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第118話:黒雷閃

キィィィィン!!


鋭い金属音が雷鳴山脈へ響き渡る。

青白い雷光。

黒い残像。

二つの影は、常人では決して視認できない速度で激突を繰り返していた。


踏み込むたびに雷が弾ける。

衝撃波だけで岩肌が砕け、周囲へ砂煙が舞い上がる。

百華繚乱の誰一人として、その戦いへ割って入ることはできなかった。

そこは既に、神速だけが支配する領域だった。


「速すぎる……。」


アルナは思わず息を呑む。

弓を構えていても照準が定まらない。

姿が見えない以上、援護することすら不可能だった。

悔しそうに唇を噛み締める。


「私でも追えません。」


カレンも剣を構えたまま目を凝らす。

剣士として鍛え上げた動体視力でも、二人は残像しか映らない。

神速同士の戦い。

そこは自分の届かない世界だった。


「闇風……。」


メグは魔導之杖を握り締める。

補助魔法だけは維持し続けるが、それ以上は何もできない。

仲間を信じるしかない。

その表情には僅かな焦りが浮かんでいた。


青真だけは静かに目を閉じる。


「未来予知。」


数秒先の未来が脳裏へ流れ込む。

ようやく見える。

白雷虎。

闇風。

二つの軌道だけは辛うじて捉えられた。


「未来予知がなければ……。」


青真は苦笑する。


「俺でも見失う。」


それほどまでに速い。

未来は見える。

だが、その未来へ到達する速度が異常だった。


バチィィィッ!!


再び雷鳴が轟く。

白雷虎の爪が闇風の肩を掠める。

闇風は身体を半歩だけ捻り、紙一重で致命傷を避ける。

そのまま毒影の短剣を一閃した。


ガキィィン!!


白雷虎は前脚で受け流す。

互いに一歩も譲らない。

神速と神速。

速度だけの世界では、力も魔法も意味を持たなかった。


闇風は静かに笑う。

(純粋なアジリティなら俺は蒼剣・青真も戦姫・カレンも超える!)

白雷虎が消える。

闇風も消える。

雷光が駆け抜ける。


「こんな虎に、負けん!!!」

短剣が閃く。

再び激突。

轟音。

火花。


黒い残像が雷を追い越す。

その瞳に迷いはなかった。

速度だけなら誰にも負けない。

それが闇風という男の誇りだった。


「グルルル……。」


白雷虎は低く唸る。

黄金色の双眸には、確かな闘志が宿っていた。

神獣もまた、この人間を一人の強敵として認め始めていた。


白雷虎は低く身を沈める。

全身を走る青白い雷が一気に膨れ上がり、周囲の岩肌を焼き焦がした。

その圧倒的な神気に、4人が息を呑む。


「来る!」


青真が叫ぶ。

未来予知が映した数秒先。

そこには今までとは比べ物にならない神速の一撃が待っていた。

だが、その未来へ割って入れる者は一人しかいない。


闇風は静かに短剣を握り直す。

白雷虎もまた、黄金色の双眸で闇風だけを見据えていた。

互いに動かない。

ほんの一瞬だけ、静寂が山頂を包み込む。


次の瞬間。


ドンッ!!


雷鳴と共に白雷虎が消えた。

同時に闇風の姿も掻き消える。

黒い残像と青白い雷光だけが、岩場を縦横無尽に駆け抜けた。


キィィィィン!!


一撃。


二撃。


三撃。


凄まじい速度で激突を繰り返す。

火花が散り、衝撃波だけで大地が砕けていく。

誰一人として、その攻防を目で追うことはできなかった。


「すごい……。」


アルナが小さく呟く。

メグも魔導之杖を握り締めたまま動けない。

カレンは静かに剣を下ろし、その戦いを見守っていた。


「速度なら……、闇風の勝負。」

青真は静かに呟く。

その言葉には、一切の迷いがなかった。

相棒への絶対的な信頼だけがあった。


バチィィィッ!!


白雷虎の爪が闇風の頬を掠める。

鮮血が飛び散る。

それでも闇風は止まらない。

むしろ、その口元には笑みが浮かんでいた。


「やっと追い付いた。」


誰にも聞こえないほど小さな声。


白雷虎が再び突進する。

雷鳴。

神速。

その全てを闇風は真正面から迎え撃つ。


「黒雷閃。」


その一言と同時に、闇風の姿が黒い一筋の閃光へ変わる。

雷を纏ってはいない。

ただ、落雷にも匹敵する速度だけを極限まで高めた一閃。


ザンッ!!


黒い閃光が白雷虎を駆け抜ける。

一拍遅れて、神獣の胸元へ深い斬撃が刻まれた。


「グオオオオオッ!!」


白雷虎は大きく後退する。

黄金色の瞳が闇風を見つめ、やがて静かに笑った。


「見事。」


「人でありながら。」


「雷へ届いたか。」


その巨体がゆっくりと光へ変わり始める。

無数の光の粒子は闇風の前へ集まり、一つの純白の宝玉となった。


宝玉は毒影の短剣へ吸い込まれ、刀身から青白い雷が迸る。

今まで黒く鈍い輝きだった短剣は、雷光を宿した新たな姿へ変わっていた。


「これが……。」


闇風は静かに短剣を握る。

その身体を青白い雷が優しく包み込んだ。


第三の四神獣――白雷虎。


その力は、新たな主として闇風を選んだのだった。


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