第149話:決着
東京都庁。
崩壊した都庁舎の足元で、大地そのものが唸りを上げた。
アルゴが片手を掲げる。
直後、砕けた道路が波打ち、コンクリートが幾重もの槍となって地中から突き出した。
さらに街路樹、街灯、鉄骨、信号機までもが赤い光を帯び、宙へ浮かび上がる。
まるで東京そのものが牙を剥いたようだった。
「蓮会長!」
「分かってる!」
蓮が左手を突き出す。
「展開。」
透明な結界が二人を包む。
轟音。
鉄杭が結界へ激突し、火花を散らした。
結界越しに衝撃が腕へ伝わる。
それでも蓮は一歩も退かなかった。
その横を青真が駆け抜ける。
未来予知。
数秒先。
全ての攻撃軌道が頭へ流れ込む。
七本へ分離した銀河が空へ舞い上がった。
蒼い軌跡が都庁前を駆け抜ける。
アルゴは静かに笑う。
空間転移。
七本の魔剣は虚空を貫いた。
しかし。
「そこだ!」
青真の掌へ莫大な魔力が集束する。
眩い白光。
圧縮。
さらに圧縮。
アルゴの表情が僅かに変わる。
「……?」
「なんだその魔法は。」
「《魔力収束砲》!」
極太の光が一直線に都庁前を貫いた。
アルゴは咄嗟に転移する。
光線は背後の高層ビルを貫通し、爆音と共に外壁を吹き飛ばした。
粉塵が風へ乗る。
アルゴは静かに眼鏡を押し上げた。
「なるほど。」
「《魔力弾》。」
「その進化形態か。」
「面白い。」
西新宿高層ビル群。
ビル風が唸りを上げる。
闇風は高層ビルの壁面を駆け上がり、そのまま隣の屋上へ飛び移った。
着地。
再加速。
さらに跳ぶ。
「逃げるなァ!!」
グラディウスがビルの壁面を殴り飛ばす。
巨大な看板が根元から吹き飛び、闇風へ迫った。
闇風は身体を捻る。
看板を掠めるように避け、そのまま非常階段へ飛び込んだ。
「ははははッ!!」
「今日はよく走るじゃねぇか!!」
「追い付けるものなら追い付いてみろ。」
闇風は振り返りもしない。
ただビルを跳び続ける。
少しずつ。
ほんの少しずつ。
グラディウスの呼吸が荒くなり始めていた。
渋谷スクランブル交差点。
大型ビジョンの割れた画面が明滅する。
信号機の電子音だけが規則正しく鳴り続けていた。
その道路を魔獣の群れが埋め尽くす。
「まだまだぁ♪」
第二席が楽しそうに笑う。
新たな召喚陣が交差点上空へ広がった。
「アルナ!」
「分かってる!」
風を纏った矢が連続で放たれる。
飛翔する魔獣を撃ち落とし、その隙へ魔人形が拳を叩き込む。
交差点が揺れる。
アスファルトが砕け、魔獣が吹き飛んだ。
メグは静かに魔導之杖を握り直す。
「……数が多いなら。」
「まとめて吹き飛ばすだけよ。」
その足元へ巨大な錬成陣が静かに広がり始めた。
和田倉噴水公園。
高く吹き上がる噴水。
細かな水飛沫が辺り一面を覆い、石畳を濡らしていた。
ギィィン!!
