第141話:時を駆ける魔神
「攻略開始。」
青真が静かに呟く。
その瞬間。
百華繚乱が一斉に動いた。
「行く!」
カレンが真っ先に飛び出す。
真武解放によって強化された身体能力で一気に間合いへ踏み込み、銀白の剣閃を幾重にも重ねる。
ギィィィン!!
魔王は腕で受け流す。
だが。
「まだ!」
闇風が死角へ回り込む。
毒影の短剣が首筋を狙う。
さらに。
「風よ!」
アルナの矢が上空から降り注ぎ、魔王の退路を塞ぐ。
「錬成拘束!」
メグの黄金色の錬成陣が床へ展開され、魔王の足元から鎖が伸びた。
「そこだ!」
青真。
銀河七刀。
同時突撃。
百華繚乱。
真武解放。
完成された連携だった。
「……。」
魔王は静かに五人を見回す。
直後。
魔王は初めて大きく後退した。
「押した!」
アルナが声を上げる。
カレンも追撃へ移る。
「畳み掛ける!」
剣が閃く。
闇風の短剣が肩を掠める。
銀河七刀が全方向から迫る。
魔王は転移。
しかし。
「読んだ!」
青真の未来予知。
着地点へ銀河が待ち構える。
ガギィィィン!!
魔王は受け止めた。
「良い。」
「実に良い。」
その赤い瞳が細くなる。
「だが。」
「少々速さが足りんな。」
魔王は静かに右手を胸へ当てた。
黒紫色の魔力が鼓動と共に脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
「……?」
メグが違和感を覚える。
「魔力の流れが変わった?」
魔王はゆっくりと目を閉じる。
「時とは万物へ等しく流れるもの。」
「ならば。」
「その流れを書き換えればいい。」
赤い瞳が開かれた。
「《時間加速》。」
「消えた!?」
アルナが叫ぶ。
「違う!」
青真の未来予知だけは、その動きを捉えていた。
(右。)
(いや。)
(左!?)
(速い!)
未来は見えている。
だが。
身体が反応できない。
ドゴォッ!!
魔王の拳がカレンの腹部へ突き刺さる。
「がっ!」
カレンは吹き飛ばされる寸前で体勢を立て直し、床を滑りながら踏み止まった。
「カレン!」
青真が駆け寄る。
その背後。
既に魔王は立っていた。
「青真!」
闇風が叫ぶ。
ギィィィィン!!
闇風が割り込み、双短剣で魔王の蹴りを受け止める。
凄まじい衝撃。
「ぐっ!」
闇風も数メートル押し込まれる。
「何だこの速度……!」
アルナの矢。
空振り。
メグの錬成。
間に合わない。
青真の未来予知。
見えている。
それなのに。
避けられない。
青真は歯を食いしばった。
「未来は見えてる……!」
「なのに!」
「追いつけない!」
未来予知には映っている。
魔王が右へ踏み込み。
闇風を蹴り飛ばし。
次にカレンを狙う。
全て見えている。
だが。
身体が動く頃には、魔王は既にそこへ到達していた。
「くっ!」
カレンが剣で受ける。
ギィィィィィン!!
真武解放した腕ですら痺れるほどの衝撃。
「速すぎる……!」
「いや。」
青真は首を振る。
「違う。」
銀河を構えながら魔王だけを見続ける。
未来。
現在。
未来。
現在。
その僅かな違和感を脳内で繋ぎ合わせる。
「……そういうことか。」
魔王が笑う。
「気付いたか。」
「攻略者。」
青真はゆっくりと銀河を構え直した。
「お前。」
「速くなったんじゃない。」
「自分の時間を加速させてるな。」
玉座の間が静まり返る。
アルナが驚いたように青真を見る。
「時間を……?」
メグも解析を続ける。
そして。
「そうよ!」
「身体能力が上がってるんじゃない!」
「魔王自身の時間だけが異常に進んでる!」
闇風が舌打ちする。
「だから俺達から見れば瞬間移動に見えるのか。」
魔王は満足そうに頷いた。
「その通り。」
「《時間加速》。」
「時間を加速させる時空魔法だ。」
青真は眉をひそめる。
「そんな便利な能力。」
「ノーリスクじゃないだろ。」
魔王は静かに笑う。
「当然だ。」
「我は己の時間を前借りしている。」
「加速の倍率に比例して寿命も削れていく。」
アルナが目を見開く。
「寿命!?」
メグも息を呑んだ。
「つまり……。」
「身体そのものを老化させながら戦ってるってこと……?」
「そうだ。」
魔王は淡々と答える。
「だが。」
「貴様らを滅ぼせるなら。」
「安い代償だ。」
その言葉に青真の口元が僅かに上がる。
「なるほど。」
「攻略法が見えた。」
魔王の眉が僅かに動く。
「ほう?」
「寿命を削るってことは。」
「長引けば長引くほど。」
「お前が不利になる。」
闇風もニヤリと笑う。
「持久戦か。」
カレンは剣を握り直す。
「だったら。」
「耐え切ればいい。」
アルナも矢を番える。
「簡単じゃないけどね!」
メグは錬成陣を展開し直す。
「青真!」
「任せる!」
青真は銀河を肩へ担ぎ、不敵に笑った。
「攻略対象が分かったなら。」
「あとは攻略するだけだ。」
魔王は静かに目を閉じる。
「面白い。」
「実に面白い。」
黒紫色の魔力が再び全身を包む。
「ならば。」
「倍率を上げよう。」
ドクン。
鼓動が一際大きく鳴り響く。
空気が震える。
床石が軋む。
魔王の姿が、再び掻き消えた。
「来るぞ!」
青真が叫ぶ。
百華繚乱はそれぞれ武器を構え直し、さらに加速した魔神へ真正面から立ち向かった。
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