第125話:暗黒騎士
魔王城へ続く黒い大地。
百華繚乱の前へ、一人の男が静かに立っていた。
全身を覆う漆黒の鎧。
右手には巨大な黒剣。
その姿は騎士そのものだった。
男はゆっくりと黒剣を抜く。
刀身へ黒い魔力が流れ込み、不気味な輝きを放つ。
周囲の空気までもが重く沈み、地面が軋む音だけが響いた。
「魔王軍幹部。」
男は淡々と口を開く。
「暗黒騎士――ゼクト。」
「ここから先へは、一歩たりとも進ませない。」
青真は銀河を静かに構える。
未来予知を発動しながら、ゼクトの全身を観察した。
魔力は神獣にも匹敵する。
だが、それ以上に異様だったのは、隙が全く見当たらないことだった。
「魔法は使わないタイプか。」
青真が小さく呟く。
ゼクトは黒剣を肩へ担ぎ、静かに答える。
「魔法は撃つものではない。」
「纏うものだ。」
その瞬間、黒剣から闇色の魔力が噴き上がる。
「魔法付与――闇。」
刀身が黒炎を纏い、禍々しい気配がさらに膨れ上がった。
「私が前へ出ます。」
カレンが一歩前へ出る。
盾を構え、ゼクトの真正面へ立った。
後ろではアルナが弓を構え、メグは錬金術の準備を始める。
闇風は既に姿を消し、死角へ回り込んでいた。
「お願いします。」
青真は短く答える。
「俺が援護する。」
ゼクトはゆっくりと歩き出す。
焦る様子はない。
まるで勝利を確信しているようだった。
「来ます!」
カレンが盾を構える。
次の瞬間。
ドンッ!!
ゼクトの姿が一瞬で消えた。
「速っ!」
青真の未来予知がなければ、視認すらできない速度だった。
黒剣が真横から振り抜かれる。
ガァァン!!
玄盾武の盾と黒剣が激突する。
凄まじい衝撃が周囲へ広がり、カレンの足元の地面が大きく陥没した。
「ぐっ……!」
カレンは盾で受け切った。
しかし、その身体は数メートル後方まで押し込まれる。
「重い……!」
ゼクトは表情一つ変えない。
「魔法付与――重力。」
黒剣へ新たな魔力が宿る。
再び振り下ろされた一撃は、先程とは比較にならない重量だった。
ガァァァン!!
カレンは再び受け止める。
盾は耐えた。
だが膝が沈む。
「まだ……!」
歯を食いしばりながら踏み止まる。
その姿を見た青真は銀河を握り締めた。
「マナショット!」
圧縮した光弾が一直線にゼクトへ飛ぶ。
しかし。
ゼクトは黒剣を軽く振るっただけだった。
ズバッ。
光弾は真っ二つに斬り裂かれ、そのまま消滅する。
「何……!?」
青真の表情が変わる。
魔法を斬った。
そんな芸当は今まで一度も見たことがなかった。
カレンは玄盾武の盾を構え直し、再びゼクトの前へ立つ。
肩で息をしながらも、その瞳から闘志は消えていなかった。
ゼクトは静かに黒剣を構え、僅かに頷く。
「良い盾だ。」
次の瞬間、ゼクトの姿が再び消えた。
「魔法付与――加速。」
未来予知が反応した時には、既に黒剣はカレンの目前まで迫っていた。
玄盾武で受け止めるが、その衝撃で地面を大きく滑っていく。
「カレンさん!」
アルナが風を纏った矢を三本同時に放つ。
ゼクトは振り返ることなく黒剣を一閃。
三本の矢は空中で真っ二つとなり、そのまま地面へ突き刺さった。
「援護も悪くない。」
「ならこれは!」
メグが魔導之杖を掲げる。
地面から無数の鋼鎖が飛び出し、ゼクトの両足へ絡み付く。
同時に闇風が死角から飛び込み、毒影の短剣を首元へ走らせた。
しかし黒剣が振り返りざまに短剣を受け止め、闇風は大きく後方へ跳ぶ。
「見えていたか。」
闇風が小さく舌打ちする。
ゼクトは鋼鎖を力任せに引き千切り、静かに構え直した。
「連携は見事だ。」
「だが、まだ甘い。」
その言葉を聞いた青真は銀河を強く握り締める。
未来予知の映像が高速で流れていく。
何十通りもの未来。
しかし、そのほとんどでカレンが押し切られていた。
「違う……。」
「もっと先だ。」
未来をさらに追う。
その時、一つだけ映像が止まった。
ゼクトが連続で魔法付与を行う、その一瞬。
黒剣から魔力が離れ、防御が僅かに遅れる未来だった。
青真の口元が僅かに上がる。
「見つけた。」
「カレン!」
「次の一撃を受け切ってくれ!」
カレンは力強く頷く。
「任せてください!」
ゼクトが黒剣を構える。
「魔法付与――重力。」
漆黒の刃が禍々しく輝き、凄まじい一撃が振り下ろされた。
盾が軋み、カレンの膝が地面へ沈む。
それでも一歩も退かなかった。
「今だ!」
青真が銀河を突き出す。
「氷獄牢!」
巨大な氷柱が地面から噴き上がり、ゼクトの動きを一瞬だけ封じる。
その隙へメグの錬金術が発動し、足元の岩盤が爆ぜる。
アルナの矢が肩を掠め、闇風の黒雷閃が背後から走る。
百華繚乱の攻撃が一斉に重なった。
「銀河!」
青真が蒼く輝く剣を振り抜く。
氷を纏った斬撃が一直線に走り、ゼクトの胸当てを深く斬り裂いた。
金属が砕ける音が響き、黒い鎧へ初めて大きな傷が刻まれる。
ゼクトは数歩後退し、その傷口へ静かに手を添えた。
「……なるほど。」
「ここまで届くとは思わなかった。」
初めてその口元に、小さな笑みが浮かぶ。
「貴様達は確かに強い。」
「ならば次は、私も全力で応えよう。」
黒剣から噴き上がる闇の魔力が一段と膨れ上がる。
戦場の空気はさらに重く沈み、黒い稲妻が大地を走った。
青真は銀河を握り直し、小さく息を吐く。
「ここからが本番だ。」
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