第146話:再来
融合した東京。
崩れた高層ビルの谷間では、黒死蝶とアイアングリッチ本隊による激戦が繰り広げられていた。
金属音。
爆発。
魔法。
リベラルワールド時代の能力を取り戻した両軍が、現実世界ではあり得ない戦いを繰り広げている。
「押し込めぇぇぇ!!」
黒死蝶総長が戦斧を振り下ろす。
強化された膂力による一撃でアイアングリッチ兵が吹き飛び、その隙へ黒死蝶構成員が一斉に飛び込んだ。
「うおおおっ!」
「リベラルワールドの頃より身体が軽ぇ!」
「やれるぞ!」
かつてトップランカーだった黒死蝶の面々は、本来の実力を取り戻し、アイアングリッチ兵を次々となぎ倒していく。
その光景を見た青真は、小さく頷いた。
「……ここは任せられる。」
蓮会長も静かに前方を見据える。
「黒死蝶が時間を稼いでくれる。僕らは魔王軍へ向かおう。」
「急ぎましょう。」
ルシウスが聖剣を握る。
「魔王が本格的に動く前に。」
百華繚乱は走り出した。
崩壊した東京駅前を一直線に駆け抜ける。
その時だった。
闇風が足を止める。
「……来る。」
全員が同時に武器を構えた。
直後。
バキバキバキバキッ――!!
空間そのものが砕け散る。
東京駅上空へ巨大な亀裂が走った。
黒いノイズ。
赤い光。
見覚えのある転移現象。
「この転移は……!」
青真が銀河へ手を掛ける。
裂け目の中から、一人の男がゆっくり歩み出た。
黒いロングコート。
銀縁の眼鏡。
穏やかな笑み。
「久しぶりだな。」
「百華繚乱。」
「アルゴ!」
青真が叫ぶ。
だが、それで終わりではなかった。
ドォォン!!
別の裂け目が豪快に弾け飛ぶ。
巨大な拳が空間ごと砕き、一人の大男が姿を現した。
二メートルを超える体躯。
黒い装甲。
銀髪。
獣のような笑み。
「はははははッ!!」
「よう、百華繚乱!!」
四神傑第三席。
グラディウス。
さらに。
第三の裂け目。
黒衣の美女が無数の召喚陣を背負いながら静かに降り立つ。
彼女の周囲には数十体もの魔獣が浮かんでいた。
「久しぶりね可愛こちゃぁん。」
四神傑第二席。
そして最後に。
何も言わず、一人の剣士が静かに歩いてくる。
腰の長剣へ手を添え、その視線はただ一人。
カレンだけを見据えていた。
四神傑第一席。
東京の空へ。
アイアングリッチ最高幹部――四神傑が揃った。
その圧倒的な存在感に、戦っていた黒死蝶構成員たちまでも動きを止める。
「なんだ……あいつら。」
「空気が違う……。」
黒死蝶総長も眉をひそめた。
「アイアングリッチの化け物共か。」
その瞬間。
闇風が一歩前へ出る。
「下がれ。」
静かな声。
しかし有無を言わせない重みがあった。
「お前たちじゃ、あいつらの相手は無理だ。」
師団長達が舌打ちする。
「ふざけんな。」
「俺たちだって――」
「違う。」
闇風は首を横へ振る。
「あれは俺たちの獲物だ。」
アルゴが静かに微笑んだ。
「流石だ。」
「君たちは理解が早い。」
彼は東京全体を見渡す。
「世界は融合した。」
「その結果、我らアイアングリッチはこの世界で管理者権限を手に入れた。」
アルゴの背後へ赤い情報ログが幾重にも展開される。
ビル。
道路。
瓦礫。
空間。
すべてへ赤いラインが走っていく。
「この世界を構成する情報。」
「物質。」
「生物。」
「現象。」
「その全てへ管理者権限が及ぶ。」
静かな声だった。
しかし、その一言一言が東京全体を支配するような重圧を伴っていた。
「もはや我らを止める者はいない。」
アルゴは眼鏡を押し上げる。
「さあ。」
「実験を始めよう。」
