第12話:解放されるチート
「ターゲット、地下駐車場へ侵入。……完全にハメられたとも知らずに、メグの流した『囮(ループ映像)』を追いかけてるわ」
イヤホンからメグの緊迫した声が響く。
場所は休業中の商業施設、その地下2階駐車場。防犯カメラの映像をメグが偽装し、第四師団長のスマホには「青真たちが奥へ逃げ込んでいく映像」が映っているはずだ。だが、実際の俺たちはすでに、照明が落された暗闇の各ポジションに配置を完了している。
ドゴォン!!
駐車場の重い防火扉が蹴り破られ、優に2メートルを超える巨躯――第四師団長が姿を現した。
「オラァッ! どこへ隠れたもやし野郎どもォ! カメラ映像じゃ、この奥に映ってんだよォ!」
男は激昂しながらスマホと周囲の暗闇を交互に見合っている。カメラの嘘の映像を盲信しているあいつは、目の前の現実の暗闇に激しい混乱を起こしていた。
「今だ、メグ! 『環境ハック』開始!」
「『了解』、サブマスター! シャッター、クローズ!」
俺の指示と同時に、メグが駐車場の非常用シャッターを遠隔で完全に閉鎖する。これで外光は一切遮断され、空間は一寸先も見えない「完全な暗闇」と化した。
「あァ!? クソが、電気が消えやがった……!」
「おい、筋肉ダルマ。こっちだ。俺のステータス(位置情報)が知りたきゃ、教えてやるよ」
俺はあえて暗闇の中で声を張り上げ、敵のヘイト(敵意)を自分へと誘導した。
「そこかァッ!!」
第四師団長が凄まじい足音を立てて突進してくる。だが、俺は声を出した瞬間にその場を離脱している。男の拳が柱を空振りした。フレーム硬直だ。
「一条さん、今だ! 敵の硬直を突け!」
「——そこッ!」
暗闇に目が慣れている一条さんが、男の背後から鋭い一撃を叩き込む。
「ぐはっ!? どこから……!」
「闇風、一条さんの攻撃に合わせてチェインだ! 左から回り込め!」
「御意……!」
一条さんがヘイトを固定している隙に、闇風が音もなく左側から男の膝裏を正確に切り裂く。
「がはっ!? 貴様ら、見えてやがんのか……っ!」
「見えてないのはお前だけだ! メグ、足止めを!」
「特製『超粘着スプレー』、いくよ!」
後方からメグが放った液体が、男の足元で爆発的に広がり、床とブーツを完全に接着した。
「なっ、足が動かねえ……!」
完全に視界を奪われ、足を止められた大男。無敵を誇った第四師団長が、完全に俺たちのシステムハックによってハメ殺しの檻に閉じ込められた。
「一条さん、右へ3歩下がって最大火力! 闇風、トドメを刺せ!」
「これで……終わりよッ!」
「仕る……!」
二人の必殺の追撃が、男の巨躯に完璧に炸裂した。勝った――そう確信した、次の瞬間だった。
「――あァ? 舐めるんじゃねえぞ、クソガキどもがよォ」
暗闇の奥から、ドス黒い殺気が膨れ上がる。男は立ち上がると、鬱陶しそうに自身の両手首と両足首に巻かれていた、ずっしりと重い『鉄のお守り』を乱暴に引きちぎり、床へ投げ捨てた。
ドガァン!!!
ただのブレスレットとアンクレットのはずが、床のコンクリートを粉砕して激しい地鳴りを響かせる。
(嘘だろ……あいつ、あれだけのイカれた速度で動きながら、四肢に『重量デバフ(重り)』を仕込んで戦ってたのかよ……!?)
「ハハッ! 軽ぇ、最高に軽ぇわ! 視界がねえなら、このエリアごと叩き潰してやるよォ!」
真の力を解放した第四師団長が、咆哮とともに地面を殴りつけた。
凄まじい衝撃波が地下駐車場を駆け抜ける。コンクリートの床がひび割れ、天井からボロボロと土砂が崩れ落ちてくる。チートというレベルではない、ステージそのものを破壊するリアルな絶望のパワー。
「くっ……全員、退避だ! ここが崩れるぞ!」
俺たちはハメ技の維持を諦め、命からがら後方へと飛び退いた。
砂煙と崩落の轟音の中、第四師団長はひしゃげた鉄扉を片手でこじ開け、忌々しそうに俺たちを睨みつける。
「もやし野郎。その小賢しいハメ技、次は通用しねえからな。首を洗って待ってろよォ!」
大男はそう言い残すと、崩落していく通路の奥へと姿を消した。
「ハァ、ハァ……っ」
激しい砂煙の中、俺はへたり込み、冷や汗で濡れた手を強く握り締めた。
せっかくの完璧な作戦を、圧倒的な「真のフィジカル」だけで強引に破られた。
あいつはまだ、本気を出していなかったのだ。
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