第143話:攻略完了
ギィィィィィン!!
青真とカレンの同時斬撃を受け、魔王は数歩後方へ押し返された。
「はぁ……。」
魔王が静かに息を吐く。
《時間加速》。
発動は続いている。
しかし。
先程までの圧倒的な速度はもうなかった。
青真が口元を上げる。
「効いてるな。」
魔王は何も答えない。
その沈黙こそが答えだった。
時間加速。
自身の時間を進める禁術。
倍率を上げるほど寿命を削る。
長引けば長引くほど魔王自身が消耗する。
「攻略完了だ。」
青真は銀河を構え直した。
「闇風!」
「右へ抜ける!」
闇風が再び魔王の背中を追う。
距離は六メートル。
縮まらない。
それでも。
離されない。
「次は柱!」
「了解!」
青真の未来予知。
闇風の実況。
二つの情報が重なる。
「《属性付与魔力弾》!」
蒼い魔力弾が未来座標へ飛ぶ。
ドドドドドッ!!
魔王は避ける。
しかし。
「そこ!」
アルナの矢が飛ぶ。
ヒュン!!
風を纏った一矢。
魔王は身体を捻る。
その瞬間。
「今!」
メグが床へ手を叩き付けた。
黄金色の錬成陣が一斉に展開される。
「《多重錬成》!」
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
錬成陣が同時に複数展開される。
床。
壁。
天井。
あらゆる場所から錬成された岩槍が魔王へ襲い掛かった。
「面白い。」
魔王は笑う。
《終焉》。
槍。
大剣。
双剣。
一瞬ごとに武器形態を変えながら全てを叩き落としていく。
ガガガガガッ!!
「全部防ぐか!」
アルナが息を呑む。
「まだ!」
メグは笑った。
「錬成は一つじゃない!」
第二陣。
第三陣。
連続錬成。
玉座の間そのものが巨大な錬成工房へ変わる。
「今までとは規模が違う……!」
カレンが思わず呟いた。
「本気。」
魔王の動きが止まる。
ほんの一瞬。
その僅かな隙。
闇風が消えた。
「そこだ。」
影。
一閃。
二閃。
三閃。
四閃。
五閃。
六閃。
《影縫六閃》。
六連撃が全て同じ傷口へ叩き込まれる。
「ぐっ!」
魔王が初めて苦悶の表情を浮かべた。
「今!」
青真が叫ぶ。
カレンは無言で頷く。
二人の剣士が再び同時に駆け出した。
「今!」
青真の声が響く。
カレンは無言で頷いた。
二人の剣士が同時に床を蹴る。
魔王は《終焉》を双剣へ変形させ迎え撃つ。
ガガガガガッ!!
凄まじい剣戟。
火花が玉座の間を埋め尽くす。
青真の未来予知。
カレンの剣技。
二人は互いの動きを言葉なく理解していた。
「右!」
青真が叫ぶ。
カレンは即座に身体を捻る。
青真の背中を踏み台に跳び上がる。
「はあぁぁっ!」
上段から一閃。
魔王は受ける。
その瞬間。
「そこだ!」
青真が銀河七刀を操る。
七本の剣が左右から魔王へ襲い掛かった。
ギィィィィン!!
魔王は大剣へ変形。
まとめて受け止める。
「まだ!」
青真が右手を振る。
空中へ蒼い氷が生成される。
「カレン!」
「了解!」
カレンは迷いなく氷の足場を踏み込む。
もう説明も確認も必要ない。
青真が未来予知で足場を作り、
カレンがそこを駆け抜ける。
それは幾度となく積み重ねられた信頼が形になった連携だった。
魔王は二人の動きを見据え、小さく目を細める。
「空中そのものを戦場へ変えたか。」
「面白い。」
魔王は天井近くまで退避する。
「逃がさない!」
青真が床へ巨大な氷塊を生成した。
斜めへせり上がる。
巨大な氷の跳躍台。
「カレン!」
「了解!」
全速力。
踏み切る。
ドォン!!
氷の反発力でカレンの身体が一気に射出される。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
超高高度。
魔王の真上。
ズバァァッ!!
肩口を深く斬り裂く。
「ぐっ!」
魔王が怯んだ。
「今だ!」
闇風。
《影縫六閃》。
六連撃。
全て同じ傷口へ叩き込む。
ザザザザザッ!!
「アルナ!」
「任せて!」
アルナは迷いなく弓を引き絞る。
「《風神乱射》!」
数十本の矢が暴風を纏い、一斉に魔王へ降り注ぐ。
ヒュン!!
ヒュン!!
ヒュン!!
魔王は避けようとする。
だが。
「今だよ!」
メグが黄金色の錬成陣を一斉に展開した。
「《多重錬成》!」
無数の岩鎖が床から伸び、魔王の脚へ絡み付く。
「捕まえた!」
「青真!」
「分かってる!」
青真が右手を掲げる。
蒼い魔法陣。
「《属性付与魔力弾》!」
氷属性。
二十発。
未来座標へ。
ドドドドドドドドドッ!!
肩。
脚。
胸。
全身へ命中。
氷が一気に広がる。
《時間加速》。
その速度が目に見えて鈍る。
青真は口元を上げた。
「攻略完了だ。」
「終わらせる!」
銀河七刀。
全展開。
カレンも最後の踏み込みへ入る。
「青真!」
「ああ!」
二人は同時に駆けた。
十字。
交差。
二人の剣閃が魔王の身体を同時に斬り裂く。
ズバァァァァッ!!
黒い鮮血が宙へ舞う。
魔王は数十メートル吹き飛び、玉座の前まで叩き付けられた。
ゴォォン!!
玉座が砕ける。
静寂。
百華繚乱は誰一人として追撃の手を緩めない。
全員が次の一手へ備えて武器を構え続けていた。
魔王はゆっくりと立ち上がる。
肩で荒く息をしながら、小さく笑う。
「……見事だ。」
「まさか。」
「我をここまで追い詰めるとは。」
赤い瞳が五人を静かに見渡す。
その笑みには、焦りと――ある決意が混じっていた。
青真は銀河を構えたまま、一歩前へ出る。
「終わりだ、魔王。」
魔王は静かに目を閉じる。
「終わり……か。」
その呟きは、不気味なほど穏やかだった。
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