その瞬間。
グラディウスが獰猛な笑みを浮かべながら拳を鳴らした。
「ようやく暴れられるなァ。」
四神傑。
かつて百華繚乱を絶望へ追い込んだ最強の敵が、今再び青真たちの前へ立ちはだかった。
東京駅前。
崩壊した街の中心で、百華繚乱と四神傑は静かに対峙していた。
互いに一歩も動かない。
吹き抜ける風だけが瓦礫を転がし、不気味な静寂を演出している。
アルゴは青真を見つめたまま、静かに眼鏡を押し上げた。
「……なるほど。」
赤い情報ログが視界へ次々と流れていく。
【対象:青真】
【過去戦闘ログ照合】
【解析開始】
【エラー】
【能力差異を確認】
アルゴの眉が僅かに動いた。
「以前解析した君とは別人だ。」
「能力が成長しているだけではない。」
「新たな能力まで増えている……。」
未来予知。
《属性付与魔力弾》
魔剣・銀河。
青氷龍。
氷属性魔法。
以前存在しなかった情報が次々と解析画面へ追加されていく。
青真は静かに銀河を構えた。
「当然だ。」
「俺は止まってなんかいない。」
「お前も、昔の俺を相手にするつもりなら痛い目を見るぞ。」
アルゴは小さく笑った。
「面白い。」
「ならば解析をやり直すだけだ。」
その横では。
グラディウスが拳を鳴らしていた。
ゴキッ。
ゴキゴキッ。
「待ちくたびれたぜ。」
その視線は一直線に闇風へ向く。
「今度は最後まで付き合え。」
闇風は双短剣を抜いた。
「そのつもりだ。」
「今回は俺が勝つ。」
「はははッ!!」
グラディウスが豪快に笑う。
「そうこなくちゃ面白くねぇ!」
一方。
第二席は妖しく微笑みながらメグとアルナを見る。
「錬金術師ちゃん。」
「久しぶりに会っても可愛いわねえ。。」
アルナは弓を握り締める。
「気持ち悪い。」
メグも魔導之杖を構える。
「ぶっ飛ばす。」
第二席は肩をすくめる。
「二人まとめて相手してあげる。」
その背後へ幾重もの召喚陣が展開され始めた。
最後に。
第一席。
相変わらず何も喋らない。
ただ静かに。
剣へ手を添える。
その視線の先には。
カレン。
そしてルシウス。
ルシウスは聖剣を握り、小さく息を吐いた。
「……貴方ほどの剣士と刃を交えられることを光栄に思います。」
第一席は僅かに頷くだけだった。
カレンも剣を構える。
「私もです。」
言葉はそれだけ。
しかし十分だった。
青真は全員を見回す。
意念伝達。
全員の意識が一つへ繋がる。
(ここから先は各個撃破。)
(終わった者から東京タワーへ。)
(魔王はそこにいる。)
『了解。』
全員の返答が重なった。
アルゴが静かに口を開く。
「では。」
「始めよう。」
その瞬間だった。
グラディウスが地面を蹴る。
「行くぞォォォッ!!」
闇風も同時に駆け出した。
「来い。」
第二席が笑いながら後方へ跳ぶ。
「捕まえてごらぁん。」
「逃がさない!」
メグとアルナが同時に飛び出す。
第一席は静かに踵を返す。
その背中を。
カレンとルシウスが迷わず追った。
そして。
アルゴが青真へ視線を向ける。
「来い。」
「決着をつけよう。」
「望むところだ。」
青真が銀河を握り直す。
その隣では蓮が静かに仕込み傘を構えた。
「青真。」
「行こう。」
「ああ!」
次の瞬間。
10人の姿が、一斉に動いた。
それぞれが、それぞれの宿敵だけを見据え。
崩壊した東京の街へと駆け出していく。
融合世界東京決戦。
最初の戦いが――
今、幕を開けようとしていた。
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