第151話:因縁
首都高速の高架上で、二本の短剣が激しくぶつかり合う。
火花が夜空へ散る。
闇風と漆黒の魔族。
両者は一瞬で距離を取り、次の瞬間にはまた別の場所で激突していた。
「悪くない。」
アサシンが笑う。
「人間にしてはな。」
闇風も口元を吊り上げる。
「まだ喋る余裕あるのか。」
「ならもっと速くするぞ。」
地面を蹴る。
姿が消える。
首都高速の支柱。
道路標識。
ガードレール。
二人は夜の首都高を縦横無尽に駆け回りながら斬撃を交わしていく。
その頃。
オフィス街。
重戦士は巨大戦斧を肩へ担ぎ、メグを見下ろしていた。
「小娘。」
「貴様が相手か。」
メグは魔導之杖を構える。
「ええそうよ。」
「あなたを倒して先へ進む。」
重戦士は鼻で笑う。
「できるものならやってみろ。」
直後。
背後の大型魔獣達が一斉に飛び出した。
牙。
爪。
咆哮。
メグは冷静だった。
「《魔人形》。」
足元へ錬成陣が広がる。
巨大な石の腕が地面から飛び出し、魔獣を真正面から迎え撃った。
ドォン!!
鈍い衝撃音。
重戦士はその様子を見て笑う。
「面白い。」
一方。
新宿高層ビル群。
アルナは隣のビル屋上へ飛び移る。
風を纏い、一気に加速。
しかし。
パンッ!!
再び乾いた銃声。
アルナは咄嗟に身体を沈める。
弾丸が頭上を掠め、背後の室外機を粉砕した。
「また!」
屋上の男は静かにボルトを引く。
カシャン。
見慣れない長い金属の武器。
アルナは眉をひそめた。
「……その武器。」
「何?」
男は銃口を下ろさない。
「戦利品だ。」
「この世界の高位の騎士を殺して奪った。」
アルナの表情が変わる。
「最初は使い方も分からなかった。」
「だが。」
男は薄く笑う。
「この世界には便利な物が残っていた。」
「武器の扱い方を書いた書物だ。」
「読めば誰でも扱える。」
アルナは弓を握り締めた。
「……最低。」
「そんな物を誇るなんて。」
男は肩を竦める。
「勝てば正義だ。」
パンッ!!
三発目。
アルナは屋上を蹴り、夜空へ飛び出した。
御茶ノ水聖橋。
月明かりが神田川を照らしている。
女騎士はゆっくりと剣を構えた。
「ようやく。」
「貴女と戦えます。」
カレンも剣を構える。
「私も。」
「全力でお相手します。」
二人は静かに一礼した。
そして。
ガキィン!!
剣がぶつかる。
一撃。
二撃。
三撃。
火花だけが静かな橋へ舞っていく。
互いに一歩も譲らない。
夜の神田川へ剣戟が響き渡った。
一方その頃。
六本木。
ネオンが照らす高層ビル群。
黒死蝶総長は静かに歩いていた。
その前。
アイアングリッチボスがゆっくりと姿を現す。
二人の距離、およそ二十メートル。
総長は煙草を一本取り出し、火を点けた。
「一つ聞く。」
ボスは無言。
「なぜ、あのガキを執拗に狙う。」
「そこまで執着する理由は何だ。」
夜風が二人の間を吹き抜けた。
ボスは総長を静かに見据えた。
「理由か。」
その声には感情がない。
ただ事実を語るだけだった。
「あの少年自身に興味はない。」
「問題は父親だ。」
総長は煙を吐きながら眉を上げる。
「父親?」
「そうだ。」
ボスはゆっくりと口を開いた。
「奴は元アイアングリッチ構成員。」
「人工異世界計画に携わっていた。」
総長は黙って続きを待つ。
「計画は完成目前だった。」
「だが奴は裏切った。」
「自分の息子を巻き込むと知り、計画そのものを潰そうとした。」
夜風が吹く。
ボスの声だけが静かに響く。
「研究施設を破壊。」
「重要設備を停止。」
「人工異世界計画は水の泡になる寸前だった。」
「我が悲願は、あの男一人によって崩壊しかけた。」
総長は小さく笑う。
「……なるほど。」
「随分と派手な親父だったんだな。」
ボスの瞳が僅かに細くなる。
「その罪は重い。」
「息子にも償わせる。」
「血は消さねばならん。」
総長は煙草を捨て、靴で踏み潰した。
「悪いが。」
「その話を聞いたら黙っていられるわけにはいかん。」
その瞬間。
ボスが片手を上げる。
ゴゴゴゴゴ……
六本木の地面が震え始めた。
高層ビルが軋む。
道路が隆起する。
巨大なビルがゆっくりと浮かび上がった。
「管理者権限。」
ボスが静かに告げる。
「《大規模地形操作》。」
浮かび上がったビルが総長へ向かって倒れ始める。
総長は笑った。
「そう来るか!」
轟音。
崩れ落ちる超高層ビル。
総長は真正面から駆け出した。
一方。
東京タワーへ向かう青真達。
三人は止まることなく瓦礫の街を走り続ける。
遠くから聞こえる仲間達の戦闘音。
それでも誰も振り返らない。
仲間を信じているからだ。
蓮が前方を見据える。
「もうすぐだ。」
ルシウスも聖剣を握る。
「魔力が急激に強くなっています。」
青真は銀河へ手を添えた。
「来る。」
視界の先。
赤黒い魔力を纏った東京タワーが、ついに目前まで迫っていた。
そして。
最上階。
巨大な玉座の間。
漆黒の鎧を纏う男が静かに立ち上がる。
圧倒的な魔力が空間そのものを震わせた。
「ようやく。」
「来たか。」
魔王はゆっくりと玉座から歩き出す。
その黄金の瞳は、真っ直ぐ東京タワーへ向かう三人だけを見据えていた。
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