第148話:激戦
夕陽が東京の街並みを赤く染めていた。
崩壊した超高層ビル群のガラスが夕焼けを反射し、茜色の光が摩天楼を包み込む。
吹き抜けるビル風。
舞い上がる粉塵。
砕けた道路。
静寂だった東京は、今や人智を超えた戦いによって轟音に満ちていた。
東京都庁周辺。
ガガガガガッ!!
地面から突き出した無数の鉄杭が青真と蓮へ襲い掛かる。
「結界!」
蓮が左手を突き出す。
透明な防御結界が二人を包み込み、鉄杭が火花を散らしながら弾かれた。
しかし。
アルゴは休まない。
「《生成》」
管理者権限。
砕けた道路。
街灯。
標識。
鉄骨。
周囲のあらゆる物質が赤い光を帯び、一斉に宙へ浮かび上がる。
「青真!」
「分かってます!」
未来予知。
数秒先。
飛来する全ての軌道が頭へ流れ込む。
青真は銀河を振るった。
蒼い斬撃が鉄骨を両断する。
その隙。
蓮の右手から三本のナイフが一直線に放たれた。
喉。
胸。
肩。
三方向同時。
アルゴは小さく笑う。
「悪くない。」
空間が歪む。
転移。
その瞬間だった。
「そこだ!」
《魔力弾》。
転移先を読んだ青真の光弾がアルゴを襲う。
アルゴは紙一重で回避した。
頬を掠めた光弾が後方の高層ビルへ命中する。
バァン!!
無数のガラスが夕陽を受けながら雨のように降り注いだ。
アルゴは眼鏡を静かに押し上げる。
「未来予知。」
「やはり厄介だ。」
その視線が蓮へ移る。
「だが。」
「もっと不可解なのは、お前だ。」
西新宿高層ビル群。
ゴォォォッ!!
二百メートル級の高層ビルの谷間を突風が吹き抜ける。
闇風は屋上を蹴り、一気に隣のビルへ跳んだ。
着地。
そのまま壁面を蹴る。
さらに加速。
「逃げるなァァァ!!」
背後。
グラディウスが屋上へ拳を叩き込む。
ドォォン!!
屋上が砕け、巨大な看板が宙へ吹き飛んだ。
そのままグラディウスは看板を掴み、豪快に投げ付ける。
巨大な鉄板が唸りを上げながら闇風へ迫る。
「……遅い。」
闇風は身を沈める。
看板の下を滑り抜け、そのまま非常階段を駆け上がる。
背後では看板がビルへ激突し、ガラスが滝のように崩れ落ちていた。
グラディウスは獣のように笑う。
「そうだ!」
「もっと逃げろ!」
「追い掛ける方が面白ぇ!」
渋谷スクランブル交差点。
誰も渡る者のいない横断歩道。
信号機だけが規則正しく電子音を鳴らしている。
大型ビジョンは半分以上が砕け、それでも途切れた映像を映し続けていた。
「ふふっ。」
第二席は楽しそうに微笑む。
指先がゆっくりと動く。
その瞬間。
交差点を覆うほどの召喚陣が展開された。
狼。
蛇。
巨大な鳥。
魔獣が次々と姿を現し、道路を埋め尽くしていく。
「アルナ!」
「任せて!」
アルナは素早く矢を放つ。
矢は風を纏いながら一直線に飛び、空から急降下した鳥型魔獣を撃ち抜いた。
そのまま突風が巻き起こる。
道路標識。
散乱したバイク。
砕けた信号機。
全てが風へ巻き込まれ、魔獣の群れへ叩き付けられた。
「魔人形!」
メグが魔導之杖を振る。
ゴゴゴゴ……
巨大な魔人形が交差点中央へ立ち上がる。
重い一歩。
アスファルトが沈む。
振り抜いた拳が狼型魔獣をまとめて吹き飛ばした。
「いいねぇ。」
第二席は嬉しそうに笑う。
「そのくらい元気な方がが遊び甲斐がある。」
和田倉噴水公園。
噴水が高く吹き上がり、水飛沫が夕陽を受けて黄金色に煌めく。
ギィィン!!
鋼と鋼がぶつかり合う。
第一席とカレン。
二人の剣が交差した瞬間、水飛沫が弾け、石畳へ細かな水滴が降り注ぐ。
横からルシウスが踏み込む。
「はぁぁっ!」
聖剣が閃く。
しかし第一席は身体を僅かに傾けるだけで躱し、そのまま流れるような返しの一閃。
カレンが受け止める。
ドンッ!!
