第122話:魔大陸
王都上空。
数十隻もの巨大飛空艇が整然と隊列を組み、魔大陸へ向かって飛行していた。
眼下には雲海が広がり、その先には赤黒い大地がゆっくりと姿を現していく。
人類史上最大の反撃が、いよいよ始まろうとしていた。
青真は飛空艇の甲板から前方を見つめる。
黒く荒れ果てた大地。
空を覆う禍々しい赤雲。
そして遥か彼方には、巨大な魔王城が静かにそびえ立っていた。
「……見えてきたな。」
青真が小さく呟く。
その言葉に四人も前方へ視線を向ける。
誰一人として緊張した様子はなかった。
「魔力が濃いね。」
メグが静かに周囲を探る。
「王都の十倍以上ある。」
「普通の冒険者なら、この場所へ立つだけで消耗すると思う。」
アルナは苦笑した。
「歓迎されてないのだけは伝わってくるわね。」
「でも、だからこそ面白いじゃない。」
闇風は短く息を吐いた。
「問題ない。」
「この程度なら支障はない。」
「敵地としては当然の環境だ。」
その言葉にカレンも静かに頷く。
やがて飛空艇がゆっくりと高度を下げ始めた。
王立騎士団の飛空艇。
冒険者連合の飛空艇。
十二英傑専用飛空艇。
三つの部隊がほぼ同時に魔大陸へ降り立つ。
「全軍、上陸!」
王立騎士団長の号令が戦場へ響く。
騎士達が一斉に展開し、冒険者連合もそれに続く。
十二英傑も静かに武器を構えた。
ギルドマスターは全軍を見渡し、大きく頷く。
「予定通り橋頭堡を確保する。」
「各部隊、前進!」
「魔王軍へ人類の力を示せ!」
そして。
最後まで動かなかった十二人が、静かに飛空艇の縁へ歩み出る。
剣聖。
炎皇。
水帝。
そして青真達を含む、十二英傑。
互いに言葉はない。
ただ一度だけ視線を交わし――
ドンッ!!
十二人が同時に飛空艇を蹴った。
十二の影が大空を駆け抜ける。
流星のような軌跡を描きながら、一気に魔大陸へ降下していく。
落下する十二人の視界へ、五人の魔族が映る。
第一軍団隊長。
第二軍団隊長。
第三軍団隊長。
第四軍団隊長。
第五軍団隊長。
魔王軍五個軍団を率いる隊長達が、人類軍の前へ立ちはだかっていた。
「俺がやる。」
炎皇が前へ出ようとした、その瞬間。
「待ってください!」
落下しながら、青真が声を上げる。
剣聖が横目で青真を見る。
「何だ。」
青真は真っ直ぐ前を見据えたまま口を開いた。
「この戦い。」
「俺達に任せてください。」
「あなたは、まだ俺達を認めていない。」
「だったら、この戦場で証明します。」
短い沈黙が流れる。
やがてギルドマスターが静かに頷いた。
「許可する。」
「見せてもらおう。」
「お前達、十二英傑の力を。」
炎皇は豪快に笑う。
「はっはっは!」
「思い切り暴れてこい!」
その直後。
ドォンッ!!
十二英傑が同時に魔大陸へ着地した。
大地が震え、砂煙が高く舞い上がる。
その中から、百華繚乱の五人だけが一歩前へ踏み出した。
砂煙が晴れる。
百華繚乱の五人は、そのまま魔王軍隊長達の前へ歩み出た。
第一軍団隊長が大剣を肩へ担ぐ。
「ガキ共が。」
「俺達を相手にするつもりか。」
青真は銀河を静かに抜いた。
「十分だ。」
その言葉と同時に。
「行くぞ!」
青真が地面を蹴る。
未来予知が発動する。
五人の隊長全員の動きが、数秒先まで脳裏へ映し出された。
「右から二人!」
「闇風!」
「任せろ。」
黒い影が一瞬で消える。
次の瞬間には、第三軍団隊長の背後へ回り込んでいた。
「なっ──!」
隊長が振り返るより早く、短剣が鎧の隙間へ突き刺さる。
衝撃で隊長は大きく吹き飛ばされた。
その横では。
「はぁっ!」
カレンが真正面から第一軍団隊長へ踏み込む。
振り下ろされた大剣を盾で受け止め、そのまま剣を一閃。
鋼鉄の鎧へ深い斬撃が刻まれる。
「馬鹿な!」
「押し返しただと!」
アルナは大きく弓を引き絞る。
「風よ!」
風の大精霊の力が矢へ宿る。
放たれた矢は暴風となり、二人の隊長をまとめて吹き飛ばした。
体勢を崩した隊長達は、そのまま地面を何度も転がる。
メグは静かに魔導之杖を掲げた。
「錬成。」
幾つもの魔法陣が地面へ展開される。
次の瞬間。
岩壁が隊長達の退路を塞ぎ、足元から鋼の鎖が飛び出した。
「しまっ──!」
四人目の隊長が拘束される。
その隙を逃さず。
「マナショット。」
青真が放った無属性魔法が隊長の胸へ直撃した。
轟音。
隊長は鎧ごと吹き飛び、岩壁へ叩き付けられる。
戦闘開始から、まだ一分も経っていなかった。
五人の隊長達は全員膝をついている。
誰一人、百華繚乱へ有効打を与えられていなかった。
人類軍から歓声が上がる。
「すごい……!」
「あれが十二英傑!」
「隊長達を圧倒している!」
炎皇は豪快に笑った。
「はっはっは!」
「面白ぇじゃねぇか!」
水帝も静かに頷く。
「見事だ。」
ギルドマスターは腕を組みながら微笑んだ。
「これが百華繚乱。」
「人類最強の新世代か。」
ただ一人。
剣聖だけは黙ったまま五人を見つめていた。
その視線には、先程までの疑念はもうなかった。
だが次の瞬間。
ズォォォォォ……
魔大陸の奥底から、さらに巨大な魔力が戦場を包み込む。
今までの隊長達とは比べ物にならない。
空気そのものが震え始める。
闇風が静かに目を細めた。
「……来る。」
その一言で、百華繚乱の表情が引き締まる。
隊長戦は終わった。
本当の戦いは、ここから始まる。
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