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第136話:終焉の扉

眩い光が闘技場を包み込む。

アスモードとの決着を終えた青真は、一瞬身体が浮き上がるような感覚に襲われた。

次の瞬間。


視界が晴れる。

そこは、魔王親衛隊と対峙した円形広間だった。

「戻ってきたか……。」


青真は静かに銀河を鞘へ納め、周囲を見渡す。

広間には誰もいない。

いや。

数秒後、次々と淡い光が現れ始めた。

「青真!」


最初に姿を現したのはアルナだった。


魔弓を抱えたまま、青真の姿を見つけると安堵したように駆け寄る。

「無事だったのね!」

「そっちもな。」


青真は小さく笑う。

その直後、別の場所へ光が灯る。

「終わった。」


闇風が静かに着地する。

黒衣は所々裂け、肩には戦闘の跡が残っていた。

それでも、その表情は普段と変わらない。

さらに光が弾ける。


「ふぅ……。」

メグがその場へ膝をついた。

魔導之杖を支えにしながら深く息を吐く。

魔力の消耗は激しい。


それでも笑顔だった。

「術式、全部壊してきたよ。」

「流石。」


青真は親指を立てる。

最後に広間へ現れたのはカレンだった。

剣を肩へ担ぎながらゆっくり歩いてくる。

鎧には無数の傷。


しかしその歩みは少しも揺らいでいない。


「お待たせしました。」

「いや全然。」

青真は安心したように笑う。


五人。

誰一人欠けることなく再び集結した。


「全員無事か。」

「はい。」

「もちろん。」

「何とかね。」

「問題ない。」


それぞれの返事を聞き、青真はようやく肩の力を抜いた。


「良かった。」

短い一言。


その言葉には、今までの戦い全てが込められていた。


しばらく誰も喋らない。

静寂だけが広間を包む。

やがて。


カラン……


乾いた音が響いた。

全員が音の方を見る。

そこにはアスモードが最後まで握っていた黒剣が落ちていた。


しかし。


剣はゆっくりと黒い粒子へ変わり始める。

「消える……。」

アルナが呟く。

黒剣だけではない。


広間の各所に残されていた親衛隊達の武器や鎧も、同じように粒子となって崩れていく。

そして。


その粒子は一つ残らず、広間最奥へ吸い込まれていった。

「何だ?」

闇風が目を細める。

粒子が集まる先。


そこには、高さ十メートルを超える巨大な黒い扉がそびえ立っていた。

今まで閉ざされていたその扉が、黒い粒子を吸収した瞬間――


ゴゴゴゴゴ……

重々しい地響きが響く。

城全体が震え始めた。

「封印が……。」


メグが静かに呟く。

「解けていく。」

黒い扉には複雑な魔法陣が刻まれていた。

しかし、その紋様が一つ、また一つと消えていく。


「親衛隊そのものが。」

「最後の封印だったんだ。」

広間へ重苦しい空気が流れる。

誰もが理解した。

この扉の向こう。

そこに――魔王がいる。


青真はゆっくりと扉へ歩き出した。

銀河を握り直し、巨大な黒い扉の前へ立つ。


圧倒的な魔力。


扉越しですら肌が粟立つ。

それでも青真は一切怯まなかった。

静かに右手を扉へ添える。

「行くか。」

その一言と共に、ゆっくりと力を込めた。


ゴゴゴゴゴ……

重厚な音を響かせながら、巨大な黒い扉がゆっくりと開いていく。

わずか数十センチ。


それだけ開いただけで、濃密な魔力が一気に流れ出した。


「っ……!」

アルナが思わず息を呑む。

カレンも無意識に剣の柄を握り締めた。

「これほどの魔力……。」

闇風は静かに目を細める。

「親衛隊とは比較にならない。」

メグも小さく頷いた。

「城全体の魔力が、全部この先へ集まってる。」

「魔王一人の魔力……。」


青真は開いた隙間から中を覗き込む。


暗い玉座の間。

広大な空間。

その最奥、高く築かれた玉座だけが薄暗い光に照らされていた。


誰も不用意に一歩を踏み出せない。

数秒の沈黙。

青真はゆっくりと扉から手を離した。

ゴゴゴ……

再び重い音を立て、黒い扉は閉じていく。

完全に閉じられると、張り詰めていた空気も少しだけ和らいだ。


アルナが青真を見る。

「入らないの?」

「今日はな。」

青真は壁へ背中を預ける。

「親衛隊との戦いで全員消耗してる。」


「万全じゃない状態でラスボスに挑むほど、俺は馬鹿じゃない。」

闇風も頷く。

「正しい判断だ。」

「今なら全員動けます。」

カレンがそう言うと、青真は首を横に振った。

「動けるのと、勝てるのは違う。」


「ラスボス戦は。」

「準備が九割だからな。」


メグが苦笑する。

「青真らしいね。」

「攻略厨ですから。」


カレンも小さく笑った。

青真は銀河を見つめる。

ここまで戦い抜いてきた相棒。


親衛隊隊長アスモードとの激闘を経て、その刀身はなお静かに輝いていた。


闇風は腕を組みながら口を開く。

「魔王も攻略対象か。」

「当たり前。」

青真は不敵に笑った。


「ラスボスだからって特別扱いはしない。」

「ちゃんと攻略する。」


その言葉に、メグは何かを察したような表情になる。

「……ねえ。」

「また嫌なこと考えてない?」


青真はニヤリと笑う。


「どうせやるなら。」

少し間を置き。

とても楽しそうな顔で言った。

「討伐RTAにするか。」


一瞬。


全員の思考が止まる。


「……はあ?」

真っ先に声を上げたのはメグだった。

「RTA?」


アルナが首を傾げる。

「何それ?」


カレンも困惑した表情を浮かべる。

「聞いたことがありません。」


闇風だけは深くため息をついた。

「嫌な予感しかしない。」


青真は肩へ銀河を担ぎ、満面の笑みを浮かべる。

「任せろ。」


「最短。」

「最速。」

「最高効率。」

「魔王なんて、一気に攻略してやる。」


巨大な黒い扉は静かに佇んだまま、五人の決意を見届けていた。

そして、その向こうでは――

世界最強の魔王が、静かに来訪者を待ち受けていた。


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