったものはあまりにも大きかった。



静寂は長く続かなかった。

最初に響いたのは、誰かの叫び声だった。


「た、助かった……!」

その一言を皮切りに、東京中で歓声が上がる。


「終わった!」

「生きてる!」

「空が戻ったぞ!」


避難所。

道路。

ビルの屋上。


あらゆる場所で人々が空を見上げていた。

誰も正体は知らない。

誰も名前は知らない。

それでも、上空で戦っていた者達が世界を救ったことだけは理解していた。


「見ろ!」


「あそこだ!」

青真が地上へ降下すると、一斉に視線が集まる。


「青真!」

闇風達が走ってくる。



歓声。

拍手。

泣き声。

笑い声。


それらが混ざり合い、東京は祭りのような熱気に包まれていた。


「すごい歓迎だな。」

青真が苦笑する。


「当然でしょう。」

カレンが微笑んだ。

「世界を救ったのですから。」


闇風は周囲を見回しながら肩を竦める。

「騒がしい。」


「そう言いながら少し嬉しそうだけど?」

メグが指摘する。


「気のせいだ。」

即答だった。

その時だった。


遠くから大勢の人影が駆け寄ってくる。

神聖騎士団。

黒死蝶。

ゲーム内百華繚乱メンバー。

そして七英雄達だった。


「やってくれたな!」

水帝が笑う。

普段の冷静さなど欠片もない。


「流石だ。」

神聖騎士団の団長も深く頷いた。


「全騎士!」

号令。

次の瞬間。


神聖騎士団全員が一斉に敬礼した。

壮観だった。

周囲の一般人達も思わず息を呑む。

青真は頭を掻いた。


「やめてくれ。」

「こういうの苦手なんだ。」


「今さらです。」

カレンが即答した。


周囲から笑いが起きる。

その空気に、ようやく全員の肩から力が抜けた。


世界は救われた。

その実感が少しずつ広がっていく。


◇◇◇


数時間後。

蓮の捜索が行われていた。

深淵波動砲によって数キロ先まで吹き飛ばされた蓮。

生死不明。

誰もが心配していた。


そして。


「見つけた!」


捜索隊の声が響く。

全員が駆け寄った。

瓦礫の中。

ボロボロになりながらも、蓮は生きていた。


「生きてるぞ!」


歓声が上がる。

青真も思わず息を吐いた。


「よかった。」

重傷だった。

だが生きている。

それだけで十分だった。


続いてルシウスの無事も確認される。

キュアが付き添う病室。

ルシウスはまだ目を覚まさない。


それでも。

命に別状はない。

その事実だけで仲間達は安心した。


◇◇◇


数日後。


東京で祝勝会が行われた。

東京。

人々が勝利を祝い続ける。


魔王軍の脅威は消えた。

世界は救われた。

誰もが笑っていた。


だが。

青真達だけは違った。

宴の途中。

ふと視線が向く。


そこには一つの空席。

誰も座らない席。

誰も座れない席。

アルナの席だった。


楽しいはずの時間。

賑やかなはずの時間。

それでも全員が同じことを思う。


彼女がここにいたら。

どんな顔で笑っただろうか。

翌日。

百華繚乱は静かに墓の前へ立っていた。


風が吹く。

誰も泣かなかった。

誰も叫ばなかった。

ただ静かに別れを告げる。

青真は最後に前へ出た。


しばらく黙る。

そして小さく笑った。

「ありがとう。」


それだけだった。

風が優しく吹き抜ける。

まるで返事をするように。


◇◇◇


それから世界は変わった。

融合世界は安定し。

魔王の魔力は世界中へ広がった。


人々は少しずつ新しい時代へ適応していく。

そして。


――三年後。

特魔災害対策庁本部。

大型モニターへ新宿の映像が映し出される。


蓮は書類から視線を上げた。

「新宿のA級ダンジョンがダンジョンブレイクしたそうだ。」

蓮は静かに言う。

「迎えるか?PRIME。」


青真は笑った。

「もちろんですよ会長。」


蓮の眉がぴくりと動く。


青真は肩を竦めた。

「……いえ。」


「今は長官でしたね。」

その瞬間部屋に苦笑が広がった。


そして。

新たな時代の英雄達が立ち上がる。

次なる戦場へ向けて。

ここまで読んでいただきありがとうございました!これで4部融合世界編は完結となります。次話からは5部「魔法世界編」の連載となります。引き続き応援よろしくお願いします!

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