第117話:迅雷の神獣
青氷龍との激闘を終えた百華繚乱は、その足を止めることなく東へ進み続けていた。
四神獣を巡る旅は、同時に魔王軍討伐への道でもある。
立ち止まっている暇はない。
青氷龍が示した次なる地――雷鳴山脈を目指して、一行は歩みを進めていた。
数日後。
遠くの空が黒く染まり始める。
厚い雷雲が山脈全体を覆い、絶え間なく雷鳴が轟いていた。
青白い稲妻が山頂へ何度も落ち、その度に大地が低く震える。
「これが……雷鳴山脈。」
アルナが思わず息を呑む。
吹き抜ける風までもが僅かに帯電し、肌へ細かな刺激を与えてくる。
普通の山とは明らかに空気が違っていた。
「白雷虎の神気でしょう。」
カレンは静かに山頂を見上げる。
「雷鳴山脈では昔から雷が止むことはありません。」
「神獣が眠る限り、この雷雲も消えないと言われています。」
「なるほどな。」
青真は銀河へ視線を落とす。
刀身へ刻まれた蒼い紋様は、青氷龍の力を宿した証。
新たな力を得たとはいえ、慢心など一切なかった。
「気配はどうだ。」
青真が尋ねる。
闇風は静かに目を閉じる。
気配察知を最大まで広げ、山全体を探る。
数秒後、ゆっくりと目を開いた。
「山頂。」
「とんでもなく強い気配が一つ。」
「間違いなく神獣だ。」
その言葉に全員が頷く。
「行きましょう。」
メグが魔導之杖を握り直す。
朱炎雀の魔力が静かに揺らめき、一行は雷鳴山脈へ足を踏み入れた。
山道は険しかった。
足場は岩だらけ。
頭上では絶え間なく雷が走る。
さらに雷属性の魔物達が次々と姿を現した。
「サンダーウルフ!」
アルナの矢が風を纏って飛ぶ。
一匹目を貫いた直後、闇風が二匹目の背後へ回り込み、一瞬で首を刎ねた。
カレンも迷いなく前へ出て、残る魔物を斬り伏せる。
「マナショット。」
青真の光弾が最後の一匹を撃ち抜き、戦闘はあっという間に終わった。
「ここまでは問題ないな。」
青真が辺りを見渡す。
しかし。
闇風だけは短剣を構えたまま動かなかった。
「どうした?」
「……いる。」
短い返答。
闇風は険しい表情で山頂を見据えていた。
「さっきからずっと。」
「俺達を見ている。」
その瞬間だった。
ゴロゴロゴロゴロ……!!
今までとは比べ物にならない雷鳴が山全体を揺らす。
巨大な雷が山頂へ落ち、黒雲が大きく渦を巻いた。
5人は自然と武器を構える。
神獣。
白雷虎との距離は、もうすぐそこまで迫っていた。
ゴロゴロゴロゴロ……。
山頂へ辿り着いた百華繚乱の前には、巨大な岩場が広がっていた。
その中央へ幾筋もの雷が絶え間なく落ち続けている。
大気は青白く帯電し、呼吸をするだけで肌が痺れるほどだった。
バチィィィィッ!!
ひときわ巨大な雷が岩場の中央へ落ちる。
眩い閃光が周囲を包み込み、全員が思わず目を細めた。
やがて光が消えると、一頭の巨大な白虎が静かに立っていた。
純白の体毛。
黄金色の双眸。
全身へ走る青白い雷。
その姿はまさに、雷を統べる神そのものだった。
「グルルルルル……。」
低い唸り声だけで空気が震える。
「白雷虎……。」
青真は銀河を静かに抜く。
その隣で闇風も毒影の短剣を構え、神獣を真っ直ぐ見据えた。
「行くぞ!」
その合図と共に全員が動き出す。
アルナは風を纏った矢を放つ。
メグは魔導之杖から光弾を撃ち出し、カレンは真正面から一気に距離を詰めた。
青真は未来予知を発動し、白雷虎の動きを読み始める。
しかし。
バチッ!!
白雷虎の身体へ雷が走った瞬間、その姿が消えた。
「なっ!?」
アルナが目を見開く。
次の瞬間には、白雷虎は十数メートル離れた岩の上へ立っていた。
誰一人、その移動を視認できなかった。
「未来予知!」
青真は数秒先を覗く。
白雷虎の軌道は見える。
だが。
「速すぎる……!」
見えていても身体が追い付かない。
これほどの速度は、今までの敵とは次元が違っていた。
「マナショット!」
光弾を放つ。
しかし白雷虎は雷光と共に消え、マナショットは岩場を砕くだけに終わる。
「当たらない!」
アルナが悔しそうに唇を噛む。
「私でも追い切れません!」
カレンも剣を構え直す。
メグは周囲を警戒しながら補助魔法を展開した。
「次が来ます!」
その瞬間。
ドンッ!!
白雷虎が再び姿を消す。
雷鳴だけが山頂へ轟き、誰もその姿を捉えられない。
「どこだ!」
青真は未来予知を続ける。
未来は見える。
だが、その速度は予知した未来へ一瞬で到達してしまう。
「来る!」
青真が叫んだ瞬間。
一つの黒い影が雷光へ向かって飛び出した。
闇風だった。
白雷虎も黄金色の瞳を細める。
次の瞬間。
黒い残像と青白い雷光が真正面から激突する。
キィィィィン!!
鋭い金属音が山頂へ響き渡る。
見えるのは雷。
そして黒い残像。
神速。
その領域へ踏み込めたのは、闇風ただ一人だった。
読んでいただきありがとうございました!もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援してもらえると励みになりま
す!




