第159話:未来と次元
凍結した東京上空。
《氷獄停止世界》の内部。
静止した世界の中で動けるのは二人だけだった。
青真。
そして魔王。
互いに満身創痍。
息も荒い。
それでも視線だけは決して逸らさない。
青真は銀河を構える。
魔王は終焉を肩へ担いだまま笑った。
「見事だ。」
「ここまで我を傷付けた人間は初めてだ。」
青真は返事をしない。
ただ構えを崩さない。
魔王は続ける。
「未来を断つ力。」
「実に興味深い。」
終焉がゆっくりと持ち上がる。
赤黒い魔力が刃へ集まり始めた。
黄金の瞳が細まる。
「貴様にできる事は我にもできる。」
瞬間。
空気が裂けた。
終焉が振り抜かれる。
「《空間断絶》。》
音はない。
だが。
世界そのものが裂けた。
青真の前方。
何も存在しない空間が突如として割れる。
ガラスが砕けるような光景。
空そのものへ巨大な亀裂が走った。
青真は反射的に銀河を蹴る。
加速。
回避。
直後。
先ほどまでいた場所が消えた。
後方に停止していた高層ビルの一部が音もなく切断される。
青真の瞳が僅かに細くなる。
(空間ごと斬った。)
(俺の《未来断絶》の空間版か、厄介だな。)
魔王は笑った。
「理解したか。」
「未来へ干渉するなら、こちらは空間へ干渉する。」
終焉が再び振るわれる。
空間断絶。
青真は目を見開く。
《数秒先の真実》。
四秒先。
未来映像。
無数の可能性。
その中から魔王の軌道を追う。
見えた。
次の断裂。
次の転移。
次の一撃。
青真は銀河を蹴る。
夜空へ浮かぶ銀河を足場にして高速移動。
四振りの銀河が周囲を旋回する。
魔王へ向けて放たれる。
ガァァァァァン!!
終焉がそれらを叩き落とす。
青真はその死角へ飛び込んだ。
銀河二刀流。
連撃。
魔王も迎撃する。
超高速の剣戟が夜空を埋め尽くした。
互角。
いや。
徐々に魔王が押し始める。
時間加速。
空間転移。
空間断絶。
能力の組み合わせがあまりにも凶悪だった。
未来予知があっても完全には対応できない。
青真の肩が裂ける。
脇腹が抉られる。
血が舞う。
それでも銀河は止まらない。
魔王は笑った。
「どうした。」
「限界か?」
青真は歯を食いしばる。
「まだだ。」
銀河四本を射出。
魔王へ殺到。
さらに。
《属性付与魔力弾》。
氷属性の魔力弾が大量に放たれる。
魔王は空間転移で回避する。
しかし。
転移先。
そこには青真がいた。
未来予知。
先読み。
銀河。
全てを重ねた奇襲。
ガキィィィィン!!
終焉と銀河が激突する。
魔王の表情から笑みが消える。
青真の一閃。
魔王の肩へ浅い傷が走った。
魔王は静かに後退する。
そして。
終焉を構え直した。
赤黒い魔力が今までとは比べ物にならない密度で収束していく。
空間が震える。
《氷獄停止世界》が軋む。
青真の本能が警鐘を鳴らした。
(来る。)
(まだ上があるのか……。)
魔王は静かに笑った。
魔王は終焉を静かに掲げた。
赤黒い魔力が渦を巻く。
いや。
それは魔力というよりも、世界そのものを侵食する何かだった。
凍結した東京上空。
空が割れる。
地平線が歪む。
青真は思わず息を呑んだ。
「何だ……それ。」
魔王は笑う。
「空間。」
「時間。」
「次元。」
「全ては繋がっている。」
終焉が唸る。
黒い光が刃を包み込む。
「《次元断絶》。》
瞬間。
世界が裂けた。
ドゴォォォォォォォォォン!!
轟音。
《空間断絶》とは比較にならない。
東京そのものが崩壊を始める。
停止していた高層ビル。
道路。
瓦礫。
全てが黒い裂け目へ吸い込まれていく。
青氷龍ですら咆哮した。
「まずい!!」
青真は未来予知を発動した。
《数秒先の真実》。
未来映像。
未来予知が限界を超え数分先の数多の未来を見せる。
無数の終末。
世界崩壊。
東京消滅。
融合世界消滅。
百華繚乱全滅。
人類滅亡。
そして。
魔王が瓦礫の玉座へ座る未来。
青真の瞳が揺れる。
「……。」
アルナ。
脳裏へ浮かぶ。
そして。
消えた姿。
蓮。
担架へ乗せられた姿。
ルシウス。
闇風。
メグ。
カレン。
百華繚乱。
今まで共に戦ってきた仲間達。
魔王の声が響く。
「見えただろう。それが結末だ。」
「我が勝利し。」
「世界が終わる。」
終焉が振り下ろされる。
黒い裂け目が拡大する。
世界そのものが飲み込まれていく。
だが。
青真は銀河を握り締めた。
震える腕。
限界を超えた身体。
それでも。
立つ。
「違う。」
魔王の瞳が細まる。
「何?」
青真は前を向く。
「そんな未来。」
「認めるか。」
銀河が蒼白く輝く。
分離していた七振りが一振りへ戻り始める。
青氷龍も咆哮した。
グオオオオオオオオッ!!
青真は銀河を構える。
そして。
静かに言った。
「未来は俺が選ぶ。」
魔王が終焉を振り上げる。
「ならば消えろ。」
黒い光。
世界を飲み込む破滅。
「《次元断絶》。》
青真は叫んだ。
「《未来断絶》!!!」
蒼白い一閃。
未来を断つ刃。
魔王を斬るのではない。
世界崩壊の未来。
魔王が勝利する未来。
その可能性そのものを断ち切る。
蒼と黒。
二つの概念が衝突する。
世界が白く染まった。
魔王の瞳が見開かれる。
銀河が振り抜かれる。
蒼白い光。
一閃。
そして。
世界から音が消えた。
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