衝撃が噴水を揺らし、水柱が大きく崩れた。
第一席は静かに口を開く。
「悪くない。」
「だが。」
「まだ届かん。」
四つの戦場。
東京という巨大な舞台で、それぞれの死闘はさらに激しさを増していく。
東京都庁周辺。
砕けた道路が唸りを上げる。
アルゴが指先を動かした瞬間、アスファルトが波打つように隆起し、巨大な壁となって青真たちへ迫った。
蓮は即座に左手を突き出す。
「展開。」
透明な結界が目前へ広がる。
轟音。
大地そのものが激突したかのような衝撃が都庁前へ響き渡った。
結界越しに凄まじい圧力が伝わる。
それでも蓮は一歩も退かない。
その横を青真が駆け抜けた。
未来予知。
視界へ数秒先の軌道が流れ込む。
「そこだ!」
銀河が七振りへ分離する。
七本の魔剣が一斉にアルゴを包囲した。
「……そう来るか。」
アルゴは僅かに口角を上げる。
空間が揺らぐ。
転移。
七本の刃は空を切った。
しかし。
「逃がさない。」
蓮の仕込み傘が大きく開く。
一瞬だけアルゴの視界を遮る。
ヒュンッ!!
二本のナイフが死角から一直線に飛来した。
アルゴは身体を捻って回避する。
それでも一本がコートの袖を裂いた。
アルゴの表情から余裕が僅かに消えた。
「……。」
彼は裂けた袖を一瞥する。
そして静かに蓮を見る。
「なるほど。」
「君は攻撃役じゃない。」
「僕の動きを止める役か。」
蓮は答えない。
その沈黙だけで十分だった。
「面白い。」
アルゴは静かに笑う。
「なら――先に君から崩す。」
西新宿高層ビル群。
強烈なビル風が吹き抜ける。
闇風は非常階段の手すりを蹴り、一気に隣のビル屋上へ飛び移った。
着地と同時に姿が消える。
「また隠れたか!」
グラディウスが笑う。
拳を振るう。
巨大な看板が根元から吹き飛び、ビルとビルの間を回転しながら飛んでいく。
ドォォン!!
隣のビルへ激突。
ガラス片が夜を待つ東京の空へ降り注いだ。
「どこだァ!!」
返事はない。
風だけが吹く。
その瞬間。
グラディウスの背後。
短剣が閃いた。
ガキィン!!
腕甲が火花を散らす。
「そこか!」
拳が振り抜かれる。
しかし闇風は既にいない。
再び屋上を蹴り、さらに高いビルへ跳んでいた。
「……ちっ。」
「でかい獲物は消耗させてから狩る。」
闇風は小さく呟き、再び姿を消した。
渋谷スクランブル交差点。
信号機の電子音が静かに鳴り続ける。
誰も渡る者のいない横断歩道を、使い魔の群れが埋め尽くしていた。
「増え続ける……!」
アルナが矢を放つ。
風を纏った矢が狼型使い魔を貫く。
その隙に魔人形が拳を叩き付ける。
アスファルトが砕け、数体まとめて吹き飛んだ。
第二席はその様子を見ながら楽しそうに笑う。
「いいねぇ。」
「本当に頑張るじゃない。」
「でも。」
パチン。
指が鳴る。
新たな召喚陣。
大型ビジョンほどの巨大な魔法陣が空中へ展開された。
メグが目を細める。
「まだ来る……!」
「もちろん。」
第二席は妖しく微笑む。
「まだ始まったばかりだよぉ。」
和田倉噴水公園。
噴水が高く吹き上がる。
弾けた水飛沫が細かな霧となり、公園全体を包み込んでいた。
ギィィン!!
剣戟。
水飛沫が火花と共に散る。
第一席は静かだった。
一切の無駄がない。
最小限の動きだけでカレンとルシウスの剣を受け流していく。
「速い……!」
ルシウスが踏み込む。
聖剣が一直線に閃く。
しかし第一席は半歩だけ退く。
それだけで躱した。
返しの斬撃。
カレンが受け止める。
ドンッ!!
衝撃で噴水の水面へ大きな波紋が広がった。
第一席は静かに剣を構え直す。
「連携は悪くない。」
「だが。まだ甘い。」
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