第121話:英傑会議
執筆再開ー
王都中央区――冒険者ギルド本部。
その最上階にある大会議室には、かつてないほど重い空気が漂っていた。
長大な楕円形の机。
その周囲へ並ぶのは、人類最強と称される十二英傑達。
そして、その末席に座る五人の若き冒険者。
青真は静かに室内を見渡した。
水帝。
炎皇。
聖騎士。
剣聖。
他にも名だたる英雄達が並んでいる。
「すごい面子。」
アルナが小声で呟く。
「緊張してるの?」
メグが肩を竦める。
「ちょっとだけ。」
「あたしでも名前くらい知ってる英雄ばっかりだし。」
カレンは背筋を伸ばしたまま静かに座っている。
闇風だけは腕を組み、英傑達を観察していた。
その視線はまるで敵戦力を分析するアサシンのものだった。
やがて会議室の扉が開く。
ギルドマスターが姿を現した。
「全員揃ったな。」
低い声が室内へ響く。
「これより、緊急戦略会議を開始する。」
机の中央へ巨大な魔法地図が投影された。
そこに映るのは、黒く染まった大陸。
「魔大陸……。」
青真が小さく呟く。
ギルドマスターは頷いた。
「現在、魔王軍は魔大陸全域を掌握。」
「各地に幹部級戦力を配置し、侵攻準備を進めている。」
「このまま放置すれば、人類側は確実に押し切られる。」
室内が静まり返る。
その沈黙を破ったのは、水帝だった。
「海皇討伐以降、奴らの動きが急激に活発化している。」
「四神獣の力を警戒している可能性が高い。」
炎皇も腕を組む。
「ならば先手を打つべきだな。」
「待て。」
鋭い声が響いた。
発言したのは、長い白髪を後ろで束ねた男。
腰には一本の細身の剣。
十二英傑の一人――剣聖だった。
剣聖はゆっくりと青真達へ視線を向ける。
その眼差しは厳しい。
「ギルドマスター。」
「まさか、その若造達を今回の作戦へ参加させるつもりではあるまいな。」
会議室の空気が一変した。
アルナが眉をひそめる。
メグも僅かに不機嫌そうな顔をした。
だが青真は表情を変えない。
剣聖は淡々と続ける。
「四神獣を宿した?」
「だから何だ。」
「実戦経験は我々の十分の一も無い。」
「戦争はダンジョン攻略とは違う。」
「若造を最前線へ立たせるなど愚策だ。」
厳しい言葉だった。
しかし、その声に感情的な侮蔑は無い。
純粋な実力主義者の判断だった。
闇風が小さく舌打ちする。
「……言ってくれる。」
だが青真は静かに手を上げ、闇風を制した。
そして剣聖を真っ直ぐ見返す。
「そうですね。」
その返答に、剣聖の眉が僅かに動いた。
「だから、証明します。」
青真の声は静かだった。
だが、その一言には確かな自信が込められていた。
水帝が小さく笑う。
炎皇も興味深そうに目を細めた。
そしてギルドマスターは、静かに頷いた。
会議室は静まり返っていた。
青真の「証明します」という一言だけが、まだ重く残っている。
剣聖は腕を組んだまま五人を見据えていた。
その鋭い眼差しは、一切揺らがない。
その沈黙を破ったのはギルドマスターだった。
「証明なら、もう終わっている。」
低く重い声が会議室へ響く。
机の上へ一冊の報告書が置かれる。
海皇討伐。
四神獣との契約。
A級ダンジョン完全攻略。
その全てが正式記録として記されていた。
「これだけの功績を短期間で成し遂げた冒険者は存在しない。」
ギルドマスターはゆっくりと全員を見渡す。
そして静かに胸を張った。
「断言する。」
「こいつらは、この場へ座る資格がある。」
炎皇が豪快に笑った。
「はははっ!」
「そこまで言われちゃ反対する理由はねぇな!」
水帝も腕を組みながら頷く。
「海皇討伐の時点で実力は認めている。」
「問題は経験だけだった。」
それでも剣聖だけは口を開かない。
納得したわけではない。
ただ、これ以上反論もしなかった。
賢者が魔法陣を展開する。
巨大な立体地図が会議室中央へ映し出された。
そこに映るのは魔大陸全域。
無数の赤い光点が各地で脈動している。
「赤は隊長級。」
「青は軍団長。」
「黒が幹部級です。」
「そして中央。」
賢者が静かに指を向ける。
巨大な黒い城。
魔王城だった。
「現在、魔王軍は完全防衛体勢。」
「こちらが攻め込まなければ、人類側に勝機はありません。」
ギルドマスターは地図の前へ歩く。
腰の剣を抜き、魔大陸へ突き立てた。
部屋の空気がさらに張り詰める。
全員の視線がギルドマスターへ集まった。
「人類連合軍を三軍へ分ける。」
「第一軍は王立騎士団。」
「第二軍は冒険者連合。」
「第三軍は十二英傑。」
その言葉に英傑達は静かに頷く。
そしてギルドマスターは青真達を見る。
「蒼剣、黒影、錬金女王、戦姫、弓姫。」
「お前達には十二英傑直属遊撃隊を任せる。」
「最前線を突破し、敵戦力を攪乱。」
「状況次第では隊長級、軍団長級との交戦も想定している。」
青真は静かに立ち上がった。
「了解しました。」
闇風は小さく笑う。
「ようやく本番か。」
アルナは拳を握る。
「思い切り暴れられそうね。」
メグは魔導之杖を抱え直した。
「準備はできてる。」
カレンも新たな盾へ静かに触れる。
「必ず任務を果たします。」
ギルドマスターは満足そうに頷いた。
「これより。」
「人類連合軍による魔大陸侵攻作戦を開始する。」
宣言と同時に会議室の全員が立ち上がる。
誰一人として迷う者はいない。
それぞれが己の武器を手に取り、静かに歩き出した。
世界の命運を懸けた戦いが、ついに幕を開ける。
王都上空。
数十隻もの巨大飛空艇がゆっくりと浮かび上がる。
王立騎士団。
冒険者連合。
十二英傑。
王都中の人々が空を見上げ、その出撃を見送っていた。
青真は銀河へそっと手を添える。
闇風は短剣を回しながら不敵に笑う。
カレンは玄武戦姫となった盾を握り締める。
アルナとメグも互いに頷き合った。
五人の視線は、遥か彼方の魔大陸だけを見据えていた。
――人類史上最大の反撃が、今始まる。
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