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第120話:玄盾武

ゴゴゴゴゴゴゴ……。


黄金色の瞳がゆっくりと開く。

玄盾武は静かに立ち上がった。

その巨体が動いただけで、大地そのものが震え始める。

周囲の岩壁から小石が次々と崩れ落ちた。


重苦しい地響きが盆地全体へ響き渡る。

四神獣最後の一柱。

その圧倒的な存在感に、百華繚乱の全員が自然と武器を構えた。

本当の戦いが始まる。


「来る!」


青真が銀河を握り締める。

未来予知を発動。

数秒先の未来が脳裏へ流れ込む。

その未来を見た瞬間、青真は大きく叫んだ。


「全員右へ跳べ!!」


百華繚乱は反射的に飛び退く。

次の瞬間。


ズドォォォォン!!


五人が立っていた場所から巨大な岩柱が一斉に突き上がる。

一本ではない。

二本。

三本。

十本以上もの岩槍が地面を埋め尽くした。


「地属性魔法か!」


アルナが着地しながら叫ぶ。

メグも魔導之杖を握り直し、周囲を見渡した。

ここまで広範囲の魔法は今まで見たことがない。

まさに神獣の力だった。


玄盾武は一歩も動かない。

巨大な前脚をゆっくり持ち上げる。

そして。


ドンッ!!


踏み下ろした瞬間、大地全体が激しく揺れた。

山肌が崩れ、巨大な岩石が次々と転がり落ちてくる。

盆地そのものが攻撃へ変わっていた。


「避けろ!」


青真の指示が飛ぶ。


未来予知で落石の軌道を読み切る。

銀河を振るい、一つ目を斬る。

さらに二つ目。

三つ目。

巨大な岩を正確に切り裂きながら仲間の進路を確保していく。


闇風は神速で岩の隙間を駆け抜ける。

アルナは風魔法で身体を浮かせる。

メグは補助魔法を維持しながら着地を繰り返した。

カレンは正面から落石を受け止め、仲間を守っていた。


「はぁっ!!」


ガキィィィン!!


銀の剣が岩を受け流す。

一つ。

二つ。

三つ。

重い一撃にも表情一つ変えず、正確に弾き返していく。


その姿を見ながら、青真は玄盾武から視線を逸らさなかった。

未来予知を維持したまま、小さく口元を緩める。


「なるほど。」


「やっぱりそうか。」


玄盾武は自分から近付いてこない。

その場を動かず、侵入者を迎え撃つだけ。

攻撃ではなく迎撃。

まるで自分達を試しているようだった。


「ゲームなら。」


青真が静かに呟く。


「こういうボスには必ず攻略法がある。」


その一言に、闇風達も頷く。

百華繚乱の戦いは、まだ始まったばかりだった。



「一度整理する。」


青真は銀河を肩へ担ぎ、玄盾武を見据える。

未来予知を維持したまま、全員へ視線を向けた。

ここで焦っても意味はない。

攻略法は必ず存在する。


「物理攻撃は全部無効。」

「魔法攻撃も全部無効。」

「属性攻撃も反応なし。」

「急所も存在しない。」


闇風が静かに頷く。


「首。」

「腹。」

「関節。」

「全部試した。」


「傷一つ付かなかった。」


メグも魔導之杖を下ろす。


「炎も駄目。」

「錬金術も効かない。」

「状態異常も全部無効。」

「完全耐性ね。」


アルナが苦笑する。


「本当に倒せるの?」


「こんなの反則じゃない。」


青真は小さく笑った。


「いや。」


「特殊勝利系のボスだ。」


全員が青真を見る。


「ゲームにはたまにいる。」


「HPを削るんじゃなく、特定条件を満たすことでクリアするボス。」


「俺達はまだ、その条件を満たしてない。」


その瞬間だった。


ゴゴゴゴゴゴゴ……。


玄盾武の足元へ巨大な魔法陣が展開される。

先程までとは比較にならない魔力。

未来予知が激しく反応した。


「来る!」


「全員散開!!」


ズドォォォォォン!!


大地が裂ける。


巨大な岩柱が四方八方から突き上がり、逃げ場を完全に塞いだ。

山そのものが襲い掛かってくるような猛攻。

五人は全力で回避へ移る。


闇風は神速で岩柱の隙間を駆け抜ける。

青真は未来予知で安全な道だけを選び続ける。

メグは補助魔法を維持しながら後退する。

アルナは風魔法で身体を浮かせた。


しかし。


「しまっ!」


アルナの着地点を巨大な岩柱が塞ぐ。


右も左も逃げ道はない。

避け切れない。


その瞬間。


「アルナ!」


カレンが迷わず飛び出した。


アルナを後方へ突き飛ばし、自らがその前へ立つ。

銀の剣を両手で構え、真正面から岩柱を迎え撃つ。


ドォォォォン!!


凄まじい衝撃。


腕が軋む。

足元が砕ける。


それでもカレンは一歩も退かなかった。


さらに二本。


三本。


四本。


玄盾武は容赦なく岩柱を放ち続ける。


ガキィィィン!!


ガキィィィン!!


受ける。


受け止める。


仲間の前へ、一撃たりとも通さない。


「カレン!」


青真が叫ぶ。


それでもカレンは振り返らない。


「私は騎士です。」


静かな声だった。


「仲間を守る。」


「それが私の戦う理由です。」


「誰一人、傷付けさせません。」


その言葉を聞いた瞬間。


玄盾武は全ての攻撃を止めた。


黄金色の瞳が、静かにカレンを見つめる。


『守る者。』


重厚な声が、全員の脳裏へ直接響いた。


『汝、守護の心を証明した。』


『資格あり。』


その瞬間、カレンの剣が眩く輝く。


純白の光が刀身を包み込み、鍔が左右へ展開した。


ガシャン。


展開した鍔は巨大な盾へ変形する。


黒銀色の盾には玄武の紋章が浮かび上がり、地属性の魔力と神聖な光が渦を巻く。


「これが……。」


カレンは静かに息を呑む。


『真武解放――聖盾結界。』


盾から純白の光が溢れ出す。


ドーム状の聖なる結界が仲間全員を包み込んだ。


直後。


玄盾武が最後の試練として巨大な岩槍を放つ。


ズガァァァァン!!


大地を砕く一撃。

しかし聖盾結界は微動だにしない。

岩槍は光へ触れた瞬間、音を立てて砕け散った。


玄盾武は満足そうに目を細める。


『守護とは力ではない。』

『守り抜く覚悟こそ真の力。』

『我が力、汝へ託す。』


巨体が光の粒子となり、ゆっくりとカレンの剣へ吸い込まれていく。


四神獣最後の力が宿った。

青真は静かに笑う。


「これで……。」


「全員揃ったな。」


数日後。


魔王軍討伐の旅を一旦終えた五人は王都へ帰還する。


冒険者ギルドへ足を踏み入れると、受付嬢が慌てて駆け寄ってきた。

「皆さん!」

「ギルドマスターがお待ちです!」


5人顔を見合わせ、小さく頷く。

全ての四神獣を宿した今。

いよいよ、本当の戦いが始まろうとしていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました!これで第三部異世界編は完結となり次話からは四部融合世界編となります。引き続き応援よろしくお願いします!

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