鋼と鋼がぶつかり合う。
第一席の剣。
カレンの剣。
ルシウスの聖剣。
三本の刃が何度も交差する。
「速い……!」
ルシウスが踏み込む。
聖剣が閃く。
しかし第一席は半歩退くだけで躱した。
返しの一閃。
カレンが受け止める。
衝撃で噴水が大きく揺れ、水飛沫が三人へ降り注いだ。
第一席は静かに二人を見る。
「まだ足りん。」
カレンは剣を構え直す。
その視線が、一瞬だけ背後の噴水へ向けられた。
静かに。
何かを考えるように。
東京都庁。
アルゴが再び右手を掲げる。
大地が裂ける。
崩れた道路。
鉄骨。
街灯。
東京都庁前に存在するあらゆる物質が巨大な槍となり、百華繚乱へ襲い掛かった。
「会長!」
「ああ。」
蓮は静かに一歩前へ出る。
「展開。」
今までで最大の結界。
巨大な半球状の透明な壁が青真の前へ展開された。
轟音。
鉄杭が次々と激突する。
結界は軋む。
しかし砕けない。
青真は静かに右手を結界へ向けた。
莫大な魔力が一点へ収束する。
白い閃光。
「《魔力収束砲》!!」
極太の光が真正面から結界へ突き刺さった。
次の瞬間。
結界内部で圧縮された魔力が一気に四方八方へ反射する。
ドォォォォォン!!
無数の光線。
結界全体から放射状に拡散した魔力が、アルゴを完全に呑み込んだ。
「――ッ!?」
空間転移。
逃げようとする。
だが。
全方向。
全角度。
逃げ場はない。
「そんな……!」
眩い閃光が東京都庁前を飲み込んだ。
爆発が収まる。
そこには膝をついたアルゴだけが残っていた。
「……見事だ。」
アルゴは静かに笑う。
「最後まで。」
「君たちらしい勝ち方だった。」
身体が淡い光へ変わる。
その言葉を最後に、アルゴは光となって消滅した。
西新宿高層ビル群。
闇風は高層ビル群で最も高い屋上へ立っていた。
その眼下。
グラディウスが息を荒げながら見上げている。
「逃げるなァ!!」
「誰が。」
闇風は鼻で笑う。
「遅かったな。」
「てめぇぇぇ!!」
グラディウスが怒号を上げ、屋上を蹴った。
二人同時に落下する。
ビル風が身体を叩く。
闇風は途中で身体を反転。
向かいのビル壁面へ着地した。
そのまま壁を蹴る。
爆発的加速。
「黒雷閃。」
黒い雷光が一直線に走る。
グラディウスの胸を貫いた。
ドォォォン!!
巨体は隣のビルへ叩き付けられ、外壁を突き破る。
崩れ落ちるコンクリート。
グラディウスは瓦礫の中で笑った。
「……は。」
「速ぇな。」
「楽しかったぜ。」
そう呟き、静かに光となって消えていった。
渋谷スクランブル交差点。
「今!」
メグが叫ぶ。
巨大なゴーレムがアルナを空高く射出する。
交差点上空。
アルナは無数の矢を一斉に放った。
風を纏った矢が雨のように降り注ぐ。
同時に。
地上ではメグが魔導之杖を振り下ろした。
「全部吹き飛びなさい。」
炎。
氷。
雷。
錬成した薬品。
全てが同時に炸裂する。
爆炎が交差点を包み込んだ。
第二席は苦笑した。
「あら。負けちゃった。」
その身体は静かに光となり、渋谷の空へ溶けていった。
和田倉噴水公園。
カレンが一閃する。
噴水が砕け散った。
大量の水飛沫が第一席の視界を覆う。
「ルシウスさん!」
「任せてください!」
ルシウスがカレンを踏み台に高く跳ぶ。
第一席は上段を受けた。
その瞬間。
背後。
カレンが既に回り込んでいた。
「終わりです。」
二本の剣が同時に閃く。
第一席は静かに目を閉じた。
「……見事。」
その一言だけを残し、第一席もまた淡い光となって消滅した。
東京都。
四つの戦場。
ほぼ同時刻。
四神傑は全員敗れた。
静寂。
誰も言葉を発しない。
やがて。
「勝ったぁぁぁぁぁ!!」
黒死蝶構成員の歓声が東京中へ響き渡る。
しかし。
青真は空を見上げた。
まだ終わっていない。
東京の中心。
魔王の膨大な魔力が漏れ続けていた。
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