第135話:攻略開始
ギィィンッ!!
銀河と漆黒の長剣が激しくぶつかり合う。
金属音が闘技場へ響き渡り、衝撃で石畳が砕け散った。
「遅い。」
アスモードは一歩踏み込む。
そのまま流れるような連撃。
未来予知を封じられた青真は辛うじて銀河で受け止めるが、防ぎ切れない。
ザシュッ。
浅く脇腹を裂かれ、鮮血が飛び散った。
「くっ……!」
距離を取ろうとする。
しかしアスモードは逃がさない。
「未来を見る力を失えば、その程度か。」
再び剣戟。
重い。
速い。
そして無駄がない。
まるで何百、何千という実戦を積み重ねてきた完成形の剣だった。
「……。」
青真は小さく息を吐く。
(攻略開始。)
その一言だけを心の中で呟く。
次の瞬間。
「《属性付与魔力弾》!」
氷属性が付与された四発の光弾が放たれる。
真正面。
右。
左。
そして頭上。
あえて角度をばらけさせた。
アスモードは眉一つ動かさない。
黒剣が閃く。
一閃。
二閃。
三閃。
四閃。
全て正確に斬り落とした。
「直線的。」
「工夫は認める。」
「だが浅い。」
光弾が霧散する。
青真は攻めない。
ただその剣筋だけを見つめていた。
(真正面は最短で迎撃。)
(右は切り上げ。)
(左は返し斬り。)
(上段だけ半拍遅い。)
(……一つ。)
(取れた。)
アスモードが一気に間合いを詰める。
青真も銀河へ魔力を流した。
「分離。」
銀河が二振りへ分かれる。
一振りは正面。
もう一振りは背後から斬り掛かった。
普通なら挟撃。
しかし。
「甘い。」
アスモードは振り返りもしない。
黒剣だけを僅かに返す。
背後の銀河を弾く。
その直後、正面の銀河も受け流した。
「二方向程度。」
「脅威ではない。」
青真は静かに頷く。
(本体を優先。)
(分離した銀河は後処理。)
(反応順も確認。)
再び距離を取る。
「今度は何を見る。」
アスモードが静かに笑った。
「俺を。」
「攻略する気か。」
青真も笑う。
「そう。」
「ゲーマーだからな。」
「攻略法を探す。」
その言葉に、アスモードの口元が僅かに歪む。
「面白い。」
「ならば。」
「最後まで攻略できるか試してみろ。」
黒い魔力が刀身を包む。
一瞬で間合いを潰す踏み込み。
青真は銀河へ淡い蒼色の魔力を纏わせた。
「氷属性付与。」
剣を地面へ滑らせる。
氷が一直線に広がり、アスモードの足元を覆った。
「無駄だ。」
アスモードは踏み込む。
その瞬間だけ。
僅かに重心が浮いた。
ほんの一瞬。
達人同士でなければ気付けないほど小さな乱れ。
だが。
青真は見逃さなかった。
(……見えた。)
(氷を嫌った。)
(踏み込みの瞬間だけ。)
(左足へ体重が乗る。)
銀河で受ける。
さらに剣を合わせる。
ガキィィン!!
火花が散る。
互いの距離は僅か数十センチ。
青真は剣越しにアスモードの身体全体を見ていた。
肩。
腰。
呼吸。
足運び。
指先。
全てを焼き付けるように観察する。
「どうした。」
「攻めて来ないのか。」
アスモードが低く問う。
青真は静かに笑った。
「攻めてるさ。」
「今は。」
「お前の攻略中だからな。」
その言葉に、アスモードの黄金色の瞳が初めて僅かに細められた。
「攻略中、か。」
アスモードは静かに剣を構え直す。
「未来視を失いながら、まだ勝てると思っているのか。」
「思ってる。」
青真は銀河を握り直した。
「未来予知は封じられた。」
「でも、俺自身は封じられてない。」
「だったら攻略できる。
アスモードは鼻で笑う。
「戯言だ。」
黒剣が唸る。
神速の踏み込み。
ガギィィン!!
銀河が受け止める。
重い。
だが青真はもう押されない。
(やっぱり。)
(五撃目で踏み込みが深くなる。)
(六撃目は必ず右へ流す。)
再び剣戟。
ガキィン!!
「《魔力弾》!」
至近距離。
三発の光弾が放たれる。
アスモードは一歩も動かない。
黒剣だけで全て叩き斬る。
しかし。
青真はその剣先だけを見ていた。
(魔法は全部。)
(剣で処理する。)
(絶対に避けない。)
「分離。」
銀河が三振りへ分かれる。
左右。
正面。
同時攻撃。
アスモードは中央を見据えたまま右を弾き、左を受け流し、最後に本体を止める。
(やっぱり。)
(優先順位も同じ。)
(処理順も変わらない。)
青真は静かに後退する。
「氷属性付与。」
蒼い魔力が銀河を包む。
剣を振るう。
氷の斬撃が地面を走り、足元を一瞬だけ凍らせた。
アスモードは迷わず跳ぶ。
着地。
左足。
踏み込み。
「……そこか。」
青真が小さく笑う。
アスモードが眉をひそめた。
「何がおかしい。」
「全部見えた。」
「お前。」
「癖が多い。」
「何。」
「魔法は剣で斬る。」
「分離した銀河は本体より後回し。」
「氷属性は跳んで回避。」
「そして。」
青真は銀河を正眼へ構える。
「左足を軸に踏み込む。」
「五撃目だけ重心が前へ流れる。」
アスモードの表情が変わる。
「……。」
「攻略完了。」
その瞬間だった。
淡い光が青真を包む。
《特技封縛》が解除される。
未来予知が戻る。
数秒先の未来が脳裏へ流れ込む。
しかし。
青真は未来予知をすぐ解除した。
「使わないのか。」
アスモードが問う。
青真は笑う。
「もう必要ない。」
「お前は。」
「もう攻略済みだから。」
「ならば証明してみせろ!」
アスモードが最大奥義を放つ。
漆黒の魔力が剣へ集中する。
「魔剣奥義――黒皇一閃!」
凄まじい斬撃。
空間そのものを断ち切る一撃だった。
青真は正面から踏み込む。
(ここだ。)
攻略した通り。
五撃目。
左足。
重心。
その僅かな崩れ。
銀河が閃く。
「氷河斬!」
蒼白い一閃が黒皇一閃を真正面から切り裂いた。
ズバァァァァッ!!
静寂。
アスモードの鎧へ大きな斬撃が刻まれる。
黒剣が音を立てて地面へ落ちた。
「……見事。」
アスモードは静かに膝をつく。
「未来を失ってなお。」
「我を攻略するとは。」
青真は銀河を鞘へ納めた。
「ボス攻略なんて。」
「最初の数分が勝負だからな。」
アスモードは僅かに笑う。
「そうか。」
「ならば。」
「魔王様も。」
「攻略してみせろ。」
その言葉を最後に、魔王親衛隊隊長アスモードの身体は黒い粒子となり、静かに消えていった。
同時に闘技場を覆っていた結界が崩壊する。
眩い光が青真を包み込んだ。
戦いは終わった。
百華繚乱最後の一騎打ちは、青真の勝利で幕を閉じた。
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