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第139話:第二ラウンド

銀河と《終焉ラグナロク》が激しくぶつかり合う。

火花が散り、衝撃が玉座の間全体を震わせた。


現在のラグナロクは大剣形態。


その一撃一撃は山を断ち割るほどの威力を持ち、真正面から受け止められる者など存在しない。


「右!」

青真の声が飛ぶ。

闇風が一歩右へ飛ぶ。

直後。


ズォン!!


大剣が振り下ろされ、先程まで闇風が立っていた床が真っ二つに割れた。


「今!」

今度はカレンが踏み込む。

鋭い三連撃。


しかし魔王は大剣を半回転させるだけで全て受け流す。


「重い……!」

カレンはそのまま距離を取った。


アルナは間髪入れず矢を放つ。

風を纏った連射。


だが。

魔王は剣圧だけで矢を叩き落とす。


「射撃も通らない!」

アルナが歯を食いしばる。

「メグ!」


「任せて!」

黄金色の錬成陣が展開される。


氷槍。

雷撃。

爆炎。


三属性の魔法が同時に魔王へ襲い掛かった。

しかし魔王はラグナロクを横へ薙ぐ。

黒い衝撃波。

魔法が全て霧散した。


「やっぱり!」


青真は魔王だけを見据える。


(攻撃じゃない。)

(見ろ。)

(武器を。)


終焉(ラグナロク)》が再び黒紫色の魔力を放つ。


「来る!」

青真が叫ぶ。


大剣が崩れる。

刃が縮み。

柄が変形し。

次の瞬間。

二本の黒剣へ変貌した。


「双剣!」

闇風が叫ぶ。


魔王はそのまま一瞬で間合いを詰めた。

速い。

先程までとは別人の速度だった。


「カレン!」


「はい!」

双剣と剣が激突する。


凄まじい剣戟。

一秒間に十を超える斬撃。


「くっ……!」

カレンが押される。


「まだ!」

闇風が背後へ回る。

毒影の短剣。

死角からの奇襲。


しかし魔王は左手の剣だけで受け止めた。

「遅い。」


「っ!」

闇風は即座に離脱する。


「アルナ!」

「もう撃ってる!」

風を纏った矢が魔王へ迫る。


魔王は双剣を交差。

二本同時に振るう。

放たれた剣圧だけで矢が砕け散った。


「全部防ぐの!?」

アルナが驚く。


青真はその様子を静かに見つめていた。


(違う。)

(防いでるんじゃない。)

(全部。)

(最短で処理してる。)


銀河を七本へ分離。

四方八方から飛ばす。

魔王は双剣を僅かに動かしただけだった。


カキン。

ガキィン。

ギィィン。


七本全て。

無駄なく弾き返される。


「なるほど。」

青真が小さく笑う。


闇風が横へ並ぶ。

「何か分かったか。」


「分かった。」

青真は即答する。


「《終焉(ラグナロク)》は。」

「武器が変わるんじゃない。」

「戦闘スタイルそのものが変わる。」


カレンも頷いた。


「槍は制圧。」

「鎖鎌は中距離。」

「大剣は殲滅。」

「双剣は近接特化。」

「全部役割が違います。」

「そう。」


青真は笑う。


「つまり。」

「武器を攻略するんじゃない。」

「スタイルを攻略する。」


その瞬間。


双剣が再び黒い魔力へ包まれ始めた。


「また変形!」

アルナが叫ぶ。


青真は静かに銀河を構える。

「いいぞ。」


「もっと見せろ。」

「お前の攻略法。」

「全部暴いてやる。」


魔王は初めて僅かに笑った。

「攻略者。」

「その名に偽りはないようだ。」

黒紫色の魔力が再び広間を満たしていく――。


ラグナロクは盾剣形態のまま百華繚乱を押し返していた。

剣で攻めれば盾が受け止める。

盾を崩そうとすれば剣が迎撃する。

攻防が完全に一体化した戦闘スタイル。


「このままじゃ押し切られる!」

アルナが叫ぶ。


カレンも息を整えながら頷いた。

「変形の隙は見えています。」

「ですが、切り替わる前に届きません。」


闇風が短剣を握り直す。

「一瞬だけ止まる。」

「だが、その一瞬が短すぎる。」


メグも魔導之杖を構えたまま苦い表情を浮かべる。

「青真。」

「何か手は?」


青真は魔王を見つめたまま、小さく息を吐いた。


「……ある。」

そして静かに呟く。


「《数秒先の真実(プリセカンドトゥルース)》。」


次の瞬間。


青真の視界には常に四秒先の未来が映り始めた。

ラグナロクの変形。

魔王の踏み込み。

仲間達の動き。

全てが四秒先まで鮮明に見える。


「闇風、右へ二歩。」

「アルナ、左柱へ。」

「メグ、その魔法は撃つな。」

「カレン、三秒後に踏み込め。」


四人は反射的に動く。

直後。

魔王の斬撃が今までいた場所を薙ぎ払った。


「なっ……!」

魔王の表情が初めて変わる。


青真は止まらない。

「闇風、今!」

毒影の短剣が盾の縁へ突き刺さる。


「カレン!」


「はい!」

カレンの斬撃が同じ箇所へ叩き込まれる。


「アルナ!」

風を纏った矢が魔王の足元を制圧。


「メグ、正面!」

黄金色の魔法陣から放たれた氷槍が盾を弾き上げた。


その隙へ。

青真が飛び込む。

銀河を七振りへ分離。


四秒先の未来通りに、七方向から同時攻撃を叩き込んだ。


ガガガガガッ!!

