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第119話:盾の神獣

白雷虎との激闘を終えた百華繚乱は、そのまま南西へ歩みを進めていた。

四神獣は残り一柱。

最後の神獣――玄盾武。

青真達は魔王軍討伐の旅を続けながら、その気配を追っていた。


数日後。

一行の前へ巨大な山岳地帯が姿を現す。

切り立つ断崖。

果てしなく続く岩山。

そこは生命よりも岩が支配する大地だった。


「ここか。」


青真が静かに呟く。

闇風は目を閉じ、気配察知を広げた。

数秒後、ゆっくりと目を開く。

「……いる。」

「今までで一番大きい気配だ。」


「いよいよ最後の神獣ね。」


アルナが弓を握り直す。

メグも魔導之杖を軽く握り直した。

カレンは静かに周囲を見渡し、地形を確認している。

全員が自然と戦闘態勢へ入っていた。


しばらく進むと、巨大な盆地へ辿り着く。

その中央には、一つの黒い岩山が鎮座していた。

近付くにつれ、それが岩ではないことに気付く。

巨大な甲羅。

鋼のような四肢。


長い蛇の尾。

黄金色の瞳は静かに閉じられたまま。

まるで山そのものが眠っているような威圧感だった。

「玄盾武……。」

カレンが小さく呟く。


「まだ眠ってるな。」


青真は腕を組み、静かに玄盾武を見つめる。

そして口元を僅かに緩めた。


「いきなり全力はなし。」

「まずは性能確認。」


その一言に、闇風が小さく笑う。


「ゲームなら基本だ。」


メグも頷いた。


「まず敵の性能を把握する。」

「それから攻略法を考える。」


百華繚乱の五人は、それぞれ自然に役割を理解していた。

世界最高峰のゲームプレイヤーとして培った経験。

未知の強敵ほど、まず情報を集める。

それが彼らの戦い方だった。


「まずは無属性。」


青真は右手を前へ突き出す。

掌へ魔力が集まり、白い光球が生まれる。


「マナショット。」


ドンッ!!


光弾は一直線に飛び、玄盾武の甲羅へ命中した。

しかし土煙が晴れても、傷一つ付いていない。

玄盾武は眠ったまま微動だにしなかった。


「予想通りか。」


青真は表情を変えない。

すぐに次の検証へ移る。


「圧縮弾。」


魔力を極限まで圧縮する。

通常より遥かに高密度となった魔力弾が、轟音と共に撃ち放たれた。


ズドォォォン!!


先程とは比べ物にならない衝撃が盆地へ響く。

地面が揺れ、岩壁へ亀裂が走る。

それでも玄盾武の甲羅には、小さな傷すら刻まれなかった。


「物理耐久……異常。」


青真は静かに分析する。


「次は属性を試す。」


銀河へ宿る朱炎雀の魔力を流し込む。

赤く染まった魔力弾が玄盾武へ飛ぶ。


続けて青氷龍の魔力。

蒼く輝くエンチャントマナショットが命中する。


炎。


氷。


どちらも甲羅へ吸い込まれるように消え、目立った変化は何一つ起きなかった。


「属性耐性まで高いのか……。」


青真は静かに銀河を握り直す。

その横では闇風も既に動き始めていた。


「俺も試す。」


闇風は短く呟くと、その場から音もなく姿を消した。

黒い残像だけを残し、一瞬で玄盾武の背後へ回り込む。

狙うのは甲羅ではない。

関節。


キィン!!


毒影の短剣が前脚の付け根を斬り裂く。

しかし返ってきたのは金属を斬ったような硬い感触だけだった。

刃は弾かれ、傷一つ付いていない。


「関節も駄目か。」


闇風はすぐに位置を変える。

首元。

腹部。

蛇の尾との接続部。

考えられる急所を次々と斬り付ける。


だが結果は全て同じだった。

斬撃は悉く弾かれる。

弱点らしい弱点は見当たらない。


「完全装甲だ。」


闇風は静かに距離を取った。


「次、私。」


メグが前へ出る。

魔導之杖を掲げ、朱炎雀の炎を宿した魔法陣を展開する。

高熱の火球が玄盾武を包み込み、盆地全体が紅く染まった。


轟音と共に炎が吹き荒れる。

岩石すら溶かすほどの熱量。

しかし炎が消えた先にいた玄盾武は、変わらずその場で眠っていた。


「うそでしょ……。」


メグは目を見開く。

「炎でも駄目……。」

「熱耐性まであるの?」


アルナもすぐに続く。

風を纏った矢を番え、一気に放つ。

狙うのは瞳。

甲羅ではなく、防御の薄そうな部分だった。


シュッ!!


矢は真っ直ぐ黄金の瞳へ向かう。

その瞬間。


ガコン。


玄盾武の瞼が静かに閉じる。

矢は岩へ当たったかのように弾かれ、地面へ転がった。


「目まで硬いの!?」


アルナが思わず声を上げる。

続けて口元、喉元、尾の付け根。

次々と狙いを変える。

しかし一本たりとも有効打にはならなかった。


「攻略法が見えない……。」


アルナは悔しそうに弓を下ろす。


「最後に俺だ。」


青真は銀河を構える。

未来予知を発動しながら、一気に踏み込む。

まずは通常の斬撃。


ガキィィン!!


火花だけが散る。


続いて氷属性を纏わせた銀河。

さらに炎属性。

どちらも僅かな反応すら見せない。


「なら――。」


青真は大きく跳躍する。

空中へ無数の蒼い斬撃が生まれた。


「星剣乱舞!!」


無数の斬撃が四方八方から玄盾武へ降り注ぐ。

盆地全体へ轟音が響き、土煙が天高く舞い上がった。


やがて静寂が訪れる。


全員が煙の向こうを見つめた。


「……どうだ。」


煙が晴れる。


そこには。


星剣乱舞を真正面から受けてもなお、傷一つ付いていない玄盾武が静かに佇んでいた。


「ここまでか。」


青真は静かに銀河を下ろす。

これで全て試した。


物理攻撃。

魔法攻撃。

属性攻撃。

急所狙い。

多方向同時攻撃。


どれも通用しない。


その時だった。


ゴゴゴゴゴゴ……。


大地がゆっくりと揺れ始める。

閉じられていた黄金色の瞳が、静かに開いた。

玄盾武はゆっくりと立ち上がる。


百華繚乱は息を呑んだ。


――本当の戦いが、今始まろうとしていた。


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