第158話:決戦
静寂。
東京上空。
《氷獄停止世界》によって凍結された世界には、一切の音が存在しなかった。
飛行兵士。
ワイバーン。
崩壊途中だった瓦礫。
吹き荒れていた風。
全てが氷像のように停止している。
動けるのは二人だけだった。
青真。
そして魔王。
魔王は停止した兵士達を一瞥し、小さく肩を竦めた。
「すまんな。」
青真は黙ったまま銀河を構える。
魔王は続ける。
「部下達が余計なことをした。」
青真は短く答えた。
「気にするな。」
青真の視線が青氷龍へ向く。
「俺も青氷龍を出してる。」
魔王は小さく笑った。
「そうか。」
そして。
終焉を構える。
「ならば良い。」
「決着を着けるぞ。」
次の瞬間だった。
魔王の姿が消える。
《時間加速》。
停止した世界の中で、更に加速する。
A級の強者であろうと視認すらできない速度。
しかし。
青真の瞳が蒼く輝いた。
《数秒先の真実》。
四秒先。
未来映像。
脳内へ流れ続ける未来。
終焉の軌道。
魔王の位置。
全て見えていた。
ガァァァァン!!
終焉が振り下ろされる。
青真は振り返らない。
足元の銀河を呼び寄せる。
金属音。
終焉は銀河へ阻まれた。
魔王の瞳が僅かに細まる。
「見えているか。」
青真は答えない。
銀河が震えた。
キィィィィィン……
夜空へ展開される。
魔王が笑った。
「面白い。」
青真は銀河を蹴った。
ドンッ!!
空中加速。
さらに別の銀河へ着地。
再加速。
夜空に浮かぶ銀河を踏み台にしながら、青真は三次元機動を開始した。
魔王も飛行魔法で迎え撃つ。
黒い魔力が翼のように広がる。
終焉が唸りを上げた。
ガァァァン!!
銀河二刀。
終焉。
激突。
青真は止まらない。
飛ばされた銀河四振りが同時に魔王へ襲い掛かる。
前方。
背後。
左右。
死角からの同時攻撃。
魔王は終焉を振るった。
轟!!
二本を弾く。
しかし。
残る二本。
そこへ青真が飛び込む。
二刀流。
連続斬撃。
終焉が火花を散らす。
空中での高速剣戟。
停止した世界の中で、二人だけが異常な速度で動き続けていた。
魔王は終焉を振り抜きながら笑う。
「強くなったな。」
青真は銀河を交差させる。
「まだだ。」
魔王が後方へ飛ぶ。
距離が開く。
その瞬間。
青真の瞳が鋭く光った。
未来映像。
四秒先。
見えた。
魔王が時間加速を使い、自身の死角へ回り込む未来。
青真は銀河を握り直す。
「捕まえた。」
魔王の姿が消える。
《時間加速》。
だが。
青真は既に剣を振っていた。
「《未来断絶》。」
蒼白い斬撃。
未来そのものを断ち切る一閃。
魔王が現れる。
未来で立つはずだった場所。
その空間ごと斬撃が通過した。
初めて。
魔王の身体が裂けた。
黒い血が夜空へ散る。
魔王は大きく後退する。
そして。
傷口へ手を添えた。
黄金の瞳が細くなる。
「!??」
初めてだった。
魔王が本気で警戒の色を見せたのは。
《未来断絶》。
青真が異世界で生み出した奥義、《未来斬り》の上位技である。
未来予知によって相手の未来を完全に確定させ、その未来そのものへ斬撃を叩き込む技。
回避。
防御。
加速。
それら全ては未来の行動として既に存在している。
ならば、その未来ごと断てばいい。
銀河が持つ『万物を斬る力』と未来予知が融合したことで完成した、未来斬り。
未来に存在する行動。
未来に存在する位置。
未来に存在する空間。
その全てを一閃で断ち切る。
そして今。
《数秒先の真実》によって未来予知が極限まで強化されたことで、この技もまた進化していた。
未来の一点だけではない。
未来そのものを断絶する。
《未来断絶》。
それは青真が辿り着いた、未来予知の最終奥義だった。
「……危険だな。」
終焉を握り直す。
「その技、二度は受けん。」
青真は無言だった。
ただ銀河を構え直す。
魔王もまた笑う。
「良い。」
「だからこそ本気で潰す価値がある。」
次の瞬間。
「《時間加速》。」
魔王の姿が消えた。
青真の瞳が蒼く輝く。
「《数秒先の真実》。」
ガァァァァン!!
銀河と終焉が激突し火花を散らす。
二人は夜空を縦横無尽に駆ける。
青真は銀河を蹴る。
一本。
二本。
三本。
次々と足場を乗り換えながら加速する。
魔王へ飛ぶ。
終焉がそれを迎え撃つ。
轟!!
剣と剣が夜空で衝突した。
魔王は受け流しながら後方へ飛ぶ。
青真はその隙を逃さない。
「《属性付与魔力弾》!」
氷。
炎。
雷。
風。
四属性の魔力弾が一斉に放たれる。
魔王は空間転移で回避した。
だが。
転移先。
そこには既に銀河が待っていた。
ガキィィィン!!
終焉と銀河が再び衝突する。
「読んでいたか。」
魔王が笑う。
青真は答えない。
未来予知。
魔法。
銀河。
全てを総動員していた。
青氷龍が咆哮する。
グオオオオオオオオッ!!
巨大な氷結ブレス。
吹雪が夜空を埋め尽くす。
魔王は終焉を振るう。
氷が砕ける。
しかし。
その背後。
青真が飛び込んでいた。
銀河二刀。
連撃。
斬撃。
さらに遠隔四本。
四方八方から銀河が襲い掛かる。
魔王は初めて守勢へ回った。
だが次の瞬間。
終焉が赤黒く輝く。
「終わりだ。」
空間が軋む。
魔王の周囲へ巨大な魔法陣が展開された。
「《暗黒波動砲》。》」
ドォォォォォォォォォン!!
漆黒の奔流。
東京上空を貫く破滅の光。
青真は銀河七本を前方へ展開した。
氷魔法。
未来予知。
全てを重ねる。
しかし。
押される。
圧倒的な出力差。
銀河が軋む。
青真は歯を食いしばった。
「まだ……!」
魔王は終焉を掲げる。
赤黒い魔力が更に膨れ上がった。
空間が震える。
氷獄停止世界そのものが悲鳴を上げる。
青氷龍ですら目を見開いた。
「来るぞ!」
魔王は静かに告げる。
「終わらせてやる。」
そして。
「《深淵波動砲》。》」
暗黒波動砲を遥かに超える破滅。
黒い光が世界を飲み込む。
「《魔力収束砲》!」
白と黒が衝突する。
轟音。
爆発。
閃光。
やがて。
爆煙だけが残った。
青真は荒い息を吐く。
魔王もまた無傷ではない。
互いに満身創痍。
魔王は笑った。
「良い。」
「ここまで我を傷付けた人間は初めてだ。」
青真も銀河を握り直す。
「次で終わらせる。」
魔王は終焉を肩へ担いだ。
黄金の瞳が輝く。
「ああ、そうだな。」
凍結した東京上空。
最後の一撃へ向けて。
二人は静かに構え直した。
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