ラグナロクの防御が崩れる。


魔王が初めて一歩後退した。


「押した……!」


アルナが目を見開く。


「まだ!」


青真の指示は止まらない。


「次は鎖形態!」

魔王が変形する前に叫ぶ。

本当にラグナロクが鎖鎌へ変わる。


「その次は大剣!」

変形。


「大剣の後は双剣!」

変形。


全て当たる。

魔王の瞳が鋭く細められた。


「まさか、未来視……。」


「攻略してるだけだ。」

青真は笑う。


だが、その鼻から赤い血が流れ落ちた。


「青真!」

カレンが叫ぶ。


「気にするな!」

青真は鼻血を拭いながら銀河を振るう。


「どうしたよ魔王さんよぉ!」

「もっと頑張らないと負けちまうぜぇ!!」


メグが額へ手を当てた。

「とうとうぶっ壊れたか。」


アルナも引いた顔をする。

「なんかテンションおかしくない!?」


カレンは心配そうに叫ぶ。

「脳に負荷が行き過ぎじゃないですか?」


それでも青真は笑っていた。


視界は赤い。

頭痛も酷い。

だが、四秒先の未来だけは異様なほど鮮明だった。


魔王が歯を食いしばる。

「グッ……。」

「黙れえええええええ!!」

魔王の怒号が玉座の間を震わせた。

ドゴォォォォン!!

凄まじい魔力が爆発し、百華繚乱は思わず身構える。


壁へ突き刺さっていた《終焉ラグナロク》が激しく震え始めた。

黒紫色の魔力が刀身から噴き出し、広間全体を飲み込んでいく。

「何だ……!?」

アルナが目を見開く。


ラグナロクはゆっくりと崩壊を始めた。

槍。

双剣。

鎖鎌。

盾剣。

大剣。

今まで見せてきた全ての形態が一瞬ずつ浮かび上がり、最後には無数の黒い粒子へ変わる。


その粒子は一直線に魔王へ吸い込まれていった。

「吸収してる……!」

メグが息を呑む。

闇風も表情を険しくする。

「武器を捨てたんじゃない。」

「取り込んだ。」

魔王の全身へ黒紫色の紋様が浮かび始める。


腕。

胸。

首。

顔。

全身へ禍々しい紋章が刻まれていく。

ゴゴゴゴゴ……

空間そのものが軋んだ。

魔王城全体が大きく揺れる。

天井には黒い亀裂。

床石はひび割れ。

周囲へ濃密な魔力が吹き荒れる。


「魔力密度が……。」

カレンが思わず息を詰めた。

「さっきまでとは桁が違います。」


角が伸びる。

瞳が黄金色から深紅へ変わる。

背中から黒い魔力の翼が広がり、周囲の空気が悲鳴を上げるように震え続けた。

やがて魔王はゆっくりと顔を上げる。

その姿は、もはや人ではなかった。


「これが。」

低く響く声。

「《覚醒術・『魔神(アビス)』》。」

静寂。


百華繚乱は誰一人として言葉を発せなかった。

ただ一人を除いて。


青真だけが。

鼻血を拭きながら満面の笑みを浮かべていた。

「はっ……。」

「はっはっはっ!」

思わず笑い声が漏れる。

「第二形態か!」

銀河を肩へ担ぎながら興奮したように叫ぶ。


「ゲームで散々見てきたが!実際に体験すると興奮するな!」


アルナは思わず振り返る。

「なんかさっきから青真キャラ違くない?」


メグは呆れたように肩を竦めた。

「未来予知の反動とテンプレ強敵にテンション上がっちゃってるんでしょ。」


闇風は苦笑する。

「攻略厨だからな。」

「ボスが強くなるほど楽しそうだ。」


カレンも小さく笑う。

「らしいと言えば、らしいですね。」


魔王は静かに青真を見つめる。

その笑みには怒りすらなかった。

「恐怖しないか。」

「我を見ても。」


青真は即答する。

「するわけない。」

「第二形態なんて。」

「攻略対象が増えただけだ。」

その言葉に、魔王は初めて声を上げて笑った。


「ククク……。」

「ハハハハハ!」

「面白い。」

「実に面白い。」

魔神の魔力がさらに膨れ上がる。

「ならば。」


魔王は静かに両腕を広げる。

「第二幕を始めよう。」

黒紫色の魔力が玉座の間を埋め尽くす。

百華繚乱は武器を構えた。


青真は一歩前へ出る。

鼻についた血を親指で拭う。

そして。

不敵に笑った。

「第二形態上等だよ!」

銀河を肩へ担ぐ。

「楽勝で攻略してやるよ!」


その瞬間。

青真の全身から蒼白い魔力が噴き上がる。

銀河が強く共鳴し青白い光を放った。

同時に。

闇風。

メグ。

カレン。

アルナ。


四人の身体からも、それぞれ異なる色の魔力が溢れ出しそれぞれの武器が大型化し、より最適な形へ変形していく。

魔王は目を見開いた。

「……!」


「「「「「真武解放!」」」」」

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